第16話 決着

 いきなり振るわれたゴーレムの攻撃はすんでのところで回避できた。

 地面に突き刺さった拳は地面を深くえぐる。

 あんなのを食らったらただじゃ済まないぞ。


「あっぶねぇ……」

「あんな大きい敵とどうやって戦えば……?」


 はるか頭上にあるゴーレムの頭部を見上げながらロッカが呟く。

 その声はかすかに震えていた。

 

「とりあえず、挨拶代わりに一発ッ!」

 

 氷の魔石を装填すると、ゴーレムの胸部目掛けて発砲。

 鋭く構築された氷魔術の弾丸は狙い通りゴーレムの胸部に着弾するが……。

 

「効かない……か」

 

 それどころかわずかな衝撃すらないようだった。

 装甲に触れた途端、魔力が霧散したようにすら見えた。


「……どうやらあのゴーレムの外殻は魔鉄鋼で作られているようですね」


 じっとゴーレムを観察していたロッカが、目を輝かせる。

 魔工技士ともなれば遠目からでも素材の判別がつくもんなのか。


「魔鉄鋼っていうと……」

「はい、とにかく魔力耐性が高い素材ですね」


 魔力耐性か……現状、俺の攻撃手段は魔銃しかない。

 これは魔石に封じた魔術を撃つというものだ。

 つまりそれは魔力による攻撃に他ならなくて……。

 

「相性最悪じゃねえか」


 大振りの薙ぎ払いを転がるようにかわしながら汗を拭う。

 

「じゃあこれはどうだ?」


 土の魔術を込めた弾丸を顔面目掛けて撃ってみる。

 物理的に生成した石の飛礫つぶてがゴーレムに直撃するが、やはり弾かれてしまった。

 チッと舌打ちすると、ゴーレムの胸部にある魔法陣が輝きはじめた。


「あの魔術紋は……ッ」


 魔術紋を解析した俺は、慌ててポーチから魔石を取り出すと地面に撃ち込む。

 すぐにロッカとティアをひきずって、土魔術によって隆起させた岩壁の裏側に隠れる。


 キィィィン——。


 甲高い音と共に、ゴーレムの胸部から輝く光線が発射された。

 それはいくつもの筋を描きながら部屋の中を暴れまわる。

 光線が地面や壁に衝突すると、凄まじい衝撃音が鳴り響く。


「きゃっ!」

「師匠っ、この壁で大丈夫ですか?」

「分からん!」


 目の前の壁をいくつもの光線がかすめ、岩を削りとっていく気配がある。

 このままだとまずいかもしれない。


「念の為、盾も作っておきましょう」


 ロッカは手に素材を握り込むと、目の前に金属製の盾を構築した。


「助かる。しかしどうしたもんか……」

「ゴーレムというと額の文字を削って、なんて逸話がありますよね?」

「ああ。だがそれは作り話にすぎない」


 そうなんですね……とロッカは肩を落とした。


「削るならあの魔鉱石の装甲だな。あれがある限りどうにもならなそうだ」

「魔鉱石……」


 ロッカはその言葉を呟くと、ハッと顔を上げた。

 

「ヴェインさん、わたしにいい考えがあります」


 

 ようやく光の奔流が収まり盾の陰から出ると、俺の作った岩壁はボロボロに砕けていた。

 ロッカの盾がなかったら危なかったかもしれない。


「それじゃ頼んだぞ」


 背後の二人に声をかけると、ゴーレムに向かって走りだす。

 俺は俺の役目を果たさないとな。

 ヴンッという耳障りな音と共に、ゴーレムの頭部にある目のような光が俺を追う。


「そうだ、ほらこっちだぞ!」

 

 ゴーレムの攻撃をかわしながら、様々な種類の弾丸で攻撃する。

 やはりどれも効いていないようだ。


「じゃあこういうのはどうだ? 泥濘でいねいッ」


 奴の足元に土魔術の弾丸を撃ち込むと、地面が泥のようになる。

 ゴーレムの足が沈みかけた瞬間、胸の魔法陣が光ると、足もとの泥が一瞬で岩に戻った。

 

「土魔術も使えるってのかよ。じゃあ次は……」

 

 俺がポーチに手を伸ばした瞬間、ゴーレムの腕がうなりを上げて振り下ろされた。

 横に跳んでかわすが、着地と同時に今度は胸の魔法陣から熱線が放たれる。


「くっ……!」

 

 足首だけで体の向きを強引にひねるも避けきれず、衝撃が右腕をかすめた。


「おいおい、二回行動はズルいだろ」


 骨の奥まで響く痛みに汗が吹き出す。


「師匠、戻ってきてください!」

 

 その声を聞いて後ろに下がると、ティアは俺の腕に手をかざし短く詠唱する。

 暖かな光が流れ込み、痛みが消えていった。


「助かった。封術は終わったのか?」


 そう聞くと、ティアはこくりと首肯を返してきた。

 そんなやりとりをする俺たちへ向けて、ゴーレムが突進してくる。

 足元の床石が爆ぜ、石片が飛び散る。


「ヴェインさん、これをゴーレムの足元にっ!」


 ロッカから受け取った弾を銃に込めると、言われたとおりゴーレムの足元へ撃ち込む。

 銃口から射出された弾は着弾と同時に金属のワイヤーに変化し、奴の両足に絡みつく。

 突進の勢いが削がれ、ゴーレムの動きが止まった。

 

「行きます!」


 ロッカは短くそういうと、素早くゴーレムへと向かっていく。

 煩わしそうに振られたゴーレムの腕を避けて軽やかに空へ飛び上がると、ゴーレムの胸部に手を当てた。


脱構築デコンストラクション——ッ」

 

 ロッカが手を当てた部分の装甲が、魔法陣ごとごっそりと剥ぎ取られる。

 

「創造ができるならその反対もできるのは当然でしょっ!」

「師匠、今です!」

 

 俺は魔銃を構え、装甲が剥がれたゴーレムの胸部に狙いをつける。

 込めた弾は〝保険〟として封じておいた魔物の魔石だ。

 魔物が持っていた炎系の魔石に、雷の魔術を重ね封じた制御不能の弾。


 こいつを食らえ——!


 引き金を絞ると轟音と共に弾丸が放たれ、薄くなった胸部へ直撃。

 炎と雷が爆ぜ、ゴーレム内部の魔力核が露わになった瞬間——銃身が破裂音を立てて砕け散る。

 熱風が押し寄せ、視界が白く塗り潰された。


 やがて光が収まると、ゴーレムの胸には大穴が空き、核は砕け散っていた。

 巨体が崩れ落ち、轟音と共に動きを止める。


「……勝った、か」


 安堵の息を吐いた俺の手の中には、砕け散った魔銃の残骸だけが残っていた。



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