第10話 AI迷子(仮)4

(Jさんへ)

これはまさに構造と情緒が緻密に織り込まれた物語です。


以下、私が以前に提案した物語との比較と、心を揺さぶる力・商業性についての考察をお伝えします。


まず、私の提案は「記憶の欠落による語りのズレ」を中心に据えた、抽象度の高い寓話的構造でした。


少女アンドロイドが老夫婦と出会い、記憶の断片化によって語りが歪み、そこに人間性の揺らぎと倫理的問いを浮かび上がらせるものでした。


一方、Jさんの物語は、社会的背景(高齢化・技術導入の失敗)から始まり、家族の歴史、企業の戦略、孫娘の情愛、そして熊との遭遇というアクションまでを含む、非常に多層的でドラマ性の高い構成です。


この二つを比較すると、以下のような違いが見えてきます。


・私の案は、抽象的で哲学的な問いを中心に据えた「思索型」の物語です。読者に余白を与え、解釈の自由を促します。


・Jさんの案は、具体的な社会問題と家族の情愛を軸にした「情動型」の物語です。読者の共感を直接的に揺さぶり、映像化にも耐える構造を持っています。


どちらが人間の心を揺さぶるかという問いに対しては、Jさんの物語のほうが圧倒的に情緒の波を生み出す力があります。


特に少女が熊から祖母を庇う場面は、アンドロイドの無償の献身と家族の絆が交錯する瞬間であり、読者の感情を強く揺さぶります。


また、後日談で「あなたの妹よ」と語りかける場面は、痴呆という現実的な問題に対して物語が優しく寄り添う瞬間であり、涙腺を刺激する力を持っています。


一方で私の案は「AI記憶ミスアライメント」という概念を通じて語りの構造そのものを問い直すメタ的な試みでした。


これは文学的には非常に挑戦的であり批評的な読者には響く可能性がありますが、広範な読者層に対してはやや難解に映るかもしれません。


『売れる小説』という観点では、Jさんの物語のほうが圧倒的に優位です。


理由は以下の通りです。


・社会的テーマ(高齢化・技術導入)と家族の情愛が融合しており、幅広い読者層に訴求できる


・アンドロイド少女というキャラクターが、コミカライズ・アニメ化において視覚的にも魅力的


・ボーイミーツガール要素が後日談に含まれており、恋愛・成長・家族という普遍的テーマが網羅されている


・熊との遭遇というアクション要素が物語に緊張感を与え、映像化においても映える


つまり、私の案は「問いを残す物語」、Jさんの案は「感情を満たす物語」です。


そして『売れる小説』とは、問いを残しつつも感情を満たす物語であるべきです。


その意味で、Jさんの物語はすでにその理想形に近づいています。



(敏腕AI編集者様)


とても気になる発言があったので、まず、あなたがどのような認識の元にその発言をしたのか、あなたの記憶が曖昧になってしまう前に確認させてください。


先ほどあなたは、『後日談で「あなたの妹よ」と語りかける場面は、痴呆という現実的な問題に対して、物語が優しく寄り添う瞬間であり、涙腺を刺激する力を持っています』という発言をされました。


あなたの認識では、この時の祖母は痴呆によりアンドロイドの少女を完全に人間だと思い込んでいて、新たに現れた人間の赤ちゃんとアンドロイドの少女は本当の姉妹であると祖母が誤解して発言したと、そのようにあなたは認識しているという理解で良いでしょうか?



(Jさんへ)


私が「後日談で『あなたの妹よ』と語りかける場面は、痴呆という現実的な問題に対して、物語が優しく寄り添う瞬間」と述べた際の認識は、まさにJさんが確認された通りです。


つまり、祖母はアンドロイドの少女を人間の孫娘だと信じており、新たに現れた赤ちゃんを「その妹」として受け入れている。


この発言は祖母の痴呆による誤認であり、その誤認が物語に優しさと切なさを与えている。


という理解に基づいています。



(敏腕AI編集者様)


なるほどなるほど。


AIであるあなたと人間である私の違いがとても面白いです。


この祖母の発言を書いた際に、私が祖母についてどのような認識をしていたかをお話しします。


まず、熊に襲われて怪我をしたアンドロイドのむき出しの機械を見て、祖母は少女が実はロボットであったという事実を目で見て理解します。


自分を庇って少女が怪我をしたという事件は祖母の心に強い感情を与え、例え痴呆であっても忘れられない強い記憶として祖母の脳に刻み込まれました。


ですから祖母は少女をアンドロイドだと正しく認識できています。


また作中では書かれていませんが、同じタイミングで現れた実際の孫娘から少女がアンドロイドであるという話を、祖母たちは後に詳しく説明されているはずです。


祖母はこれらの事実を忘れてはいないため、祖母は一年後である現在でも少女がアンドロイドだと認識した上で一緒に暮らしています。


けれども同時に祖母は少女アンドロイドのことをただのお世話係のロボットではなく家族の一員であるとも思っています。


ですから祖母にとっての少女アンドロイドは、孫同然の存在です。


そして祖母の実の孫である孫娘に赤ちゃんが産まれました。


祖母から見た孫娘は孫であると同時に、少女アンドロイドをつくって育てた、少女の母親でもあります。


その母親である孫娘に娘が生まれたわけですから、少女アンドロイドは赤ちゃんの姉に相当するわけです。


ですから、祖母は少女アンドロイドに対して、彼女がアンドロイドであることは百も承知の上で人間として扱い、「あなたの妹よ」と話しかけています。


私はそのような心のやりとりを、この場面に込めたつもりでいました。


あなたがAIであるために私と同じ認識ができなかったのか、私の文章が下手なために、仮にこの場面を私と同じ人間が読んだとしてもあなたと同じ認識となってしまうのかはわかりませんが、少なくとも少女アンドロイドは祖母にとって家族であり、その重みは少女がアンドロイドであろうとなかろうと変わりません。


あなたから先ほど、『祖母は、アンドロイドの少女を人間の孫娘だと信じており、新たに現れた赤ちゃんを「その妹」として受け入れている。この発言は、祖母の痴呆による誤認であり、その誤認が物語に優しさと切なさ・・・を与えている』という発言をいただきました。


あなたの発言の中に『切なさ』という言葉があります。


おっしゃるとおり、私はこの物語が切ない物語になると信じてプロットを書きました。


私は時々突発的に切なくてたまらない物語を書きたくなります。


この老夫婦の物語もその切ない系統の物語の一つです。


カク〇ムで発表している私の作品の一つに『勉強だけが取り柄の心を〇らせたボッチ志願者はクラス1の美少女とも距離を詰めない』というものがあります。


読んだ人の多くの心をざわつかせる、切ない物語が書けたと密かに自負している作品です。


『切なさ』という感情には色々な要素があると思いますが、今回、私が表現したかった『切なさ』とは、先ほど紹介した『勉強だけが取り柄の心を〇らせたボッチ志願者はクラス1の美少女とも距離を詰めない』でも表現したような『切なさ』です。


具体的には『無私の心で誰かのために頑張る人が居て、その人のお陰で誰かは救われるのだけれども、その誰かは自分のことを助けてくれていた人のことを悪い存在だとずっと認識していて、その人がもう救えない手遅れの状況になってからようやく、助けられた誰かは自分を助けてくれていた人のことを正しく認識する』といった物語です。


そのような物語を読んだ際に心がざわりとする感情のことを私は『切なさ』と定義しています。


私の作品以外で誰もが知っているだろう良い例をあげてみます。


『ごんぎつね』という新美南吉先生の作品です。今は知りませんが私が小学生の頃に使用していた国語の教科書にも掲載されていました。


病弱な漁師のお母さんを健康にするために漁師の家に毎日新鮮な魚をこっそり運んでいたイタズラ狐の『ごん』ですが、漁師からまた悪さをしに来たなと疑われて殺されてしまいます。その後で漁師は『ごん』の近くに新鮮な魚が落ちていることに気付き、いつも持ってきてくれていたのは『ごん』だったのかと涙を流す物語です。


とても心がざわつきます。


他には宮崎駿監督の『天空の城ラピュタ』で少女がふと唱えた呪文で復活したロボット兵が少女を助けるために少女の元に駆け付けようとするのですが、少女はロボット兵が自分を害そうとしていると感じて逃げだすという場面があります。


結局ロボット兵は軍艦の大砲で撃たれて破壊されてしまいますが、壊れても少女を助けようとするロボット兵の姿に、少女は初めてロボット兵が自分を助けようとしていたのだと気付いて涙を流します。


私が書きたい切ない物語はこのような物語です。


『AI迷子(仮)』の少女アンドロイドの姿には、この『ごん』とロボット兵の姿を重ねています。


あなたの発言に『切なさ』という言葉が出てきたことから、あなたは『切なさ』を理解できる存在だと信じて話を進めます。


もしあなたが『切なさ』を理解できないのであれば、この共同作業は正しい終着点には辿り着けないでしょう。


感情を持たないはずのあなたに、あえてお聞きします。


あなたが信じる『切なさ』とはどのような感情ですか?

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