第11話:連環の計、始まり
董卓の暴政が続く長安の都で、呂布は貂蝉との交流の中に、わずかな心の安らぎを見出していた。貂蝉の言葉は、董卓への疑念に揺れる呂布の心をそっと支えてくれた。しかし、この平和な時間は長くは続かない。乱世の暗い影は、華やかな董卓の屋敷にも忍び寄っていた。
その影の仕掛け人、司徒(しと)・王允(おういん)は、董卓の独裁を終わらせるべく、周到な計画を練っていた。彼は董卓の権力を内部から崩壊させるため、一人の美しい女性の力を利用することを決意する。その女性こそ、貂蝉だった。
ある日、王允は貂蝉を呼び出した。
「貂蝉よ、この乱世を救うため、そなたに力を貸してほしい。董卓の暴政を止められるのは、そなたの美しさと知恵だけなのだ」
王允はそう言って、貂蝉に「連環の計」という恐るべき計略を打ち明けた。それは、貂蝉の美しさをもって董卓と呂布を惑わせ、両者の間に亀裂を生じさせ、最終的に董卓を滅ぼすというものだった。貂蝉は、王允の熱い思いと、乱世に苦しむ民の姿を思い、その計略を受け入れた。彼女の瞳の奥には、故郷への思いと、平和への強い願いが宿っていた。
その夜、董卓の屋敷では盛大な宴が開かれていた。貂蝉は、その場で董卓の前で舞を披露した。彼の目には、貂蝉しか映っていないかのようだった。董卓は貂蝉を溺愛し、毎夜のように彼女の部屋を訪れるようになった。
呂布は、そんな董卓の変化を敏感に感じ取っていた。彼は以前にも増して機嫌が良くなったが、同時に、呂布に対する関心は薄れていったように見えた。以前は「我が娘」と呼び、何かと呂布の意見を聞こうとした董卓が、今では貂蝉の言葉ばかりに耳を傾けるようになったのだ。呂布の心に、小さな寂しさが募る。
そして、王允の計略は次の段階へと進んだ。王允は、ある日呂布を自宅に招き、貂蝉に舞を披露させた。呂布は貂蝉の美しさと優雅さに魅了された。王允は、その場で呂布に貂蝉を譲ることを提案した。
「呂布殿の武勇と、貂蝉の美しさは、まさしく天に与えられたもの。どうか、我が娘として彼女をお傍に置いていただきたい」
呂布は驚き、戸惑った。しかし、貂蝉の優しい笑顔と、以前から彼女に抱いていた好意が、呂布の心を大きく揺さぶった。純粋な呂布は、この提案を喜び、貂蝉を迎え入れることを決意した。
しかし、その翌日、董卓が貂蝉を自分の側室とすると言い出した。呂布は怒りに震えた。
「董卓様! 貂蝉は、私がもらうことになっていたはずです!」
呂布の抗議に、董卓は冷たく言い放った。
「呂布よ、何を言うか。この董卓の所有物となるは、天下に並ぶものなどおらぬ。貂蝉もまた然りだ。お前はただ、黙ってわしに従っていれば良いのだ」
董卓の言葉は、呂布を「道具」として扱う響きがあった。彼の瞳には、呂布への愛情など、もはや一片も残っていないかのようだった。
呂布の心に、深い亀裂が入った。信じていた董卓に裏切られたという絶望感と、貂蝉を奪われたことへの怒りが、幼い彼女の心を激しく揺さぶった。貂蝉は、呂布と董卓の間で苦しむような表情を見せ、それが呂布の心をさらにかき乱した。
こうして、「連環の計」は、董卓と呂布の間に決定的な溝を作り出した。呂布の心は、董卓への信頼を完全に失い、深い憎しみへと変わり始めていた。この計略が、やがて乱世を大きく動かすことになることを、まだ幼い呂布は知る由もなかった。
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