第26話 王都へ 4

 セレアは、魔法を脇腹に受けながら突撃してくる左のホブゴブリンに向かって、下がりつつ、


 「強化!」


 と、突き出した剣で、左肩を突きはらう。


 翔太に激突され、仰向けに倒れていく中のホブゴブリンを見たカレンは、振り上げた剣を持つ右腕をそのままに、左腕を右腕の下を通すようにクロスして、左の掌を、右のホブゴブリンへ向けた。


 「炎よ!」


 火球は、右のホブゴブリンの胸に焼け跡を残し、勢いを止め、倒れこんだ中のホブゴブリンが、


 「ギャウ!」


 叫ぶ。


 翔太は、同時に、脇に転がり出た。


 そこに。


 ブラック。


 翔太が中のホブゴブリンと激突した時に、翔太の肩から落ちて、中のホブゴブリンの足元に着地していた。


 「ぼーーー!」


 目の前にあった、中のホブゴブリンの足首に火を吐く。


 「ギャーーー!」


 中のホブゴブリンの足が跳ね上がる。


 「ナイス!ブラック!」


 翔太は、ブラックを拾い上げると、一目散に二人から離れるように走り出す。


 瞬間、左のホブゴブリンから離れたセレア。


 強化を維持し、その剣を左のホブゴブリンの胸に深々と突き立てた。


 「強化!」


 カレンが、勢いの止まった右のホブゴブリンに、振り上げていた剣を叩き落とす。


 「ガッ!」


 右のホブゴブリンに袈裟懸けに剣が走り、中のホブゴブリンを無視してそちらに正面を向けるカレン。


 踏み込み、さらに一閃。


 左のホブゴブリンが消えようとするのを確認したセレアは、カレンの方へ向かうために体の向きを変え、走る翔太に気が付く。


 後ろに、足を引きずる中のホブゴブリン。


 「もぅ!!」


 一瞬、セレアの脳裏に、先日のビックボアのシーンが思い浮かぶ。


 「風よ!」


 咄嗟に魔法を放つ。


 魔法は、中のホブゴブリンに横から命中。


 止まって、セレアを睨む中のホブゴブリン。


 そこへ、後ろからカレンが剣を突き立てた。


 背中から胸へ、貫通する剣。


 中のホブゴブリンの背に足を当て、強引に、剣を引き抜くカレン。


 横に走り寄るセレア。


 「強化!」


 中のホブゴブリンの脇に深く剣を突きいれた。


 声もなく消えていく、中のホブゴブリン。


 「ショウタ、止まって!」


 未だに走っていた翔太に、セレアが、声をかけた。

 翔太は、セレアの声に足を止め、振り向く。

 「つっ!と。」

 カレンが、肩の傷の痛みに顔をしかめると、セレアが心配そうに納刀しながら近づいた。

 「大丈夫?」

 「なんとかな。」

 「ショウタ、急いで!」

 慌てて走り出す翔太。

 「このぐらいなら、応急処置で大丈夫だ。王都に行けば、腕のいいヒーラーがいるから、、。」

 「ショウタは、ヒールが使えるわ。」

 カレンの言葉を区切って、こともなくセレア。

 「は?」

 呆けるカレン。

 「私の見立てでは、ヒールポーションは勿論、教会で普通に治してもらうよりも強力だと思うわ。」

 セレアがニッコリ笑う。

 「そっ、そう。」

 「そうよ。ブラックはこっちに。」

 走ってきた翔太から、ブラックを受け取ると、セレアは、翔太を押し出す。

 「できるでしょ。」

 「わっ、わからないけど頑張る。」

 向き直る翔太と、カレンの目が合う。

 と。

 翔太は、突然、わたわたと手を振った。

 「あのっ。そのっ。(ヒールを)使うのに触らないといけないんだけど、その、いいですか?」

 「えっ?あっ、まぁ、それはかまわないけど。」

 「(触ったとき)痛いかもしれないけど、、、。」

 「かまわない。早く治るなら、今更、痛みが増したところで変わらないからな。」

 「じゃあぁ、ちょっと、ごめんなさい。」

 翔太が、カレンの肩の傷をのぞく。

 「うっ。」

 傷の具合に怯む翔太だったが、気を取り直し、指を傷に当てた。

 「つっ。」

 痛みに顔を背けるカレンだったが、

 「ヒール。」

 翔太の言葉とともに痛みが小さくなり、目を見張る。

 「ほんとに、、、。」

 「動かないで、後、二回か、三回、するから。」

 「おっ。おう。」

 カレンは、もう一度、目線を外に向けた。


 続けて二回、ヒールをかけた翔太が、顔を上げた。

 「んと、確認したいけど、何か、、、。」

 「水よ。」

 セレアが、魔法で濡らした手拭いを差し出す。

 「あっ。ありがとう。」

 受け取った翔太は、大人しくしているカレンの元傷口を拭った。

 柔らかな感触とともに、ついていた血の跡が除かれ、褐色の肌があらわになる。


 突然。


 翔太は、自分がカレンのどこを触っているのか気が付いた。


 瞬間沸騰する翔太。


 「あうぅぅ。」


 落ちそうに。


 「はい。交代ね。」


 肩をたたかれ、何とか、留まる翔太。

 「じゃあ、ブラックを。」

 「どうした?」

 向こうを向いていたカレンが、ふらふらとブラックを肩に歩いていく翔太の背を見て、セレアに向く。

 「これ以上は、無理そうだから。」

 「?」

 不思議そうにするカレンに、セレアは苦笑

 「あんまり言いたくないけど、ちょっと、刺激が、見ればわかるわ。」

 カレンは、セレアの目線に首を捻りながら、元傷口を確認する。

 肩がむき出しになる革の鎧は、肩のベルトが千切れかけ、胸当ての部分は、半分と少しが千切れて無くなっていた。

 カレンの女のふくらみが、半分以上見えていて、、、。

 「、、、!」

 翔太の行動の意味がわかったカレン。

 全身に赤みがさしていく。

 「ショ、ショウタ!」

 「見てない!見えてないから!触ったのは、ごめんなさい!」

 後ろから見てもわかるほど翔太が飛び上がる。

 「はいはい。治療だし、肝心なところは大丈夫だから。」

 冷静にセレアが割って入り、カレンをおさめる。

 カレンは、こうなった理由を思い出し、

 「あー。ごめんショウタ。いきなりだったから、焦った。」

 翔太は、オーバーアクションで頷いた。

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