エピローグ

 転移魔法でルシルの教会へと戻ると、メーリックがホワイティーに餌をあげているところだった。突然姿を現した私たちを見ると悲鳴をあげて驚く。でもすぐに笑顔になり、涙ぐみながら「おかえり」って言ってくれた。ホワイティーも嬉しそうに一声嘶く。

 メーリックの悲鳴を聞いてルシルが教会の中から勢いよく出てくると、同じ様に悲鳴をあげた。だだルシルは驚きの悲鳴じゃなく、転移魔法で帰って来たことや勇者との再会での嬉しい悲鳴らしく、なかなか興奮がおさまらなかった。


 ルシルが落ち着いた後、教会の中でお茶をしながら魔王の城でのことをルシルとメーリックに話す。二人とも最後には「ほんとに良かったー」と泣いてくれて、思わず私ももらい泣きをしてしまった。

 魔王城へ弟を迎えに行くという目的を果たしたのでミーデエルナへ帰ることを告げると、メーリックから思いもよらない話を伝えられる。


「大僧侶になる修行の為、しばらくここに残るよ」


 びっくりしたけど元々メーリックは上級職を目指していたからその夢を応援することにした。ルシルの住んでいる村は聖職者の修行の場所として昔から有名らしく、多くの上級職の人たちが弟子と在中しているそうだ。住む場所などはルシルの世話になるとのこと。頑張れメーリック。

 ホワイティーはそのままメーリックがお世話をすることになった。ルシルにもかなり懐いているようで安心した。




 私たち三人はメーリックとルシルに見送られ、転移魔法で自宅へと帰る。ミーデエルナから出て約一ヶ月の女子旅はものすっごく楽しかった。仲間と旅をするっていう夢が叶って幸せしかない。ずっと忘れることのない思い出だ。


 自宅の庭先に到着すると師匠が外仕事をしていた。師匠目掛けて抱きつきに行くユーフィルの後ろ姿をフィオナと見ていた。師匠の腕の中で声にならない嗚咽とともに咽び泣いている弟につられ、私もまた涙がでてくる。


「師匠ー、ただいまー。ユーフィル迎えに行ってきたよー」


「ああ、お疲れ。長旅だったな。ゆっくり休めよ」


「そうするー。凄い疲れたー。フィオナも家に帰るよね? ワイアットさんとこ行く時ユーフィルも一緒に連れてって欲しいな。勇者が帰ってきたことをどうするか分からないけど、そこらへんは任せるよ」


「そうね、明日会いに行くわ。その時一緒に行きましょう。二人ともお疲れ様。あっ、サーブルさん、ブレスレットありがとうございました。今度お礼させて下さいね。それじゃアーティ、またね」


 自宅へと帰っていくフィオナを見送る。旅が終わったんだと少し寂しくなった。とりあえず湯浴みしてさっぱりしたい。師匠とユーフィルとの話はその後にしよう。そう考え家の中に入るが、強烈な睡魔に襲われ自室で少し眠ることにした。




「姉さん、起きてる? そろそろ夕ご飯になるけど」


 ユーフィルに起こされ目を覚ますと、窓の外は日が落ちて薄暗くなっている。寝起きは良い方なのに、今日はなんだかぼーっとして眠気が取れない。よっぽど疲れが溜まっていたのかな。急いで湯浴みをして、師匠が作ってくれた夕食を食べて、出掛ける支度をする。


「あれ、姉さん、どこか行くの?」

「ち、ちょっとね。ユーフィルとの話は明日にでもするからね。師匠も後でー。じゃ行ってきまーす」


 勢いよく玄関を飛び出し、庭先で転移魔法を使った。


「ユーフィル、お前アーティから結婚したこと聞かされているか?」

「ええっ!? 姉さん結婚したの!? えっ!? 何も聞いてないよ僕」

「あいつは、全く……。旦那の所へ行ったのだろう。まだ決定ではないが、相手もこの家で一緒に暮らすことになるかもしれん」

「そうなんだ。うわー、僕に義兄さんができたんだね。どんな人か会うの楽しみー。伯父さん、僕もっといろんな話聞きたい!」

「ああ、お前の話もゆっくり聞かせてくれ」




 夜遅くなったけど一番会いたかった人の所へ向かった。まだ1回しか来たことがない部屋の入り口を緊張しながらノックする。ドアが開き、私を見て一瞬びっくり顔になるも、いつもの爽やか笑顔で出迎えてくれた。


「おかえり、女神ちゃん」

「レオさん、ただいま」


 部屋の中へ招かれ中に入る。玄関のドアの鍵を閉めるとレオさんはすかさずぎゅっとしてくる。


「無事でなにより。女神ちゃん成分不足してたよ〜。補給しないとね〜」

「あはは、何それ。あのね、ちゃんと弟を連れ帰ってきたよ。女子旅もすっごく楽しかったんだー」

「そっか、たくさん話聞かせて。泊まっていくよね。それと、女神ちゃんに渡したいものあるから座ってて」


 そう言われソファーに座り待っている。奥の部屋から戻って来たレオさんは私の左手を取り、薬指に指輪をはめこんできた。


「これは婚約指輪だよ。渡せてなかったからね。結婚指輪は後で一緒に見に行こう。どうかな、気に入って貰えれば嬉しいんだけど」

「すっごく綺麗……。大事にするね! ありがとーレオさん! でも私の指のサイズよく分かってたね」

「ちゃんと測ったからね〜」

「え、測ったっのっていつだっけ?」

「俺の部屋で女神ちゃんが隣に寝てる時こっそりと」


 そう言うとにこにこしながら再度ギューッと抱きしめてくる。レオさんの隣でって……、あの時のことを思い出して瞬時に全身がぐあーっと熱くなっていく。

 

 「ははっ、真っ赤になっちゃって〜。俺の女神ちゃんは本当可愛いな〜」

 

 ものすごい恥ずかしさで固まってしまった。抱きしめられたままレオさんの胸に顔を埋める。


 ――聖女の守り手は今日で終了だね。これからはこの人と共に生きていくんだ。


 レオさんの温かさを感じながら、ひっそりと思った。





 半年後――


 国の中心の聖教会から祝福の鐘の音が鳴り響いた。今日、フィオナとワイアットさんの結婚式が行われたのだ。

 純白のウェディングドレスに身を包んだフィオナはそれはそれは天使かと思えるくらい輝いてて綺麗だった。


「すっごい良かったよー、ゔゔぅ、フィオナすっごく綺麗で素敵だったよー」


 式に参加した帰り道、私は感動して未だ泣きっぱなしでいた。そんな私を支えながら歩くレオさんが3枚目の替えのハンカチを差し出してくる。


「女神ちゃん、身体中の水分なくなっちゃうよ〜。あそこのベンチで少し休んで水分補給しようか」


 そう言うとレオさんは泣いている私を誘導してベンチに座らせる。そして荷物から水筒を出し蓋を開けて渡してきた。お礼を言い飲んでいくとやや冷たい常温の水だったが、泣いて水分を失っていた身体を潤すには充分だった。


「ありがとー、だいぶ落ち着いたよー。なんか前にも私が泣いた後レオさんが水筒くれたことあったよねー。あの時のお水は冷え冷えだったけど」


「聖女様の護衛の時だね。覚えてるよ。冷たい飲み物はお腹の赤ちゃんがびっくりするから、帰ったら美味しいハーブティー淹れてあげるね」


「うれしー、レオさんの淹れるお茶とっても美味しくて好きー」


「俺も女神ちゃんが大好き。何かあったらすぐ言うんだよ。絶対無理しちゃダメだからね」


 大きくなってきた私のお腹を擦りながらレオさんは言う。そう、私のお腹にはレオさんとの子供がいるんです。現在七ヶ月目。女子旅の後どれだけ休んでも疲れや眠気が取れず、フィオナに相談して病院行ったらまさかのおめでた。その頃にはレオさんは師匠の提案でうちに引っ越していて、伝えたらひたすら大喜びしてた。


 ユーフィルのことは国に報告後、ワイアットさんが話を大きくしないように動いてくれた。その後なんとユーフィルは師匠と共に『東の傭兵団』の立ち上げを始めたのだ。どうやら師匠が伝説の傭兵であることを知っていて、『北の傭兵団』の立ち上げに関わっていたこともあり、ずっと考えていたらしい。事業が安定してきたら国内の傭兵団の統一もしていきたいとかなんとか。義兄であるレオさんも時々手伝っている。


 「私、元気な赤ちゃん産むからね!」


 レオさんに笑顔で話し、もたれかかった。この子が大きくなったら最後の一つ赤い魔石のかけら探しの旅に連れて行こうと思っている。でも今は内緒にしておこう。




 ――遠い未来、我が子たちが『守り手』になり旅立つのはまた別のお話。

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勇者の姉は最強の守り手 〜親友の聖女と一緒に魔王城へ弟を迎えに行きます〜 羽哉えいり @haya-e

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