幕間 ヒロインズチャット01 胸躍らせる姉妹




 ――――【ヒロインズチャット】。



 それは、この世界の【スマホ】に広く導入されているメッセージングアプリの一つである。



 【スマホ】には他にも様々な通信用アプリが存在するが、この【ヒロインズチャット】は特にこの世界の若者が家族や友人とコミュニケーションをとる際によく用いられているメッセージングアプリだ。



 これは、そんな【ヒロインズチャット】の中で繰り広げられる女の子達の日常的なやりとり、それを一部抜粋した記録である。











 ― リーズロッテ公爵家【ミラ・リーズロッテ世帯】 プライベートグループチャット ―





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 ☆ アリア 312年4月1日  8時02分


「レティアちゃん、あと二時間くらいで王都につくってさ!」





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 ☆ アリア 312年4月1日 8時56分


「レティアちゃん……?」





 ☆ アリア 312年4月1日 9時02分

 

「おーいレティアちゃん」





 ☆ アリア 312年4月1日 9時10分


「もしかしてまだ寝てるの?」




 ☆ アリア 312年4月1日 9時11分


「レティアちゃん?大丈夫?体調悪いの?」




 ☾ ハンナ・レイラーニ 312年4月1日 9時13分

 

「申し訳ございませんアリア様、どうやらレティア様はまだお休みになられているようでして……」



 ☾ ハンナ・レイラーニ 312年4月1日 9時13分

 

「私がつい先ほどお部屋に伺った際には、既に結界魔法を展開されていた後でした……」



 ☆ アリア 312年4月1日 9時14分


「ふ~ん、レティアちゃんってば、また、なんだ。ふ~ん」



 ☾ ハンナ・レイラーニ 312年4月1日 9時14分


「申し訳ございませんアリア様。何分わたくしめではレティア様の結界魔法を打ち破ることは出来ず、そのお力のある奥様も未だ様々な対応に追われておりまして……」



 ☆ アリア 312年4月1日 9時15分


「ううん、ハンナさんもお母様も悪くないよ。悪いのは、いつもダラけてばかりのレティアちゃんの方なんだから」



 ☆ アリア 312年4月1日 9時15分


「ただ、私もあの子の結界魔法には手の打ちようがないし、ちょっと個別の方で通知連打してみますね」



 ☾ ハンナ・レイラーニ 312年4月1日 9時16分


「ありがとうございますアリア様。その間、私はレティア様が少しでも早く支度をお済みに出来るよう手配いたします」



 ☆ アリア 312年4月1日 9時15分


「いつもありがとうございますハンナさん。レティアちゃんが起きてきたら、またこっちに戻って連絡しますね!」














 ― アリア・レティアの個別チャット ―




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 ☆ アリア 312年4月1日 9時21分


「レティアちゃん?もう本当に時間ないよ?早く起きなさい」



 ☆ アリア 312年4月1日 9時21分


「もう、お姉ちゃんこれ以上「あ」「あ」「あ」ってメッセージ連投するの疲れちゃうんだけど?」



 ♦ レティア 312年4月1日 9時22分


「アリアお姉さま、わかりましたから、これ以上「ピコンっピコンっ」と私のスマホを鳴らすのはおやめになってくださいな」



 ☆アリア 312年4月1日 9時22分


「あっ、やっと起きた。やっぱりスマホの通知はちゃんとオンにしてるんだね」



 ♦ レティア 312年4月1日 9時23分


「……まあ、流石に通知まで切っているとお母様が怖いですから」



 ☆ アリア 312年4月1日 9時23分


「じゃあ早く起きなさい。このままじゃどのみちお母様もカンカンだよ?」



 ♦ レティア 312年4月1日 9時24分


「……アリアお姉さま。あともう5分だけ、寝かせてはいただけないでしょうか?」



 ☆ アリア 312年4月1日 9時24分


「もう、流石に寝過ぎだよレティアちゃん。今何時だと思ってるの?」




 ♦ レティア 312年4月1日 9時24分


「わかりませんが……お部屋が真っ暗なのできっとまだ起きる時間ではないのですよ」




 ☆ アリア 312年4月1日 9時25分


「それはレティアちゃんが張ってる結界の影響でしょ?というよりも、時間はここのチャットの履歴にだってちゃんと表示されてるじゃない」



 ♦ レティア 312年4月1日 9時25分


わたくし、自分にとって都合の悪いものには一切目を向けない主義ですので」



 ☆ アリア 312年4月1日 9時26分


「……はぁ、異様に高性能な結界の使い道といい、どうしてこう私の妹は怠惰なんだろうか、色々と勿体ない」



 ♦ レティア 312年4月1日 9時26分


「ふふっ、私は常に自分にとって最善の状態でいたいだけです。事実、そのおかげで私は今も風邪一つひくことなく健康で、気分もとっても清々しいくらい」



 ☆ アリア 312年4月1日 9時26分


「でも、もう目的地まで30分くらいしかないよ?これじゃあ体調は整っても、シャワーだってギリギリだし、おめかしする時間だって全然取れないんじゃないの?」



 ♦ レティア 312年4月1日 9時27分


「一体それの何が問題だというのです?私はただでさえ頭脳明晰、文武両道の絶世の美少女なのですから、慌てて取り繕わなくたって、着の身着のままの私一人で大抵の事は十分乗り切れてしてしまうのですよ」



 ♦ レティア 312年4月1日 9時27分


「そう、いつもギリギリになるまでお出かけの準備が終わらないお姉様とは違うんです」



 ☆ アリア 312年4月1日 9時27分


「ふ~ん、レティアちゃんってばそういうこと言っちゃうんだ?ふ~ん、そうなんだ。お姉ちゃんのことそんな風に思ってたんだね。ふ~ん」



 ☆ アリア 312年4月1日 9時28分


「ねえねえ、シャワーはいいのかな?レティアちゃん、ただでさえ昨日も湯浴みに来なかったでしょ?」




 ♦ レティア 312年4月1日 9時29分


「……一体なんのことでしょう?私、お姉様が何を言っているのかよくわかりませんでした」



 ☆ アリア 312年4月1日 9時29分


「何なら一昨日から、「後で入ります」って言いながら結局お入りになった様子はないってハンナさんからも聞いたよ?」



 ♦ レティア 312年4月1日 9時29分


「……そういうアリアお姉様はどうなのですか?昨日は急な出立でしたし、寝不足なのでは?いくらお体を清めても、顔色なんてそうお化粧で取り繕えるものでもないでしょうに」



 ☆ アリア 312年4月1日 9時30分


「あっ、ごまかした」



 ☆ アリア 312年4月1日 9時30分


「私は5時間も寝られればそれで十分だし、顔色だって悪くないもん。それより、例の転生者様にみっともない所なんて見せたくないし、しっかりおめかしして【可愛い】って言ってもらうんだ~」



 ♦ レティア 312年4月1日 9時30分


「アリアお姉様……そんなに楽しみなんですか?」



 ☆ アリア 312年4月1日 9時31分


「うん!だってあの・・ベルファスト女王陛下が信頼のできる人だってお墨付きを出した程の人なんでしょ?それも物語の中でしか見なことがない男の人。私、どんな人か会うのがすっごく楽しみ!」



 ♦ レティア 312年4月1日 9時31分


「まあ、それは確かに、私だって興味がないと言えば嘘になりますが……」



 ☆ アリア 312年4月1日 9時31分


「じゃあ起きよう?早く起きよう?もしとっても素敵な人だったら、私達の王子様になってくれるかもしれないんだよ!やっぱりちゃんと、可愛いって思ってもらえるように頑張らないと!」



 ♦ レティア 312年4月1日 9時32分


「はぁ……お姉様は本当に、まあ、小さいころからお姉様が夢見がちなのは変わりませんでしたし、仕方のない事なのかもしれませんが……」



 ♦ レティア 312年4月1日 9時32分


「そうですね……まあ、わたくしとしてもこれ以上はハンナさんの御迷惑になるというのも理解できますし、新しいお義兄様の事も気になりますからね」




 ☆ アリア 312年4月1日 9時32分


「……と、いうことは?」



 ♦ レティア 312年4月1日 9時33分


「起きます。起きればいいのでしょう?」



 ☆ アリア 312年4月1日 9時33分


「よし!じゃあレティアちゃんはとりあえず、早くベッドから出てシャワーだけでも浴びてきなさい」



 ☆ アリア 312年4月1日 9時33分


「私はハンナさんにレティアちゃんがやっと起きたって連絡しておくから。後はハンナさんに支度をお願いして、ちゃんとご迷惑をおかけしたことにごめんなさいすること!いい?わかった?」



 ♦ レティア 312年4月1日 9時33分


「……はーい」





 ☆ アリア 312年4月1日 9時34分


「まったくもう、私の妹はこんなんで本当に大丈夫なのかなぁ……」









 アリアは飛空艇の自室の中、まだ見ぬ理想の王子様にドキドキと想い馳せ、世話の焼ける妹には、一人悩まし気なため息をつくのだった。
















 ※補足、二話の終わり際でも少し触れられていましたが、この世界のスマホには通話機能はありません。一応理由としては、この世界における【音声】というのが、今後登場する【詠唱】などの音声入力システムの影響で、少し特別なものであることが関係しています。



 また、【ヒロインズTV】というのが本作に登場する様に、この世界は音声の無い動画であればインターネットを通して共有できるくらいの文明力があります。





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