第二十三話 解かれた封印
「ねえアーティ、私にかかってた封印魔法の解除に使ったのって、もしかして前に言ってた願いを叶えれるっていう魔石だったの?」
「えっ、あー、うん。そういえば前にちょっとだけ話してたね」
護衛任務中にウィルをねむりの粉で眠らせて、短い時間にボロ泣きしながらフィオナと話をしたことを思い出して恥ずかしくなる。
「本当はユーフィルを復活させるためのものだったのでしょう。そんな貴重なものを使わせてしまうなんて、ごめんね……」
「大事な親友をなんとしてでも助けたかったからいいんだよ。ユーフィルは、何か他の方法で私が必ず何とかして復活させるよ。大丈夫大丈夫。それよりも――」
アーティの視線はメーリックが閉じ込められている球体へと向けられていた。
「うん、私、解除するね」
フィオナは封印魔法で作られた球体の前に立ち、静かに祈りを捧げる。そして両手を大きくあげて光の光球を出現させると、
「堅牢を砕け! 封印魔法、解除!」
透き通る声で魔法を発動し、光球を球体へとぶつけた。
その動きを見てアーティは、あの時伝えたかった両手を上にあげる動きはこれのことだったんだー、ということをやっと理解し半笑いになる。
メーリックを閉じ込めている球体にひびが入り亀裂が広がっていく。パキンッという甲高い音とともに、球体を構築している魔力障壁の壁が勢いよく割れ始めた。そして細かな粒子となり空中に霧散し、球体は完全に消滅した。
「メーリック!」
アーティは倒れているメーリックにすぐさま駆け寄り、意識と呼吸の確認をする。
「呼吸してる。眠っているみたい。良かった」
「アーティ、彼女はあの球体の中で力を吸い取られていたようだわ。元は私用の封印魔法だから負荷が大きすぎて耐えられなかったのかもしれない。すぐに回復魔法をかけるから」
フィオナは急いでメーリックに完全回復魔法を使った。
「ん……、ア、アーティ……?」
「おはよ、メーリック。体どこかおかしいとこないかな。大丈夫?」
「……うん。少し、頭がくらくらしてる」
「もう少し休んでていいよ。フィオナを助けてくれてありがとうね」
「た、大切な、なか、まだから、ね……」
そう言うと、メーリックはまた目を閉じて眠ってしまった。
「回復魔法はかけたけど、魔力がまだ戻ってないみたい」
「じゃあメーリックが起きるまで私たちも休もうか。フィオナに聞きたいことたくさんあるんだけど、魔王を倒した後、ユーフィルがどうなったのか今一番知りたい。教えてくれる?」
「わかったわ」
メーリックとアーティの魔法で眠っているウィルの近くに二人は並んで腰を下ろす。そしてフィオナは語りだした。魔王との戦いの事、そして勇者ユーフィルのことを。
魔王城の玉座の間で勇者パーティの四人は死力を尽くして魔王と戦った。勇者と戦士は切り込んでいく。魔王は最上位の爆発魔法を放つ。僧侶と聖女は傷を塞ぎ身体を癒す。戦士は魔王の腕を切り裂く。腕を失い体勢を崩した魔王へ勇者の一振りが肩口に切り込む。魔王が巨大な火炎を出現させると聖女が強固な光の防壁で防ぐ。僧侶が守りの力を高める全体魔法を使い、聖女も素早さをあげる全体魔法を発動させる。何度も繰り返される攻防に体力と魔力は削られていく。
魔王の拳で勇者は殴り飛ばされる。切り掛かってきた戦士を弾け飛ばし、壁に直撃した戦士は床へと崩れ落ちた。後衛の僧侶と聖女に向け、魔王は連続で最上位の爆炎魔法を繰り出す。巨大な火球を僧侶は最大風魔法での相殺を試みるも、それを上回る熱量をくらい倒れてしまった。聖女は防御魔法で耐えていたが、魔力で作られた防壁に亀裂が入る。それに気づいた勇者が聖女を抱えて横に避ける。
戦士と僧侶、仲間の二人を戦闘不能にした魔王の力は圧倒的であった。それでも勇者は剣を振るい魔法を駆使して戦い続けた。神に選ばれし勇者のみ使うことができる最大電撃魔法を発動させると魔王は防ぐ事ができずよろめく。勇者は剣を構え魔王に向かっていく。聖女は最後の魔力を振り絞り、攻撃力上昇の魔法を勇者にかけた。
「その後魔力切れで私は意識を失ってしまったの。気付いたらワイアットさんに背負われて魔王城から脱出していたわ。その時にはすでに封印魔法がかけられてて話すことが出来なかった。ユーフィルのことはワイアットさんが国王様に報告されている通りよ」
戦士ワイアットの話では、勇者が魔王を剣で貫き討ち取ったが、瀕死状態の魔王による最後の攻撃が勇者に直撃。魔王の闇と共にその場に倒れ込んでいく勇者。その後魔王城が崩れてきたことで助けようにも助けられなかったとのことだ。
「そう……。ユーフィル、勇者として頑張ったんだね」
「アーティごめんね……。私、ユーフィルを守れなかった。二人で一緒にアーティの所へ帰ること、約束してたのに……。ごめんね……」
フィオナは謝罪の言葉を言いながら涙を流す。アーティはフィオナの肩を抱きながら、自身も溢れてくる涙を服の袖で拭った。
「フィオナ、話してくれてありがとう。私、魔王城へ行くよ。勇者の姉として弟を迎えに行かないとね」
「それなら私もついてく! 駄目なんて言わないでよね! 私だってユーフィルを迎えに行きたい。それに……」
「それに?」
「アーティと一緒に旅がしたいから。昔誘ってくれたよね。あの時は聖教会が聖女の修行があるからって断っちゃったけど、本当はずっと思い描いていたの。親友とパーティーを組んで旅をすること」
「それ、私も思ってた! 実は魔王城へ行く時フィオナ仲間になってくれないかなーって。なーんだ、私たち同じ気持ちだったんだねー」
顔を見合わせて二人は笑い合う。
「じゃ決まりだね。ユーフィルを迎えに一緒に魔王城へ行こう。ただ、その前にやらないといけないことあるね。フィオナ、この塔にフィオナを封印しようとしたセレスのこと、どうするつもりでいるの? 私は許せないでいるんだけど」
「彼女から直接話を聞いてみたいわ。この国に帰って来て凱旋パレード後一度も会ってないし。封印魔法を使って私を閉じ込めようとしたのは、何か考えがあったのかもしれないから」
真っ直ぐな瞳でアーティを見て話すフィオナ。勇者パーティとして魔王と戦った仲間を疑いたくないのかは分からないが、アーティはフィオナのその純粋な思いにため息をつく。
「考えねー。でもまあ話を聞きに行くのはいいんじゃない? それなら勇者パーティーの人だったワイアットって人も同席させたら? その人今は騎士団長やってるんだっけ。私はよく知らないけどその人は信用できるの? 離宮にいた時フィオナに会いに来てたってウィル言ってたけど」
「信用できる人だと思うわ。いつも気にかけてくれて、すごく優しい人だから」
頬を赤く染めながらフィオナは言った。その様子を見てアーティは察する。そして思った。女子会で絶対詳しく話を聞こうと。
「話し合いの時は私ついて行くからね。もう無関係じゃないから。なんたって今の私は聖女の守り手だし。聖女様の護衛ならお城の中にすんなり入れるよね」
以前聖女に会いに行き、門前払いをされたことを軽口を交えてフィオナに話す。更に城に忍び込む計画を立てたら師匠にお叱りを受けたことや、寝たきり状態になったこと、魔石の話などアーティは次々と喋っていた。フィオナはそんな親友の話を夢中になって聞いていたのだった。
時間経過と共に魔力が回復したメーリックは目覚めた。フィオナが話せるようになっていることに驚く。そして聖女の封印魔法が解けたことを心から喜ぶと、その解除方法をアーティに聞いてくる。
「あー、あははー。ゴリ押しして解いたのー」
魔石のことは言えないためアーティは返事を濁す。メーリックから封印魔法の解除もできるのはすごいと称賛されるも後ろめたい気持ちになる。
「アーティ、ウィルが起きたわよ」
ウィルもまた聖女が声を出せていることに驚き、嬉しさで大泣きする。フィオナはウィルの背中をさすりながら宥めた。そこへアーティは声をかける。
「ウィル、泣いてるとこ悪いんだけど、転移魔法って言われて渡されている魔法書あるでしょ。怪しすぎだからそっちも見せて」
ウィルは荷物からもう一冊の魔法書を取り出してアーティに渡した。ページをめくっていくアーティの表情がどんどん険しくなっていく。
「こっちの魔法書の中身は理解できた。これ、転移魔法じゃない。多分だけど爆発属性の魔法だね。しかも上級魔法だと思う。フィオナ、メーリック見てみて」
アーティは魔法書を二人にも見せる。二人の反応は予想外のものだった。爆発属性の魔法は使えないから見ても分からない、と。
「ね、せっかくだし、私試し撃ちしてみてもいいかな。魔法書使ったことないからやってみたい。あー、もちろん屋外でだけど。ウィル、魔法書での魔法の発動方法教えてもらってもいい?」
この場にアーティを止める者は誰もいない、ウィルから魔法書媒介での魔法の発動方法を教わる。
「へー、魔法の発動にはそんな詠唱が必要なんだー。すっごい長文でめん……、いや、何でもない何でもない」
「ア、アーティ今めんどくさいって言おうとしたよね」
「うん、私もそう思った」
「そ、そーんなことはないよー。二人して意気投合しすぎー。さっ、上へ行ってみよー」
最上階のフロアの奥に屋上への階段があった。ワクワクしているアーティを先頭に四人は上がっていく。
塔の上からはどこまでも広がる森林を見下ろすことが出来た。更に遠くにはミーデエルナの城がうっすら見えている。澄み渡っている空に冷たい風が心地良い。
アーティとフィオナが同じ方向を向いていることに、メーリックはほんの少しだけ心がざわつくのだった。
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