第21話 ストルアの村 10

 グレドウラの背を見送り、セレアが額を拭った。

 「何とか誤魔化せたわね。ビックボアの頭の焼け跡なんて、すっかり忘れていたわ。」

 気を取り直して、次の串へ手を伸ばすセレア。

 翔太は、そのセレアを、少し、上目遣いで見上げ、

 「ねぇ。なんとなく、ブラックのこと、気が付かれてるような気がするんだけど、、、。」

 と、自信がなさそうに俯く。

 セレアは、呆れ顔になって、腰に手を当てた。

 「ショウタ。気が付かれていたら、もっと騒ぎになっているわ。大丈夫よ。」

 「でも、、、。ビックボアの頭の焼け跡のこと、言ってたし、、、。」

 駄目だ、と、セレアがため息をつく。

 「それだったら、私の魔法だと思ってたじゃない。あと、フェンリルが火を噴くなんて、伝説にもないわ。」

 ー でも、その時、ブラックを見てたんだよ。 ー

 翔太は、その時のグレドウラの表情を思い出す。

 ー 確かに、笑ってた。 ー

 「そうだけどさ。」

 思いつつも、答えはセレアに同意。

 「とにかく、騒ぎになってないから、大丈夫よ。心配しない。それより、ショウタも食べなさい、食べれるときに食べるのも重要よ。」

 セレアは、串についた肉を、大胆に口を開いて意外な速さで食べていき、次のを手にすると、翔太に、突き出した。

 「はい。食べなさい。」

 「うん。ありがと。」

 ー 結局、気が付かれても、騒ぎにならなければいいんだ。 ー

 適当な答えに落ち着いた翔太は、程々に肉にかぶりつき、残りを、ブラックに食べさせる。

 「ほんと、変なこと言わなければよかった。」

 横で、セレアがまたもや、恨みがましく呟いていた。

 



 日が明けて。

 二人と、グレドウラは、居間で座っていた。

 「こっちが、討伐に対する代金で、こっちが、ビックボアの死骸の買い取り分だ。一応、確認してくれ。」

 テーブルに置かれた二つの革袋を指しながら説明するグレドウラ。

 「わかったわ。」

 セレアが、革袋を一つ一つ確認し、微笑む。

 「確かに、ありがとう。嬉しいわ。」

 「なに、こちらも助かった。畑の被害もそうだが、死骸を譲ってもらえたのはよかった。あれは本当に美味い肉だった。」

 ソファーの背にもたれるように体をたおしたグレドウラが、先日のビックボアの肉の味を思い出したのか、ニヤリと笑い、

 「そうね。本当に、美味しかったわ。」

 セレアも思い出したのか、ちょっとだらしない幸せそうな笑みをつくった。

 飛び上がった、セレアとグレドウラ。

 「あのぅ。すごく美味しかったです。ありがとう。」

 翔太の声に、グレドウラは姿勢をなおし、セレアは、そつなく口元を拭う。

 戻ったグレドウラは、翔太に、目線を移す。

 「ショウタ、記憶を取り戻すのに協力できずに悪いな。」

 「あっ、いえ。気を使ってもらって。」

 なんとなく、グレドウラが気が付いているのでは?と、思っている翔太は、彼の声に微妙なからかいが含まれているような気がしていた。

 「早く記憶が戻るといいな。」

 「はい。頑張ります。」

 心配そうな表情をしているも、微妙に目尻が下がっているグレドウラだったが、二人は気が付かなかった。


 「そろそろ行くわ。」

 「ああ。気を付けて行ってくれ。」

 「ええ、気負つけるわ。」

 「ありがとうございました。」

 「ショウタも、頑張ってくれ。」

 「はい。」

 二人が扉を閉めて出ていくのを見送ったグレドウラは、ゆっくりと、背中をソファーにあずけた。

 「まさか、生きているうちに、また、転生者と会うとはな。」



 

 

 「おい、お前、この村の子か?」

 グレドウラが、畑で勝手に実を食べていると、後ろから声を掛けられた。

 驚き、慌てて振り向くグレドウラ。

 そこには、エルフも霞む程の美男児が立っていた。

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