第16話:董卓亡き後、新たな混乱
董卓が呂布の手に倒れ、長安には一時的な安堵の空気が満ちた。王允は歓喜し、朝廷の臣たちは新たな時代が来たとばかりに活気づいた。呂布もまた、暴君を討ち果たしたという事実に、微かな達成感を感じていた。これで、ようやく「みんなの笑顔」に近づける。そう信じていた。
しかし、その平和は脆く、短命だった。
董卓を失った董卓軍の残党たちは、王允らが長安の門を固めていたため、都に入れずにいた。彼らは、李?(りかく)と郭汜(かくし)という二人の将軍を筆頭に、長安奪還を画策していたのだ。当初、彼らは長安を攻めることを諦めようとしていた。だが、王允が董卓の残党を一掃しようとする強硬な姿勢を示したため、李儒が彼らを扇動した。
「このままでは、皆殺しにされるぞ! ここは一か八か、長安を攻め、殿(董卓)の仇を討つのだ!」
李儒の言葉に、絶望と恐怖に駆られていた李?、郭汜らは再び戦意を燃やした。
長安の城内では、王允が今後の政(まつりごと)について意気揚々と語っていた。呂布もその場にいたが、彼女の心には言いようのない不安がまとわりついていた。董卓を討った後も、この乱世は本当に終わるのだろうか?
その不安は、すぐに現実となる。
「報せにございます! 董卓残党、李?・郭汜らが大軍を率いて長安に迫っております!」
伝令兵の叫び声が、宮殿に響き渡った。王允の顔色が、さっと青ざめる。彼は董卓を討てば、全てが終わると信じていたのだ。
「馬鹿な! なぜ奴らが、今更…!」
王允は動揺を隠せない。董卓の残党は、これまで各地で略奪を繰り返すだけの烏合の衆でしかなかったはずだ。それが、なぜこれほどの勢いで都を攻めようとしているのか。
呂布は、すぐにその理由を察した。董卓亡き後も、彼らは生き残るために必死なのだ。そして、王允の強硬な政策が、彼らを追い詰めた結果なのだと。自分の「正義」のために董卓を討ったことが、結果的に新たな混乱を生んでしまったのではないか。呂布の心に、深い自己嫌悪が広がる。
長安の城門は堅固だったが、李?と郭汜の軍勢は予想をはるかに超える数だった。彼らは董卓の仇を討つという執念に燃え、怒涛の勢いで城門を攻撃する。王允は慌てて兵を集め、呂布にも迎撃を命じた。
「呂布殿! この者どもを討ち果たし、真の平和を築くのです!」
王允の言葉は、呂布には空虚に響いた。彼もまた、董卓と同じように、自分の都合の良い「正義」を押し付けているように見えたからだ。
呂布は方天画戟を手に、城壁に立った。眼下には、無数の敵兵が押し寄せている。彼らの瞳にも、故郷を失い、生きるために必死な「悲しみ」が見えた。董卓を討ったはずなのに、またしても人々が争い、血を流し合う。
激しい攻防が続いた。呂布は獅子奮迅の活躍を見せ、数多の敵兵をなぎ倒した。しかし、敵の勢いは止まらない。やがて、城門が破られ、敵兵が長安の街へと押し寄せてきた。街は再び、戦火に包まれた。
混乱の中、王允は李?らの兵に捕らえられた。
「王允様!」
呂布は彼を助けようとしたが、多勢に無勢。李?と郭汜の前に、王允はなすすべもなく引き立てられていく。
長安は、再び戦乱の地と化した。董卓を討ち、一時的な平和をもたらしたはずの呂布は、新たな争いの渦に巻き込まれていく。彼女の心には、董卓を討ったことへの後悔と、自分の「正義」が本当に正しかったのかという深い疑問が、重くのしかかっていた。この乱世は、一体いつになったら終わるのだろうか。幼い呂布の瞳には、絶望の色が深く沈んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます