新居に引っ越したら、最推しアイドル(幽霊)付き事故物件でした

八星 こはく

第1話 君だけのアイドル

※ASMR形式。ヒロインの台詞+ト書きのみ





//SE ガタガタッ、と椅子が動く音

//SE 電気がついたり、消えたりを繰り返すスイッチの音

//SE 布団をめくる音


「あっ、やっと起きた」


「まあ、どうせ私のことは見えないし、私の声は聞こえないんだろうけど……」


(驚いた声で)

「えっ!? もしかして貴方、私が見えてるのっ!?」


「嘘!? 本当に!? 本当の本当に、私が見えるの!?」


「……え? 今、私のこと『めろんちゃん』って呼んだ……?」


「私の、ファンだった……?」


(嬉しそうな声で)

「そんなことあるんだ。全然有名じゃなかったのに」


「でも、現場にはきてくれたことないよね? 私、会いにきてくれたファンの顔は忘れないもん」


「……大学生になって上京したら行く予定で、今年から大学生になった?」


(気まずそうな声で)

「……ごめん」


(急に明るい声で)

「そ、そうだ! せっかくだから、自己紹介してあげる! 貴方のためだけに!」


//SE すう、と大きく息を吸い込む音


(高めの声で)

「めろんにいつもー? めろめろん! みーんなの愛で完熟めろんになれちゃった! きゃんでぃ♡ぱれっとの緑担当、飴村めろんでーす!」


「わっ、えっ、ちょ……ガチ泣き!?」


「そんなに私のこと好きだったの!?」


「とりあえず泣き止んでよ」


//SE 肩に手を置かれる音


「うわっ、また泣いちゃった!?」


「……ごめんね。私、死んじゃって」


「分かってるだろうけど、今の私は幽霊なの。幽霊になった私が見えたのは貴方が初めて」


「前に住んでいた人には見えなかったの。だから物音に怯えて、すぐに出ていっちゃった」


「この部屋、安かったでしょ?」


「やっぱり」


「なんで死んだのか? 普通、いきなり聞いちゃうの、それ?」


「まあいいけど……」


「単純な話だよ。耐えられなくなっちゃったの」


(泣きそうな声で)

「私、ずっとアイドルになりたくて。でも、大手のオーディションは全部落ちちゃって、やっと入れたのが『きゃんでぃ♡ぱれっと』だった」


「知ってる? さすが私のファンだね」


「やっとアイドルになれたから、頑張ろうって必死だった。ビラ配りもやったし、好きになってもらえるように、特典会だって一生懸命笑顔で頑張った」


(泣きそうな声で)

「……おかげで、ちょっとずつだけど、お客さんが増えて、SNSでも話題にしてもらえるようになった。でもその分、いろんなことを言ってくる人も増えて……」


「歌が下手とか、ブスとかいろいろ言われるようになったの。ネットだけじゃなくて、特典会で直接そういうことを言ってくる人だっていた」


「挙句の果てには、彼氏がいるとか、ホストに通ってるとか、嘘ばっかり掲示板に書かれて。嘘なのに、信じてもらえなくて……」


(泣きながら)

「でもアイドルだから、笑ってなくちゃいけないの。みんなの前では、いつだって可愛い私でいなきゃいけなかった。ブスって言われても、もっと酷いことを言われても」


「お金がないから、バイトだってしなきゃいけなくて。毎日へとへとで、でも、なぜか夜は眠れなくて。心も身体も限界で……」


「あの時、思っちゃったんだ」


「……死んだら、全部から解放されるって。辛い思いをしなくていいんだって」


「……でもね、気づいちゃったの。私……」


(泣きすぎて嗚咽混じりに)

「本当はもっと、アイドルやってたかったんだって」


「辛いこともたくさんあったけど、思い出すのは楽しかったことばっかりなの」


「……きゃんでぃ♡ぱれっとでデビューが決まって、嬉しくて泣いたこととか」


「デビューライブにきてくれたお客さんが、次もくるって約束してくれたこととか」


「SNSを更新するたびに、絶対にいいねを押してくれてたファンの人がいたこととか」


(さらに泣きながら)

「……アイドルやめないでって、言ってくれてたのに」


「私……もっと踊りたかった。もっと歌いたかった。もっと可愛い衣装を着ていたかった。緑色に光るペンライトをずっと見てたかった」


「……私を応援してくれる人達を、笑顔にしたかった……」


(驚いた声で)

「え? まだやればいい……?」


「推させてほしい? ファンをやめたつもりはない? 本当に?」


(泣きながら笑って)

「……じゃあ今日から、私、君だけのアイドルだね」

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