第22話:下邳の戦い、決別の時
下邳(かひ)での曹操軍との戦いは、次第に絶望的な状況へと向かっていた。劉備と呂布の奮戦もむなしく、兵力の差は歴然だった。城壁の上からは、次々と味方の兵が倒れていくのが見える。呂布の「希望の星」の瓶は、まるで光を失ったかのように、その輝きを失いかけていた。
「呂布殿、もはや限界です…! ここは一旦、退くべきでは!」
関羽の声が、呂布の耳に届く。劉備もまた、苦渋に満ちた表情で、呂布に撤退を促そうとしていた。しかし、呂布の瞳は、目の前の曹操軍を睨みつけていた。
「嫌だ! 退かない! 退いたら、みんなの笑顔が、また消えちゃう…!」
呂布の声は、震えていた。彼女の「正義」は、最後まで諦めなかった。しかし、その純粋な思いは、もう味方にも届かなくなっていた。
城内では、不満と恐怖が渦巻いていた。
「もう勝てない…!」「呂布のせいで、俺たちまで殺されるのか!」
兵士たちの囁きが、次第に大きくなっていく。かつて董卓のもとで見た、裏切りの前兆だ。呂布の心に、冷たい水が浴びせられたように感じられた。
そして、その予感は的中する。
夜、呂布が疲労困憊で眠りについた隙をついて、一部の将軍たちが城門を開け、曹操軍に内通したのだ。城内に曹操軍の兵士たちが怒涛の勢いで流れ込んでくる。
「謀反だ!」「裏切り者め!」
関羽と張飛が、裏切り者たちを討とうと奮戦する。しかし、時すでに遅し。下邳の城は、内部から崩壊していった。
呂布は、騒ぎに目を覚まし、自室を飛び出した。そこには、裏切りを主導した将軍たちが、ニヤリと嘲笑う顔で立ちはだかっていた。
「呂布様には、ここまででございます。このままでは、我らまで曹操殿に殺されてしまう…! これも、乱世の習い。お許しくだされ!」
彼らの言葉は、呂布には言い訳にしか聞こえなかった。
「違う…! 裏切ったら、何もかも、おしまいでしょ!」
呂布は、涙を流しながら叫んだ。彼女の心は、董卓に裏切られた時以上の絶望に包まれていた。信じた仲間が、今度は自分を裏切ったのだ。
しかし、幼い彼女の叫びは届かなかった。裏切り者たちによって、呂布は捕らえられ、手足を縛られてしまう。劉備と関羽、張飛は呂布を助けようとしたが、多勢に無勢。彼らもまた、曹操軍に囲まれ、捕縛されてしまった。
夜が明ける頃、下邳の城は、完全に曹操の手に落ちていた。呂布は、鎖に繋がれ、曹操の本陣へと引き立てられていく。
「何故だ…! 何故、こうなるんだ…!」
呂布の瞳からは、涙が枯れることなく溢れ続けていた。彼女の純粋な「正義」は、裏切りと絶望によって、完全に打ち砕かれた。彼女の持つ「希望の星」の瓶は、今や光を完全に失い、ただの空虚な硝子瓶となっていた。
下邳の戦いは、呂布の敗北という形で、悲劇的な終幕を迎えた。そして、彼女の運命は、史実通りの、残酷な結末へと向かい始めるのだった。
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