俺たちゃ翔陽天空騎士隊~第二次サマイルナ大戦空戦記

クワ

第1話 出陣

 攻撃隊を見送ってどのくらい時は過ぎただろうか。

 攻撃隊がカンテラ目安に発艦していた時にはまだ周囲が闇を纏っていたが、それから時が過ぎ、徐々に東の空が赤みを帯びてきた。

 ホウキに装着された増魔石のメーターは、残り半分を指している。

 戦闘騎は爆撃騎などと違い軽量化のため大きな蓄魔石は搭載しておらず、せいぜい巡行速度で帰ってこられるくらいの小型のものしか搭載していない。

 ゆえに何処の軍も敵に出会うまでの間は増魔石で持たすことになっている。

「隊長、ラ・マルドーの潜水艦......Bボート基地の攻撃は上手くいきますか」

「上手くいってくれなくちゃ困るだろ」

 荻野が優しく答えた。

 わずかに射し込んでいる朝日にカーキ色の背中がぼんやりと照らされている。

「そんなに脅威なのですか」

 海がそう質問すると、隊長が頭を掻きながら答えてくれた。

「秋川、浮遊艦は水上艦より十倍近く建造費がかかる」

「はい」

「だから輸送船・軍艦は例外を除きほぼ水上艦だ」

 荻野は頷きながら言葉を続ける。

「まあ、Bボートの雷撃で沈められてしまうわけだな」

「ありがとうございます」

「お前の祖父、真好閣下は翔陽の英雄であり名参謀だ。お前もその血が流れているのだから、努力を続ければいずれわかるようになるだろう」

(このじい様の話がなければな)

 海の祖父は真好といい、かつて翔陽国の参謀として従軍し、スーズルカ公国のイーゴル公を撃退したキーマンの内の一人ということになっている。

 優秀な姉と比べられないだけマシなのか。

「頑張ります」

 心を隠して神妙な声色で答える。

 隊長はその言葉に右手を上げて返答した。

「次は攻撃隊の護衛に行けたら......」

 眼下には浮遊空母クィーンエレイン及び雲鳳が、護衛艦とともに悠然と進んでいるのが確認できる。

「秋川、攻撃隊から通信はまだ無いよな」

 まるで思考を邪魔するかのような形で、僚騎の三上から通信が入る。

 相も変わらずさわやかな好男子だ。

「ああ、まだ来てないぞ」

「俺たちの所にも来てないぜ」

 海が返事を終えるのとほぼ同じタイミングで、スチューザン王国の航空騎兵の一人が会話に割り込んできた。

 いや正確に言うと、三上と彼らが会話をしていて俺に話を振ってきたのが正解だろう。

「三年前は考えられなかったな」

「スチューザンが連合国を増やすとは流石に考えなかったね」

 海がそう返すと、先ほどのスチューザン人は笑いながら答えた。

「まさかカール王国がここまで呆気なく敗れるとは考えられなかったよ」

 カール王国とはスチューザン王国と同盟を結んでいた国だ。

 近年財政赤字が累積し軍事強化がままならなかったという話を、海は以前から祖父より聞いていた。

「サマイルナも色々あるな」

 サマイルナとは、この世の大小のすべての島をひっくるめたものをサマイルナと呼び、そのサマイルナには大きな国がスチューザン王国・カール王国・プロイデンベルグ帝国・翔陽国・スーズルカ公国・メリアン連合国・東秦帝国の七ヶ国存在した。

 そのうち、カール王国とスーズルカ公国は事実上存在しないに等しい。

「ゴーレム兵の奇襲を受けたんだっけ」

 ゴーレムというのはかつての呼び名の名残で現在は魔導歩兵と呼ぶことが多い、昔は石などで作られていたが、今は鉄などの金属で製造されており、人が一人または二人乗り込む地上を歩行で移動する兵器だ。

 武器としては魔導砲や魔銃などの遠距離兵器または金属等で製造する剣や槍などの接近兵器で戦う。

 プロイデンベルグではレーヴェやヴィルトカッツェなどネコ科の名前が多い。

「そう、主要の街道を使わずに山を越え、谷に隠れて進み一気に首都を制圧しちまいやがった」

 男は一息つくと言葉を進めた。

「あんな大軍で山道を行軍するなんて狂ってやがる」

 いい加減にしてくれと言わんばかりの口調で言葉を閉めた。

「ただ困ったのは、カールがプロイデンベルグに併合されたせいで周辺の小国もプロイデンベルグに靡いちゃったのよね」

 勝気そうな女性が困ったような口調で言葉を引き継いだ。

「そこで、味方を増やすために連合王国になったんじゃなかったっけ」

 笑いを含みつつ答えたのが気に入らないのか、少しばかり強い口調で反論する。

「ち・が・う! 翔陽国には同盟国として参戦要請しただけ。 連合王国になったのは結果論」

 そう言い終わると、勝気な女性は大きくため息をついた。

「うちの国、色々な技術がまだまだだったので本当に助かったよ」

 三上はすこしばかり重くなった空気を吹き飛ばそうとしたのか、軽く笑いながら軽口をたたいた。

「連合王国になったからには、当然のことです」

 先ほどの二人とは違い、丁寧な口調の女性が答えた。

 どうやら会話を聞いていると、指揮官らしい男性はノワルド、丁寧な女性はソフィアという名らしい。

「スチューザンの発動機はいいでしょ」

 勝気な女性が自慢げに口を挟む。

「えーとお嬢さん」

「ベアトリクス」

 お嬢さん呼びが嫌だったのか、ぶっきらぼうに名前を名乗った。

「ベアトリクス、発動機だけじゃないよ。魔銃や通信機、それに魔探もそうだよ」

 三上はベアトリクスに気を遣うような声色で、優しくそう答えた。

 空に雲はほとんど無く直掩日和だ。

「飛行するのも射撃するのも魔力を消費するので、減少したなら報告し着艦せよ」

 まだまだ元気だよと通信を聞き流していると、急に通信手の声色に緊張が加わった。

「敵雷撃隊侵入! 高度三〇〇方向三時」

 海がけたたまし通信の示した方向に視線を動かすと、半分ほど登った太陽を背にして二〇騎ほどキラキラ輝く一団が目に留まった。

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