第三十五話 親友と二人で
天候の崩れもなく予定通り目的の寄港地へと着港し、有意義で充実した船旅は終わりを告げる。
船を降りる時までには船員の人たちからの私の呼び名が『守り手さん』になっていたので安心した。
隣の大陸には3つの国が点在している。船から降りた場所はそのうちの一つ、海に面している沿岸国。港の立派な船着き場には大小様々な船が停泊しており、船乗りや商人、観光客、地元民など大勢の人々が行き交っている。ミーデエルナの港町とは規模が全く異なっていた。沿岸国だから人が多く集まり、活気に溢れているんだなと納得をする。
ここから魔王城がある孤島の手前までは陸続きなので、移動手段は歩きか乗り合い馬車になるかなと考えていた。だけども私たちは思い切って馬車を借りることにしたのだ。意外なことにこれはメーリックからの提案である。馬車の操縦経験があり、馬の習性や馬車の構造を把握しているとのこと。当然申し出をありがたく受け入れた。
なんでも、北の傭兵団で基礎から操縦技術を教えて貰ったと話す。今時そんなことしてくれる傭兵団なんて無いんじゃないかな。やっぱり働き口としては北の傭兵団が一番だね。
賑わいを見せる城下町に入り、貸し馬車屋を見つけて交渉する。どの馬車にするか値段も気にしつつ実際に見せてもらい、小型の幌馬車を借りることにした。
ただ馬車を引く馬は殆ど借りられていて、残っていたのは大きくて綺麗な白馬のみ。だが店員は、訓練しても全く言うことを聞かない暴れ馬と言う。使いものにならないので売り飛ばすことを考えているらしい。貸し出している馬が返されるのは最短で3日後。店員に急ぐ旅をしていることを話していると、メーリックとフィオナが白馬に引き寄せられるかのように近付く。店員は焦るが、白馬は暴れることなく、むしろ懐いている感じ。そこで貸し出し値ではなく売値を聞き三人で相談する。フィオナが多めに出すと言い即買い決定。女子旅で馬車を買ってしまった。だけど全員後悔はしていない。
馬車の売買契約書を交わしてから、私はこの大陸の地図や食料など必要品を買い足しに行った。メーリックとフィオナは店員から馬車の連結や馬具の装着時暴れられると困るということで、白馬の側にいてもらうようお願いされる。買い物から戻った頃には白馬はかなり二人に従順になっているように見えた。
馬車の準備も終わり早速出発となる。メーリックが馬車の前部に座り手綱を操作、フィオナと私は後ろに乗る。「じゃあお願いね」と、メーリックは優しく白馬に声をかけると理解したのか一声嘶いてゆっくり歩き出す。なんだかちょっと感動して涙が出そうになった。
購入した馬車の白馬は逞しくてとても賢く、険しい道でも私たちを守るかのような動きで安心して乗っていられた。ちなみに名前は『ホワイティー』とフィオナが名付けている。少し親近感が湧く名前だ。
私も馬車を操縦出来るようになりたくて、メーリックから指導を受ける。何故かフィオナも一緒に受けていた。基礎的なことから実際の操縦方法まで教えてもらう。馬車の操縦は知識や技術だけじゃなく、馬の状態への気配りや信頼関係がとても重要で大事とのこと。凄く奥が深い。
馬車のお陰で移動はかなり楽ができている。地図を購入した際に聞いた情報では、この大陸は陸続きになっているが北の大陸と南の大陸では魔王軍から受けた被害の復旧具合がかなり違うらしい。北の大陸のほうがより被害が大きいとのこと。
沿岸国がある南の大陸には乗り合い馬車が通るようになったが、北の大陸に乗り合い馬車があるのかは分からないとのことを言われた。その話を知ると、馬車を購入してて良かったと心底思う。
それと、女子旅だから野営をすることは避けた。というか師匠とレオさんから野営は絶対にするなと禁止されている。転移魔法を使ってでも必ずどこかの宿に泊まること、と念押しされまくった。
道中歩きだと次の宿場がある場所まで辿り着けないことは割と多い話である。転移魔法を使えるのなら前に泊まった宿まで戻ることができるけど、この魔法の使い手は少ない。なので一般の人たちは頑張って歩き続けるか、野営をするしかないのだ。
まあ、今の私たちにはホワイティーがいる。彼女のパワフルな走りにより、毎日どこかしらの街や村、もしくは宿場に辿り着くことができていた。お陰で一度も転移魔法を使わず、毎晩安全で快適な睡眠がとれた。
ただこれは南の大陸での話。
北の大陸に入ってから、聞いていた話のように復旧が思うように進んでいない場所を目にするようになる。
経路にある一つの街は人口が比較的多く、少しづつ復旧されている様子が見て取れる。宿屋も営業をしていて、その日はその街の宿に泊まった。しかし、数カ所の村では再建が進んでいないため、どこの宿屋も潰れていた。
宿を求めて地図に書いてある宿場の場所へ行くも、無人で営業していなかったり、建物が崩れていたりで宿の機能は無く、安全確保の為何回か転移魔法を使っている。
フィオナとメーリックはこの惨状に心を痛めていたが、私たちには私たちのやるべきことがある。この国のことはこの国の人たちに任せるしかない。
だけど立ち寄った村で私が長剣を携えているのを見て戦士だと思われ、村周辺の魔物退治をお願いされたのは断れなかった。
馬車を走らせ魔物を倒し、この大陸の最北の岬へと進んでいく。ミーデエルナを出発し、もうすぐ一ヶ月になる頃、私たちは崖の上に建つ小さな教会へと辿り着いた。
フィオナの話では魔王城のある孤島へはこの教会から行くのだという。
水域を見下ろす岬にひっそりと佇む白い教会。周りには可憐な花々が咲き乱れ、風に揺れている。馬車から降りて教会へ向かう。メーリックはホワイティーに待つように伝えると、分かったとでも言うように頷いてみせる。賢すぎて凄い。
教会の扉を開けると、ひんやりとした空気が肌をかすめていく。祭壇の女神像の前で静かに祈りを捧げていた一人の少女がこちらに向かって歩いて来る。
「ルシル、久しぶりね。変わりないかしら?」
「フィオナ様お久しぶりです! またお会いできるなんて光栄です! あたしは変わりなく元気ですよ! 是非ゆっくりしていって下さい!」
フィオナと面識があるルシルと呼ばれた水色髪のおさげの少女。ゆったりとした黄色のローブを羽織り、中に着ている白のブラウスのフリルが可愛らしい。見た目に反してかなり活発そうだ。
「ゆっくりしたいけど、ごめんなさいねルシル。私たち魔王城へ行きたいの。またあなたのお祖母様の力を借りること出来るかしら?」
「魔王城へ!? フィオナ様たちは魔王を倒したんじゃないんですか!? 今度はそちらの方々と!?」
「初めましてルシル。勇者ユーフィルの姉でフィオナの親友、そして聖女の守り手のアーティです。よろしくね」
「そ、僧侶のメーリックです。初めまして」
「勇者様のお姉様!? えっ? フィオナ様の守り手ってこと!? え!?」
混乱しているルシルにフィオナは説明をする。理解したルシルは悲しげな顔で話してくる。
「おばあちゃんは2ヶ月程前に亡くなりました。あっ、勇者様たちを魔王城へ送るのに力を使い果たしたとかじゃないのでそれは安心して下さい! 年齢的に大往生でした!」
「そうなのね。どうしましょう、困ったわね」
以前は大僧侶であるルシルの祖母が魔王城のある孤島へと繋ぐ入り口を作り出した。空間転移魔法の派生魔法なのだろうか。
「本来ならあたしができなきゃいけないのに、大僧侶になりたてで力が足りなくて……。そういえば、そちらのお姉様僧侶って言いましたよね。魔力量も多いし……」
ルシルが無垢な瞳でメーリックを見る。そして手を握ったり身体を触ったり、おでことおでこをくっつけたりして能力を見定めているようだ。メーリックはガチガチに固まっていた。
「フィオナ様、この方と一緒なら大丈夫です! 入り口繋げれます!」
「ふぇ?」
どうやらルシルとメーリック二人の魔力なら、なんとか入り口を開くことが出来るらしい。
話し合いをして、魔王城へは私とフィオナで行くことにした。入り口を繋いだ後メーリックが魔力切れを起こす可能性があるため、そこはルシルに任せる。
早速入り口を開くため、祭壇の前に跪いてルシルとメーリックは祈り始める。徐々に空気の密度が変わっているように感じた。そして景色が歪み、光の渦のようなものが現れる。
「さあ、お二方飛び込んで下さい!」
「行きましょうアーティ!」
「うんっ! 行こうフィオナ!」
私たちは手を繋ぎ、光の渦の中へ勢いよく飛び込んだ。
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