第三部:希望の星、乱世を変える光
第17話:長安からの脱出、そして意外な助け
長安は、再び戦火に包まれた。董卓を討ち果たしたことで、平和が訪れると信じていた呂布の願いは、無残にも打ち砕かれた。李?と郭汜が率いる董卓残党は、董卓の仇を討つという執念に燃え、長安の街を破壊し尽くそうとしていた。王允は捕らえられ、呂布は再び、深く絶望の淵に突き落とされていた。
「なぜ…なぜ、終わらないの…!」
呂布は、押し寄せる李?・郭汜軍の兵士たちをなぎ倒しながら、心の中で叫んだ。彼女の純粋な「正義」は、目の前の現実によって踏みにじられ続けていた。人々は、董卓の暴政から解放されたのも束の間、新たな混乱と恐怖に怯えている。
呂布は、もはや長安に留まる意味がないと感じた。このままでは、自分も、そしてわずかに残された希望も、すべて飲み込まれてしまう。彼女は、王允が捕らえられた混乱の隙をついて、単身、長安からの脱出を試みた。夜の闇に紛れ、兵士たちの目を掻い潜り、城壁の裏道を目指す。
しかし、長安の門は固く閉ざされ、李?と郭汜の兵士たちが厳重に警備していた。呂布の小さな体では、正面突破は困難だった。彼女は追い詰められていく。背後からは、追撃の兵士たちの足音が迫ってくる。
「くっ…!」
幼い体に、疲労と焦りがのしかかる。彼女の持つ「希望の星」の瓶の中の星は、まるで光を失ったかのように輝きを失っていた。
「ここです、呂布殿!」
その時、かすかな声が呂布の耳に届いた。声のする方を向くと、そこには人影があった。それは、董卓軍の将軍であったはずの李粛(りしゅく)だった。彼は以前、呂布に王允の計略の真意を教えてくれた人物だ。李粛は、呂布の姿を見つけると、安堵の表情を見せた。
「こちらへ! 私が逃げ道を用意いたしました!」
李粛は、呂布を裏門へと案内した。そこには、わずかな手勢と、用意された馬が数頭。
「李粛様…なぜ…」
呂布は、驚きと戸惑いを隠せない。李粛は董卓の配下であったはず。なぜ、自分を助けるのか。
李粛は、呂布の瞳を真っ直ぐに見つめた。彼の顔には、董卓を討った呂布への恨みなど一片もない。あるのは、ただ深い悲しみと、そして呂布への信頼だけだった。
「董卓様は、道を誤りました。ですが、殿があなた様を養子として迎え入れた時、私には見えました。あなた様の瞳の奥に宿る、純粋な『正義の光』が。あの光だけは、決して偽りではなかった」
李粛の声は、静かでありながらも、確かな響きを持っていた。
「王允殿のやり方も、結局は争いを生むだけ。この乱世を真に終わらせられるのは、武力と、そして何よりもその純粋な『正義の心』を持つ、あなた様だけだと私は信じております」
李粛はそう言って、呂布に馬に乗るよう促した。彼は、自らの身の危険を顧みず、呂布を救うために動いてくれたのだ。それは、この乱世において、誰の思惑も絡まない、純粋な「助け」だった。
呂布の心に、温かいものが込み上げてきた。裏切りと絶望の中で、再び信じられる人が現れた。李粛は、かつての董卓の側近でありながら、自らの「正義」に従い、呂布を助けてくれたのだ。
「李粛様…ありがとうございます…!」
呂布は、李粛に深く頭を下げた。
こうして、呂布は李粛の助けを借り、長安から無事に脱出することに成功した。夜空の下、彼女は新たな希望を胸に、馬を走らせた。その手の中の硝子瓶の星は、李粛の「助け」によって、再び微かな輝きを取り戻したように見えた。乱世はまだ終わらない。だが、呂布は知った。自分は一人ではない。そして、まだ信じられる人がいるのだと。彼女の「正義」は、この新たな出会いを通じて、再びその道を照らし始めた。
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