第二十八話 守り手の決意

「ユーフィルを迎えに魔王城へねえ。まあ、でたらめな強さを持っているあなたなら何だってできるんじゃないかしら。だって魔の者が習得できる最上位の爆発魔法を相殺してしまうくらいですもの」


 ワイアットから話を聞いたセレスは微笑を浮かべながらアーティに言う。本日2回も自分の強さをでたらめと言われたアーティは呆れ顔で、


「あー、はいはい。私の強さはでたらめなんですよー」


「アーティは魔王より強いと思うわ。だって魔界の黒ドラゴンさんを一人で負かしたくらいですもの!」

「フィオナそれ他の人に言っちゃダメなやつー! なしなし! いやほんとのことだけどもー」

「あ、つい言っちゃった。ごめんなさいっ。ワイアットさん、セレス、二人とも今のは聞かなかったことにしてね」


 フィオナはアーティから聞いた内緒の話を暴露してしまい、アーティは焦りまくる。ワイアットとセレスは『魔界』や『黒ドラゴン』という聞いたことのない言葉に混乱せざるを得なかった。


「えーっと、それで、結局聖女幽閉爆破計画は魔王の闇に取り憑かれたから起こしてしまったこと、でいいのかな? でも全部が全部操られていたわけじゃなかったんだねー」


 焦りを抑え、アーティはセレスに再度問いただす。


「操られていたのかどうかは自分では分からないわ。ただ、自制が効かなくなり精神はまともじゃなかった。魔王の闇に取り憑かれて、強大な魔の力を手にして、欲に駆られて動いていたのは事実よ。そのせいで元の仲間を死に追いやる程の危険な目に合わせようとしたなんて、本当、情けないわ。自分がひどく嫌になる」


「セレス、自分を追い詰めないで」


 俯いているセレスの手を取り、フィオナは話す。


「悪いのは全部魔王のせいなんだから。魔王が最後の悪あがきで取り憑いたからセレスはおかしくなっちゃったのよ。確かに私は封印魔法で声が出せなくなってとても辛い思いをしたけれど、セレスも自分が望んでいなかったことをしてしまった辛さがあるのよね。大丈夫、乗り越えていきましょう」


「フィオナ……、あなたって人は……。分かっていたことだけど、やっぱり本物の聖女ね。成り代わろうだなんて、私どうかしていたわ。二度とそんな考えは起こさない。ごめんなさい……」


 セレスは目に涙を滲ませながら、改めてフィオナに謝罪をした。それを優しい微笑みで返すフィオナだった。


「慈悲深すぎでしょ、フィオナってばー。私だったら同じ目に合わせるなーきっと。でもまあ、魔王の闇がユーフィルの中に入ってたとしても、主軸はほぼ元の身体の精神が上になるってことが分かって安心したー」


「アーティ、少しいいかな?」

「何でしょう?」


 フィオナとセレスの二人を見ながら、肩回しや身体を伸ばしているアーティにワイアットは声をかける。


「君の推測のように魔王の闇がユーフィルの中に入ってしまっていたとしたら、勇者の力と魔王の力が合わさり、セレスの時とは比較にならない程の強大な力を持っていると僕は思う。今の魔王城がどのようになっているかも分からない。だからやはり僕もついていきたいのだが」

「駄目です。絶対駄目駄目」

「何故だ?」

「えっ、本当に分かりません? ちなみに女子旅を邪魔されたくないっていう理由以外でなんですけど」


 驚いた表情でアーティはワイアットを見る。眉をひそめ、怪訝な顔をするワイアット。アーティは一息ついてから話す。


「ワイアットさん今は騎士団長ですよね。立場的に長期間不在になるのはどうかと思いますよー。更にその理由を追求されたらどう答えますかー。魔王の闇の話を公にするのはまずいですよねー確実に」

「……確かにそうだな」


 勇者により魔王が倒され世界は平和を取り戻している。そこへ新たに魔王の闇のことが広まれば人々に大混乱が巻き起こるのは想像がつくことだ。


「それに、ユーフィルが魔王の闇に取り憑かれているかどうかなんてのは、実際魔王城へ行ってみないと分からないことですし。どちらにしても勇者の姉として、弟を迎えに行くことには変わりませんけどね」


「そうか、分かった。アーティ、道中フィオナをよろしく頼む」


「承知しましたー。聖女の守り手として、しっかり務めまーす」


 アーティの『聖女の守り手』という言葉が未だ聞き慣れないワイアットは苦笑いをするのだった。






 セレスの件が一段落し、聖教会からアーティはひとりで出てきた。


 フィオナはワイアットとの二人の時間が欲しそうな様子だったため、アーティは気を利かせてあげた。セレスに関しては特に咎めることはなかった。セレス本人はかなり気に病んでいたが、フィオナの慈悲により、これまで通り大司祭兼聖女の代理として務めてもらうことになった。フィオナは表向きにまだ療養が必要の為、『聖女の守り手』と共にしばらく王都を離れて静養するということにして話はついた。北の塔の話は元々広めていなかった為深堀りされることはないとセレスは話す。


「はー、魔王の闇とかとんでもなかったなー。でも使ってきた上級攻撃魔法覚えれたし、いっかー」


 歩きながらアーティは聖堂での戦いのことを思い返す。


 ――魔王の闇、勇者との戦いで自身の肉体を維持出来ずに成り果てたもの。他者に乗り移り取り憑くことでその者の精神支配をし、復活の糧にしようとしてたのかもしれない。すぐに操れなかったのは、多分だけどセレスが神の祝福を受けた僧侶職だったからなんだろう。後、念の為魔王の闇の魔力がワイアットさんの中にないかこっそり調べてみたけど微塵もなかったので良しとしよう。

 セレスに取り憑いていた魔王の闇は完璧に消滅させた。残りの50は、考えたくないけどユーフィルの中かもしれない。闇に身体貫かれたってワイアットさん言ってたし。むしろ魔王の闇が入ってた方が肉体の生存確率上がってるんじゃないかと思ったけど、どうなんだろうね。こればっかりは全部憶測にしかならないから、現地に行って確認してみるしかない。


 ただ、魔王の闇への攻撃には聖魔法でしかダメージを与えられなさそう。さっきの戦いではセレスに何か憑いてると思い、聖魔法での剣なら引き裂けるかもって考えて、フィオナから聖魔法の魔力もらってやってみたらたまたまできたことだし。魔法剣での攻撃で消滅させれたのも正直偶然だった。魔界での旅の時影の魔物系とは結構戦ったけど、その時聖魔法はなかったから完全消滅はできなかった。代わりに光魔法で魔法剣生成して追い払ってたけどね。その経験を活かしたって感じ。他に魔王の闇を消滅させることができる方法は思いつかない。


 聖女の聖魔法が魔王の闇を消滅させることができる。


 あれ、これってフィオナが狙われる理由になるんじゃない? 北の塔で現れた喋る魔物、あいつ聖女を置いていけとか言ってたけど、もしかして聖魔法を恐れてなのかもしれない。あの魔物はセレスとは繋がっていなかった。だとしたらやっぱり残り50の魔王の闇は、聖女の聖魔法のことを知っているユーフィルの中?


「フィオナのこと、連れて行かない方がいいのかな?」


 でももしも、万が一ユーフィルの中に魔王の闇が入っていたら、聖魔法の剣でなければ裂くことができない。私は聖魔法を使えないし、前もってフィオナから魔力をもらっていたとしても、そんな長期間体内に留めておくことなんてできない。それに、きっと理由を言ったとしても、フィオナなら頑として一緒に行くって言うんだろうな。

 そうなると、答えはひとつ。


空を見上げ、アーティは決意を固める。


「守るよ絶対に。私、聖女の守り手だからね」

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