断章・二

叶わぬ祈り

「なんで……なんで、叶えてくれへんの……?」


 濡れた目で、少女は祠を睨んでいた。かつて願いを込めたあの場所。草むらに半ば埋もれ、苔むしていた小さな石の箱は、以前よりもずっと冷たく、どこか遠く見えた。


 昨日、ついに両親は離婚した。姉は母に、少女は父に引き取られた。


「いっしょがええって言うたのに……」


 こぶしをぎゅっと握り、少女は祠に背を向けた。その背中に、空気のようなものが触れる。ひやりとして、それでいて、胸の奥がじんわりと温まるような、不思議な感触。


「夢みたいに楽しく……そんなの、ウソやんか」


 ふいに誰かの影が木々の間を横切った。目の端に見えた気がしたけれど、振り返ってもそこには何もいなかった。


 ただ、空だけが、異様に晴れていた。

 まるで誰かが、彼女の涙に気づき、微笑んでいるように。


 そして、祠の中の「目」は、もうずっと、閉じられたままだった。

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