第25話 王都へ 3

 頬を指でかきながら、カレンは苦笑していた。

 「その、あたし、嘘は得意じゃないけど、セレアもそうみたいだな。」

 微妙に反応したセレアは、ゆっくりとカレンを見て、肩を竦めた。

 「どうやら、今回はそうなるわね。」

 「いいけど。」

 二人は、同時に小さく笑うと、翔太へ向き直った。

 「ショウタ!」

 呼ばれた翔太が、小走りに近づく。

 「改めて、転生したての、転生者、ショウタよ。」

 「えっ?あ?その、、、。」

 「そんなんだから、よろしくな。」

 「うっ。うん。よろしくです。」

 目を白黒させている翔太に、カレンは、爽やに笑い、

 「後は、そこの小さい子だけだな。」

 と、ブラックに目を向けようとして、セレアとともに、向こうを向いた。

 「ホブゴブリン?油断したわ。ゴブリンだと思ってたわ。」

 二人の目線の先には、あきらかに背の高い、緑色の肌をした三体の魔物、ホブゴブリン、が、三人のいる小さく広くなっているところへ侵入してきていた。


 セレアが、即、細身の剣を抜く。

 

 「すまない、あたしもだ。」

 

 カレンも、ロングソードを抜く。


 ホブゴブリン達は、足を止めて身構えた。


 「私が二体を、、、。」


 「いや。」


 言いかけたセレアを、カレンが遮る。


 「セレアは魔法主体だろ、この広さでは戦いにくいはずだ、あたしは、接近戦が主体だから、できないことはない、あたしが二体を引き付けておく。」


 「でも、、、。」


 二人は、にじり寄るホブゴブリン達から目を離さないようにして、剣を構えた。


 「できるか、できないかじゃない。やらないと、それには、あたしが引き付けた方が確実だ。」


 「、、、。わかったわ。」


 「最悪、翔太を連れて逃げてくれ、時間は絶対に稼ぐ。」


 「考えておくわ。」


 一瞬だけ目を合わせ、頷く二人。


 「ショウタは、ブラックを背に、ここから動かない。」


 「うっ、うん。」


 急いでブラックを背にのせる翔太。


 「がぁーーー!」


 前にいた、真ん中のホブゴブリンが叫び、走り出す。


 後ろの二体も、


 「がぁぁーー。」


 叫び、続く。


 カレンが、左手を突き出し、


 「あたしが割る。」


 「えぇ。」


 セレアが頷くと、


 「炎よ。」


 言い放つカレン。


 朱の炎を纏った塊が掌の前に生まれ、ホブゴブリン達に襲いかかる。


 火球は、向かって左のホブゴブリンと、中のホブゴブリンの間、中のホブゴブリンの右肩へ向かっていた。


 無言で、左のホブゴブリンは、左へ、中と、右のホブゴブリンが、右へ割れた。


 「風よ!」


 すぐさま、カレンの左にいるセレアが、左のホブゴブリンへ魔法を放つ。


 薄く、横に広がる魔法の影に、足を止めて顔を守る左のホブゴブリン。


 もとより、そこまで高さのない魔法が、左のホブゴブリンの胸に一線を残し、カレンが、少し遠いものの、中のホブゴブリンに向かって、剣を振り下ろした。


 足を止める、中のホブゴブリン、その隙に、右のホブゴブリンが前に出る。


 「くっ!」


 カレンは、待たずに、そちらに剣を振り向け、


 「風よ!」


 守りを解いて走り出した左のホブゴブリンへ、力をまとめた魔法を放つセレア。


 右のホブゴブリンを下げたカレンは、足を止めていた中のホブゴブリンの一撃を下がって躱し、左のホブゴブリンは、セレアの魔法をよけ切れずに左の肩で受けた。


 「ギッ!」


 どのホブゴブリンかわからない叫び声が響き、カレンが、踏み込んでいた中のホブゴブリンへ、大振りで剣を返して下がらせると、セレアは、下がりながら呪文を唱え、


 「風よ!」


 左のホブゴブリンは、魔法が当たるのを無視してセレアに突撃。


 カレンは、さらに大降りになって、近づいていた右のホブゴブリンに向かって、体を開くようにして、剣を突き付けた。


 その時。


 中のホブゴブリンが前に出て、右手を一閃。


 カレンの左肩に血飛沫が舞った。


 「ちっ!強化!」


 カレンの動きが加速し、剣を、救い上げるように中のホブゴブリンへ向かわせる。


 中のホブゴブリンは、仰け反り、カレンの剣が、ギリギリを抜け、


 「わあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 叫びながら突撃してきた翔太に激突された。





 三体のホブゴブリンを見た翔太は、思わず後ずさりをしていた。

 ー 逃げないと。 ー

 セレアとカレンが話している内容は、全く聞こえていない。

 だから。

 「ショウタは、ブラックを背に、ここから動かない。」

 セレアの声に最後までしたがって気が付いた。

 ー 逃げれないんだ、自分がいるから、、、。 ー

 足手まといになっている自分に。

 唇を噛み締めていた翔太の目の前で、カレンの肩に血飛沫が上がる。

 翔太は、止まっていられなかった。

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