第3話 始まりは森の中

 ー やっぱり。 ー

 気が付くと、翔太の周囲は木々で囲まれていた。

 話によくある、森の中だ。

 どれだけの年月を過ごしたのかわからない大木がいくつか立ち並び、その間を、落ち葉と、小さい木々で埋めた森。


 そこに。


 両足を投げ出し、上半身を起こした状態で、翔太は座っていた。


 ー どう見ても、いきなり詰んでると思うんだけど。 ー


 見回す。


 近くに、こちらに危害を加えそうななにかはいない。

 左すぐ後ろに、苔に覆われた大木があり、右手の、少し離れたところにも、苔むした大木があった。

 大木の間、小さい木々がない落ち葉だけの小さい空間で、翔太は立ち上がった。

 カチャッ

 「わっ!何?」

 聞きなれない音とともに、左の腰あたりに違和感を覚え、慌てて手をあてる翔太。

 次いで、目も向ける。

 「剣?」

 そう、翔太の腰には、ゲームのイラストで見たような剣が下げられていた。

 翔太は、戸惑いつつも、その剣の柄を握り、ゆっくりと引き出した。

 ー 初めて買った、安い包丁みたい。 ー

 物珍しさに、剣を眺める翔太だったが、自分の状況を思い出し、急いで剣を納刀しようとしたところで、

 「いてっ!」

 指に痛みが走る。

 上手く納刀できずに、手を切ったのだ。

 注意はしていたため、深く切ったわけではないが、ぽたぽたと血が垂れてくるぐらいは切っている。

 「あーーーもう、なんだよこれ。」

 納めることができなかった剣を、右手にぶら下げながら、切った左手を覗き込む。

 「いきなりダメージじゃない!どうするんだよ、これ!」

 その時、翔太の頭に閃くものがあった。

 「そうだ、ヒール!ヒールで治せば、、、。どうするの?」

 同時に、頭の中で、ヒールの使い方が弾けた。

 翔太は、右手の剣を持ち直し、わかった使い方に従い、その人差し指を慎重に傷口に指をあてる。

 「ヒール。」

 痛みがなくなる。

 あてていた人差し指で、血を拭うと、傷の無い指がそこにあった。

 目が見開かれる。

 「すごい。本当に、治った。」

 しげしげと、指を眺めるも、状況を思い出した翔太は、気を取り直して、慎重に剣を納刀する。


 「で、どうしよう?」


 周囲の見える範囲は木。

 当然、何処にいるのか、何処に向かえば正解かもわからない。

 まだ実感がない為、落ち着いているものの、かなり状況が悪いのはわかるため、周囲を見回そうとして、翔太は、何かを背負っていることに気が付いた。

 ー ? ー

 下ろしてみると、背負い袋だ。

 何かが入っている。

 翔太は、それ程重くない、背負い袋の口に、手を入れた。

 それ程大きくない背負い袋の中は、干し肉のようなもの数個、水袋が、二つ。


 黙って眺める。


 「、、、。もしかして、これで、すぐには死なないとか、、、。」


 ー ありえそう。 ー


 ため息しか出なかった。


 翔太は、のろのろと諦めたように、出したそれらを背負い袋にしまうと、再び、背にした。


 翔太は、改めて、周囲を見回す。


 先ほどと同じで、周囲は木しか見えない。

 待っていても、助けが来ることは絶対に無く、それどころか、敵が現れる可能性が、間違いなくある。

 考える程に、焦りを覚える翔太だったが、なんとなく、下っている方向に気が付く。

 どうやら、最初に、自分の足が向いていた方向に向かって、下っているようだった。

 「大丈夫かな?」

 呟くが、答えはない。

 勿論、こんな時にどうするのが正解かは、翔太は知らないが、なんとなく、自分が向いていた方向には意味がありそうだとは思った。

 「行くしかないか。」

 翔太は、決心すると、自分が最初に向いていた方向、下る側へ向かって、歩き出した。



 あの男の最後の言葉が、翔太の頭をよぎっる。



 ー「頭を使え、で、常に、死線ギリギリで頑張れ。」ー



 ー 間違いなく、死線ギリギリだ。 ー

 翔太の足取りが軽くなることはなさそうだった。

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