第24話:歴史の陰に消えた光

白門楼での処刑を終え、呂布の物語は悲劇的な終幕を迎えた。彼女の死後、天下は再び激動の時代へと突入していく。曹操は、劉備を一時的に配下に置きつつも、天下統一への野望をさらに燃え上がらせた。劉備は、曹操のもとを離れた後、自らの天下を築くために奔走する。そして、南の地では孫策がその勢力を拡大し、やがて孫権へと引き継がれていく。


史実通り、天下は曹操、劉備、孫権の三つ巴の時代、いわゆる「三国時代」へと進んでいった。


しかし、歴史の表舞台に語られることのない、一つの小さな物語があった。それは、幼いながらも「正義」を貫こうとした、一人の少女の物語だ。


民衆は、呂布のことを恐れと畏敬の念を込めて「鬼神」と呼んだ。彼女は裏切りの将として、また天下無双の武勇を持つ猛将として、歴史の記録には残された。だが、彼女が本当に願っていた「みんなの笑顔」や、董卓の暴政に苦しむ人々を救おうとした純粋な心までは、誰も知る由もなかった。


呂布の死後、長安の地では、わずかに残された彼女の遺品が、ひっそりと片付けられていた。その中に、一つの小さな硝子瓶があった。瓶の中には、キラキラと輝く星の砂が、たった一つだけ、ぽつんと残されている。それは、彼女が馬賊から村を救った時、確かに輝きを増した、最初の「希望の星」だった。


「…こんなもの、一体何だ」

掃除をしていた兵士の一人が、その瓶を手に取り、不思議そうに首を傾げた。そして、彼は何の気なしに、その小さな瓶をゴミの山の中に放り投げた。


ガラガラ、と音を立てて、硝子瓶は瓦礫の中に埋もれていった。


しかし、その小さな星は、たとえ誰も知らなくとも、確かに人々の心に光を灯し続けていた。故郷の村で、呂布に救われた村人たち。董卓の暴政に怯えながらも、彼女の優しさに触れた献帝。そして、彼女の純粋な「正義」を信じ、共に戦った劉備や李粛たち。彼らの心の中には、幼き鬼神の姿が、いつまでも深く刻まれていた。


歴史の記録には「裏切りの将」として語られながらも、彼女の「正義」の光は、人々の心の中でひっそりと輝き続けた。乱世の終結を願った小さな英雄の物語は、悲劇的な最期を迎えたが、その思いは、後の世に生きる人々の心に、かすかな希望の光を灯し続けたのだった。


そして、その光がいつか、新たな「希望の星」として、再び誰かの心に宿ることを信じながら、物語は静かに幕を下ろす。

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幼女呂布無双 ―正義感とまっすぐな心の幼女の物語【現在:史実ルート】― 五平 @FiveFlat

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