第7話 フェルナンド大陸の主要国家について
さて、女王陛下が次に指し示したこの【マルティーヌ】という地名。
ここもまた、フェルナンド大陸における大国の一つだ。
ゲームでも確かに聞き覚えのあった国名だし、その国柄のようなものも大まかにだが設定されていた記憶がある。
しかし、ゲームの方では【ステファニア女王国】以外の国に関してはそこまで深堀はされていなかった。
陛下による各国の説明フェーズというある意味ゲームらしく、されどゲームには無かったこの変化。
これはあくまでも推測ではある。
しかし、ゲームの方では主人公が他国に身柄を狙われるというようなことはなく、ある程度はご都合主義で通されていた面があるのに対して、こちらではそうも言ってられないだろう。
その為、高い確率でこれがこの変化の理由の一つだと考えられた。
そう、ここはリアルなのだ。
ゲームではただのハリボテであった他の国々にも、この世界では確かに今この時を生きる文明人が存在し、それぞれがそれぞれの思惑をもって行動していることだろう。
ならば、ベル様はそれを踏まえたうえで様々な手を打っているのだろうし、それを円滑に進めるためにも俺に把握しておいてほしい話もある筈だ。
俺はそのように察して、ここで聞いた話はきちんと忘れずに気に留めておこうと再度気を引き締め直す。
「では、この地図を見てもらえればわかる通り、我が国と陸地が面している国は全部で四国あるが、その内三国は我が国の庇護下にある小国な為今回は割愛させてもらう。それで、特に重要なのは今私が指し示しているこの【マルティーヌ帝国】だ」
「……」
俺はその名を聞いて、少しだけ考え込む。
ゲーム内では、マルティーヌ帝国はヒロインの出身国としてよく目にした国名だ。
それこそ、ゲームでは特に好戦的なヒロイン程この帝国出身の女の子が多かった。
やはりこちらの世界でも、好戦的な人が多い国柄なのだろうか?
尽きることの無い疑問に俺がとことん興味を抱いていると、ベル様もそんな俺の心情を察したのか、思わずといった様子でくすりと笑う。
「やはり、色々と興味は尽きないか?」
「はい……」
「なるほど……まあ確かに、貴殿からすればこの世界の国全てが新鮮であろうか。私も異世界の国と聞けば確かに様々な興味が湧く。今度、よければアルトの前世の話も色々と聞かせて欲しい」
「ええ、勿論。その際は、ぜひとも二人きりでお話しましょう」
「ほう、これはまた随分と大胆なお誘いだな?」
「俺ももっとベル様のことを知りたいですし、ベル様にも俺の事をもっと知って欲しいですから」
「そうか、貴殿は存外明け透けなお方のようだ。そういうことであれば、私もできる限り善処しよう」
案の定、
「陛下……?」
「よい、むしろ彼の今までの誠意に報いる良い機会だしな」
まあ、俺も少々気を焦り過ぎだとは思うが、どのみち陛下とはどこかのタイミングで二人きりになりたいと思っていたのだ。
俺は思わぬ陛下攻略への第一歩に、密かに心の中でガッツポーズする。
「さて、また話がそれてしまったな。それでこの帝国に関してだが、この国は我が国同様【フェルナンド大陸】の三大大国の一つだ。実際、大国というだけあってその国力も非常に高く、国土や人口も我が国とほぼ同規模。とにかく実力主義で、その気質もかなり強い。それこそ貴人に至るまで好戦的な実力者が多い事で有名な国だ」
「なるほど……」
他の特色についてなども色々と説明してもらったが、この辺の情報は俺の中にあるゲーム知識とほとんど相違なかった。
となると、やはり聞いておきたいのはゲームでは知りえなかった部分だ。
「……ベル様、一つ肝心なことをお尋ねしても?」
「うむ、なんでも聞くと良い」
「ありがとうございます。それでは、女王国と帝国の現在の関係性をお聞きしたいです」
「ああ、そう言えばまだ話していなかったか。あはは、すまない、私としたことが完全に失念していたよ」
「ベル様のその表情を見るに、俺の懸念は杞憂に終わりそうですか」
「うむ、そうだな。安心してくれて良い。我が国と帝国の関係性は非常に良好だ。むしろ、建国の所以から今でも姉妹国のような関係性が続いている」
「ということは、俺が召喚されたことも既に?」
「貴殿は本当に察しが良いな?実は、今代の帝王と私はかつての学友でな、今でも個人的な友人としてプライベートを共に過ごすこともある。その縁もあって、既に帝国側とは貴殿の件でいくつかの話はまとめてあるのだ」
「なるほど、そういう事であれば、帝国に関してはあまり警戒し過ぎる必要はないと」
「うむ、その認識で間違いない。まあ、帝国の件ではアルトにも色々と協力をお願いすることがあるかもしれないが、それでも決して悪いようにはしないと大精霊様に誓おう」
「はい、俺はベル様の事を信じますよ」
「……っ。そうか、それは、そうだな。そう言ってもらえるのは、素直に嬉しいな」
「……」
おっ、どうやらこの返しは良かったらしい。
俺の素直な気持ちだったのだが、思いのほかベル様から良い反応をいただけた。
普段の凛とした表情とはまた違う、若干頬を赤らめた少し乙女チックな表情。
大変素晴らしい破壊力だった。
状況的にスクショが撮れないのが本当に悔やまれる。
しかし、そんなベル様の可愛らしい反応も終わってみれば刹那の事。
陛下はまたすぐに話を切り替えようと、再び地図上の一点を指で指し示す。
そこには【
「こほんっ、さて、次の国だが……これは先ほどスルーしたこの三つの小国よりも南側に位置する【
「……
この国名もゲーム内でよく見かけた。
それも、ゲーム内では日本に近い文化を持つ国であり、ヒロインの名前も全て日本人っぽい名前の国だった。
日本人ならかなり親近感の湧く国柄と言える。
ただ、陛下は肝心の日本の文化の方をご存じないと思われる為、こちらの御神楽神皇国も日本に近い文化なのか?というような聞き方は出来ず、どうにもその確認の仕方が難しい。
まあ、これに関しては後で自分で調べてみればいいだろう。
俺は再び陛下の言葉に耳を傾ける。
「うむ、この国の
「何100回、ですか?」
「ああ、そうだ。少なくとも、私が女王に即位してからもう200年と少し、一年に一度は顔を合わせているからな」
「200年ですか……」
「ふふっ、その反応を見るに、どうやら貴殿の元居た世界では数100年は相当な年月のようだ。一応、私達の感覚ではそこまで長くは感じないのだがな」
「はい、確かに俺にとっての数百年はかなり長いと感じますね」
「ほう?ということは、私も貴殿には相当な婆に見えるか?」
「いえ、俺の感覚でも、ベル様はとても綺麗で魅力的な女性に見えますよ」
「ふふっ、そうか?やはり貴殿は世辞がうまいな」
ベル様がどこか余裕のある様子でくすりと笑った。
正直俺としては全くお世辞ではなったのだが、ベル様はあまり年齢の事を言われて敏感になるタイプではないようで、一連のやり取りにもそこまで気に留めているような雰囲気は感じなかった。
とはいえ、綺麗だと褒められたこと自体は純粋に嬉しかったらしく、心なしかそれなりに上機嫌な様子も伺える。
「さて、また思わぬところで話が逸れてしまったが、話を戻そうか」
「はい、次は国柄などもお伺いしたいです」
「ふむ、そうだな……かの国はとにかく
「祭りごと、ですか」
「ああ、それこそ出店が立ち並び、演舞と共に花火が上がる夏と冬の
「なんだか楽しそうですね」
「ああ、中々に愉快だぞ。かくいう私も毎年楽しみにしているほどだ。なんだったら今年はアルトも私と共に来るか?」
「良いのですか?」
「ああ、勿論だ。その頃には、貴殿もこの世界での暮らしに慣れている頃だろうしな」
「おお、ありがとうございます!今から楽しみにしていますね!!」
「ふふっ、そうかそうか」
俺は思わぬ嬉しいお誘いに、思わず半分程素に戻って目を輝かせてしまった。
ベル様も、これにはどこか微笑ましそうな顔で笑っている。
あたかも、年相応な反応をようやく見れたとでも言いたそうな感じだ。
まあ、実年齢は28歳なので、これは俺の素が単に子供っぽいだけというような気がしないでもなかったが……。
しかし、こればかりはしょうがない。
ゲームでは簡単な概要以外知りえなかった他国の、それもお祭りなのだ。
聞いている感じやはりゲームの設定と同じく日本風なイメージを受けるが、それでも異世界の国に、異世界の祭り。
それも、大好きなヒロせかというゲームの、まだ知らない要素。
ただでさえ気になってしょうがないことがてんこ盛りなのである。
その上、それを敬愛するベル様と共に体験できるなんて……。
ああ、あまりにもロマンのある話だった。
「さて、まあ御神楽神皇国に関してはこんなところだな。ここまでで思った以上に時間を取ってしまったか。他にもフェルナンド大陸には、猫やリス型の亜神【獣人族】が多いキャッツァリース獣王国、亜神【小人族】が多いセレスティア調停国、夜魔型の亜神【魔族】が多いサキュイア夜魔王国、亜神【森人族・妖精族】が多いオーブリー共和国のような国があるのだが、流石に全ては紹介しきれないのでな。あと一つ重要なのは、やはり三大大国の残る一国か」
様々な国名を散り散りと指し示していった後、最後に最も南にある大きな領土の方へと指を這わせるベル様。
その指先は【ゼナイド】と記されている箇所の上で止まっていた。
「ここが今日最後に紹介する国、大陸最南に位置する【新生セナイド皇国】だ。皇国はその領土こそ中規模国家ほどの広さだが、それでも大国と呼ばれるだけあって、ここ100年で最も文明が進歩したと言われている国でもある」
「なるほど、この国とは正反対に位置する大国ですか」
「うむ、しかし現在の情勢的にも、一応友好的な関係を築けている国ではある。ただ、実はこの国はつい最近皇帝陛下が代替わりされたばかりでな。私もまだかの国の皇帝とは皇女時代に何度か言葉を交わした程度の間柄なのだ」
「そうなんですか?」
「うむ、実はこの国は今、三大大国の中で最も人的な被害が大きい国でもあってな。元々皇位継承において有力であった者達は、そのほとんどがその最中に殺められたと聞いている」
「皇族がほとんど殺められた、そんなことが……?」
「うむ、丁度四年ほど前に、かの国に【大規模な襲撃】があってな。それこそ、このままでは国が落ちかねないというほどの本格的な侵攻だったそうだ。結果として、なりふり構うことなく戦える皇族の多くが参戦し、先代の皇帝に至ってもそのほとんどがこの戦いで命を落としたという。国力の低下も深刻だ。この襲撃の傷は大変に深く、かろうじて凌げたとは言ってもその復興は容易ではない。今ではせっかく発展させてきた先進的な文明力も衰退の一途を辿っていると聞く」
「……もしかして、俺が狙われる可能性があるとすれば」
「そうだな、この国の者が暴走して……というのは一応警戒しておくべきであろう。いつの時代も、後がない者というのは油断ならない」
「わかりました、俺も十分に心に留めておきます」
「うむ、しかし我らとしてもその辺りはきちんと対策を練っていく故、あまり気負い過ぎないようにな」
「はい!」
その後、他にも一応は警戒をしておいた方がいいかもしれない、というような国をいくつか教わったりもしたが、やはりそれらは総じて国同士の関係値とはそれほど関連性のない理由だった。
それも、大抵はベル様がうまく根回しをすれば問題なく解決できるだろうということで、彼女の手腕に絶大な信頼を置く俺としては一安心である。
「なるほど、全体的に友好な国が多いんですね」
「うむ、というより、今はご時世柄敵対関係を築いている国はこの大陸には存在しない。どこも、三百年前より共通の問題を抱えているからな」
「共通の問題?」
「うむ、まあ、喫緊で貴殿に関わってくるであろう国々の話はこんなところか。次はその件も含め、貴殿も気になっているであろうことについて説明しておきたい。これは先のセナイド皇国でも少し話した【大規模な襲撃】にも関係している内容だ」
「気になっていること、ですか」
「うむ、それは――――」
――――貴殿を、この世界に召喚した理由について、だ。
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