新居に引っ越したら、最推しアイドル(幽霊)付き事故物件でした
八星 こはく
第1話 君だけのアイドル
※ASMR形式。ヒロインの台詞+ト書きのみ
◆
//SE ガタガタッ、と椅子が動く音
//SE 電気がついたり、消えたりを繰り返すスイッチの音
//SE 布団をめくる音
「あっ、やっと起きた」
「まあ、どうせ私のことは見えないし、私の声は聞こえないんだろうけど……」
(驚いた声で)
「えっ!? もしかして貴方、私が見えてるのっ!?」
「嘘!? 本当に!? 本当の本当に、私が見えるの!?」
「……え? 今、私のこと『めろんちゃん』って呼んだ……?」
「私の、ファンだった……?」
(嬉しそうな声で)
「そんなことあるんだ。全然有名じゃなかったのに」
「でも、現場にはきてくれたことないよね? 私、会いにきてくれたファンの顔は忘れないもん」
「……大学生になって上京したら行く予定で、今年から大学生になった?」
(気まずそうな声で)
「……ごめん」
(急に明るい声で)
「そ、そうだ! せっかくだから、自己紹介してあげる! 貴方のためだけに!」
//SE すう、と大きく息を吸い込む音
(高めの声で)
「めろんにいつもー? めろめろん! みーんなの愛で完熟めろんになれちゃった! きゃんでぃ♡ぱれっとの緑担当、飴村めろんでーす!」
「わっ、えっ、ちょ……ガチ泣き!?」
「そんなに私のこと好きだったの!?」
「とりあえず泣き止んでよ」
//SE 肩に手を置かれる音
「うわっ、また泣いちゃった!?」
「……ごめんね。私、死んじゃって」
「分かってるだろうけど、今の私は幽霊なの。幽霊になった私が見えたのは貴方が初めて」
「前に住んでいた人には見えなかったの。だから物音に怯えて、すぐに出ていっちゃった」
「この部屋、安かったでしょ?」
「やっぱり」
「なんで死んだのか? 普通、いきなり聞いちゃうの、それ?」
「まあいいけど……」
「単純な話だよ。耐えられなくなっちゃったの」
(泣きそうな声で)
「私、ずっとアイドルになりたくて。でも、大手のオーディションは全部落ちちゃって、やっと入れたのが『きゃんでぃ♡ぱれっと』だった」
「知ってる? さすが私のファンだね」
「やっとアイドルになれたから、頑張ろうって必死だった。ビラ配りもやったし、好きになってもらえるように、特典会だって一生懸命笑顔で頑張った」
(泣きそうな声で)
「……おかげで、ちょっとずつだけど、お客さんが増えて、SNSでも話題にしてもらえるようになった。でもその分、いろんなことを言ってくる人も増えて……」
「歌が下手とか、ブスとかいろいろ言われるようになったの。ネットだけじゃなくて、特典会で直接そういうことを言ってくる人だっていた」
「挙句の果てには、彼氏がいるとか、ホストに通ってるとか、嘘ばっかり掲示板に書かれて。嘘なのに、信じてもらえなくて……」
(泣きながら)
「でもアイドルだから、笑ってなくちゃいけないの。みんなの前では、いつだって可愛い私でいなきゃいけなかった。ブスって言われても、もっと酷いことを言われても」
「お金がないから、バイトだってしなきゃいけなくて。毎日へとへとで、でも、なぜか夜は眠れなくて。心も身体も限界で……」
「あの時、思っちゃったんだ」
「……死んだら、全部から解放されるって。辛い思いをしなくていいんだって」
「……でもね、気づいちゃったの。私……」
(泣きすぎて嗚咽混じりに)
「本当はもっと、アイドルやってたかったんだって」
「辛いこともたくさんあったけど、思い出すのは楽しかったことばっかりなの」
「……きゃんでぃ♡ぱれっとでデビューが決まって、嬉しくて泣いたこととか」
「デビューライブにきてくれたお客さんが、次もくるって約束してくれたこととか」
「SNSを更新するたびに、絶対にいいねを押してくれてたファンの人がいたこととか」
(さらに泣きながら)
「……アイドルやめないでって、言ってくれてたのに」
「私……もっと踊りたかった。もっと歌いたかった。もっと可愛い衣装を着ていたかった。緑色に光るペンライトをずっと見てたかった」
「……私を応援してくれる人達を、笑顔にしたかった……」
(驚いた声で)
「え? まだやればいい……?」
「推させてほしい? ファンをやめたつもりはない? 本当に?」
(泣きながら笑って)
「……じゃあ今日から、私、君だけのアイドルだね」
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