第三話 王女
「王様と王妃様を……殺害? それ、本当なんですか?」
思わず聞き返す俺に、レスターさんは無言で首を横に振った。
否定ではなく――それは「冗談ではない、本当に起こった」という意味の仕草だった。
どうやら、この国の王女様は想像以上に危険な人物らしい。
俺の脳裏に、“召喚した王女=聖女様”というテンプレが崩れ去っていく。
だが、ふと気になることがあった。
「でも、なぜその王女様は“女王”にならないんです? もしかして、国の統治は臣下に任せてるとか?」
俺の疑問に、レスターさんは首を横に振り、深く息を吐いた。
「いいえ。あの方は、すべてをご自分でなさっています。他の者が手を貸そうとすれば、容赦なく拒絶なさる。誰も信用しないお方なのです。私達がそうさせてしまったのかもしれませんが。」
「じゃあ、なおさら女王って肩書きが必要なんじゃ……?」
「本来ならば、そうです。ですが……」
そこでレスターさんは言葉を切り、俺に視線を向けた。
「無理やり王権を簒奪したが故に、正規の王位継承の儀式を経ておられません。ゆえに、この国には“正式な統治者”が存在しないのです」
「え?それって、かなりマズくないですか?」
「はい。事実、我が国バルグミュアはすでに国際社会から追放の瀬戸際に立たされています。辛うじて同盟国が庇ってくれている状況ですが……」
レスターさんの口調は淡々としていたが、その目の奥には焦燥と疲労が滲んでいた。
宮廷魔道士団の副団長でさえ、ここまで追い詰められているということだ。
本当にこの国はとんでもない状況になっているのだろう。
というか、俺は王女との会談の後で生きていられるのか?
そんな俺の不安を煽るように、どんどん話は進んでいった。
レスターさんは歩みを止めることなく、静かに語り続ける。
「そのせいでエレナ様の仕事は日に日に増え、最近では食事すらまともに摂っておられません。寝ることも忘れ、政務に没頭しておられるとか。……今、あの方を失えば、この国は確実に滅びるでしょう」
重い言葉が、石造りの廊下に響いた。
天井は高く、無数の燭台が揺れる光を投げかけている。
空気は冷たく、まるで宮殿そのものが呼吸を止めているようだった。
そして――前方に、荘厳な双扉が見えてきた。
高さは人の三倍はあり、金と紅の紋章が刻まれている。
「レスターさん……あれは?」
「王の間です。今から貴方はあそこに入り、エレナ様と謁見していただきます。
……まあ、流石に勇者様を殺すようなことは無いと思いますが、念のためお気をつけて」
「えっ?いや、ちょっ……」
止める間もなく、扉が静かに軋みを上げる。
「ご武運を」
その言葉と同時に俺は背中を押され───抵抗する間もなく、俺は王の間にぽいっと放り込まれてしまった。
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