第18話:新たな旅立ち、そして出会い

李粛の助けを得て長安を脱出した呂布は、彼の用意してくれた馬に乗り、夜通し駆け続けた。李?と郭汜の追っ手は執拗だったが、李粛の手勢が殿(しんがり)を務めてくれたおかげで、なんとか振り切ることができた。夜明けの光が差し込む頃、呂布は、見慣れない荒野の真ん中に立っていた。


「李粛様…」

呂布は、助けてくれた李粛の顔を思い浮かべた。彼は董卓の配下でありながら、自分の「正義」を信じ、呂布を救ってくれた。裏切りと絶望の中で、再び信じられる人が現れたこと。それは、呂布の心に温かい光を灯してくれた。


しかし、長安を脱出したとはいえ、呂布には行くあてがなかった。董卓を討ったことで、彼女は天下の逆賊となり、行く先々で追われる身となるだろう。それでも、呂布の心は以前とは違っていた。誰かの思惑に流されるのではなく、自分自身の「正義」を見つける。そして、「みんなが、ずっと笑顔でいられますように」という願いを、今度こそ本当に叶える。その決意だけは、揺るがなかった。


「私は…私自身の正義のために、戦う!」

呂布は、方天画戟を背に、新たな旅路へと足を踏み出した。荒野の風が、彼女の小さな体を撫でていく。


数日後、呂布はとある小さな村にたどり着いた。村は貧しく、人々は疲弊していた。しかし、村人たちは互いに助け合い、わずかながらも笑顔を交わしていた。呂布は、その光景を見て、故郷の村を思い出した。そして、あの時の純粋な願いが、再び心の中に蘇った。


呂布は、村の近くで野宿をしながら、食料を求めて森に入った。そこで彼女は、一人の男と出会う。男は、粗末な身なりをしていたが、その瞳には、どこか人を惹きつけるような、温かい光が宿っていた。彼は、困っている呂布に、快く食料を分けてくれた。


「お嬢ちゃん、どこか困っているのかい? もしよかったら、この村で休んでいくといい」

男の声は、優しく、呂布の心を和ませた。呂布は、警戒しながらも、男の言葉に甘えることにした。


村で数日を過ごす間、呂布はその男と交流を深めた。男は、劉備(りゅうび)と名乗った。彼は、義兄弟である関羽(かんう)と張飛(ちょうひ)と共に、この乱世で人々を救うために旅をしているという。劉備は、決して裕福ではなかったが、困っている人々がいれば、分け隔てなく助けの手を差し伸べた。彼の周りには、いつも笑顔が溢れていた。


呂布は、劉備の行動を間近で見て、驚きを隠せないでいた。董卓のように権力を振りかざすこともなく、王允のように計略を巡らすこともない。ただひたすらに、人々のために尽くす劉備の姿は、呂布がこれまで出会った誰とも違っていた。


ある日、呂布は劉備に尋ねた。

「劉備様は…なぜ、そんなに優しいのですか? なぜ、みんなのために戦うのですか?」

呂布の純粋な問いかけに、劉備は穏やかに微笑んだ。

「わしはな、ただ、民が安心して暮らせる世を願っているだけだ。誰もが笑顔でいられる、そんな世をな」

その言葉は、呂布の心に深く響いた。それは、呂布自身がずっと願い続けてきた「みんなの笑顔」と、全く同じものだったからだ。


劉備の瞳には、偽りのない「正義」の光が宿っていた。彼の周りには、争いではなく、温かい「絆」が広がっていた。呂布は、劉備こそが、自分が本当に信じるべき「正義」の体現者だと直感した。


「劉備様…! 私を…私を、あなたの仲間にしてください!」

呂布は、劉備に頭を下げた。彼女の瞳には、新たな希望の光が満ちていた。劉備は、呂布の突然の申し出に驚きながらも、その瞳の奥に宿る純粋な輝きを感じ取り、優しく頷いた。


こうして、呂布は劉備の義兄弟たちと出会い、新たな旅路を共にすることになった。彼女の「正義」は、劉備という真の「光」と出会い、再び輝きを取り戻した。乱世の渦はまだ続く。しかし、呂布は、劉備と共に、真の平和を築くための道を歩み始めることを決意したのだった。

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