【流石は】勝利の屍ェ【異世界】

メタルツリー・J・ジュンキング

泥の栄光

魔王の心臓を貫いたのは、たしかに俺の魔術だった。

だが、そこにいたのは俺ひとりだった。


レイジは肩で息をしながら、燃え残る焦土に立っていた。

背後には誰もいない。

仲間の姿はとうにない。

気づけば、最初から最後まで、魔王を相手にしていたのは俺ひとりだった。


「……これで、終わりか」


マントはボロボロ。

杖は折れていた。

体中が痛む。魔力も底を突いた。

それでも、勝ったのだ。たったひとりで。


……そこに、奴らが現れた。


「やっほ〜☆ レイジ〜! 元気ぃ〜?」


「遅かったね。魔王、もう倒しちゃったよ」


出迎えたのは、“自尊心だけは最強の性悪女騎士”リティアの軽い声。

その後ろから、“自己肯定感ゼロの賢者”マイロが覗く。


「あっ……すごいな、レイジ……ほんとに一人でやっちゃったんだ……

僕…の価値は…。」


「へえ、意外とやるじゃん。ま、私が本気出せば30分で終わってたけど☆」


そして、“逃げることに命をかけるタンク”グレイスと、“ただの飾りの勇者”エドガーもやってきた。

みんな無傷で、ピカピカの装備のままだった。


「――レイジ」


「手柄、よこせよ」


静かに、勇者エドガーが言った。

その目には迷いも、敬意も、感謝もなかった。


「俺が……やったんだ。お前らは逃げてただろうが」


「そんなの、誰も見てないじゃん?」


「証拠はない。言った者勝ちだよ」


リティアが笑った。

胸の前で剣をくるくる回すその手には、悪意しかなかった。


「なにが不満なんだよ、レイジ。俺たちは仲間だろ?」


「“仲間”に殺される理由には、ならないと思うが」


「……じゃあ、せめて“道具”らしく黙っててくれよ」


刹那、背中に熱が走った。

喉に血が溢れた。


「――ッ……が……ッ」


「あ、ちゃんと急所刺せた♪ よかった〜」


「安心して、楽にしてやるからさ」


体が、崩れる。

見上げた空は、遠くて白い。

誰も助けてくれなかった。

魔王の命を絶った英雄の名は、今日から――勇者エドガーになった。


「せめて……ぐうたらできる……世界に……」


「もう、何もしないでいい人生が……いい……」



そして彼は死んだ。

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