眼科に来た痛患者と美人医師【恋は盲目】

烏丸ウィリアム

眼科に来た痛患者と美人医師【恋は盲目】

 この眼科は非常に美人な医者がいるとしてとてつもない人気を誇っているという変わった病院だ。ある日の診察でのこと。いつもはそこそこの繁盛で、しかも病院ということもあって静かであるが、その日はややうるさい患者がやってきてしまった。メガネをかけたいかにも真面目そうな男だが、診察前から看護師に声をかけまくっており、すぐに危険客認定されていた。彼の診察の時間がやってくる。ドアに手をかけて診察室に入る。


「こんにちは、今日はどうなさいましたか?」

「そろそろメガネを変えようかと思ってるんですが、その前に視力検査をしておこうと思って」


 予想外にまともなことしか言わず拍子抜けかもしれないが、判断するには早い。最初はまともなふりをして、後で本性を現すのが女たらしというものだ。


「それなら早速始めましょう」


 場所を移し、視力検査が始まる。患者はモニターの前に座り、わっかの空いている部分や赤と緑を見るタイプのアレである。この男はここでもしきりに前髪をかき上げてナルシストに余念がない。


「それでは始めます。最初は裸眼視力を測りましょう」


 患者はメガネを外し、装置に顔をつける。

 まずは一番大きなわっかが画面に表示された。


「これは分かりますか?」

「……分かりません。でも、あなたの美しさだけは見えてますよ」

「よそ見しないでくださいね」


 医者は極めて冷酷に、しかし優しい笑顔で返す。その笑顔の本当の意味は優しさなどでなく、「次に余計なこと言ったら口を縫う」ということであるとすぐに分かる。新たなわっかが表示されるたびに患者が余計なことを言うので、医者もさすがにイライラしてきているようだ。


「赤と緑、どちらが目立って見えますか?」

「あなたに比べたら、どちらも大したことありませんよ」

「カルテには『脳に異常あり』と書いておきますね」


 こんな扱われ方をしても懲りないものである。その後の検査でも延々と語ってきて医者のストレスも徐々に高まっている。ナンパには慣れているのかもしれないが、ここまでしつこく、しかも場をわきまえず病院でというのはさすがに初めてだろう。そうしている間に視力検査も終わりが近づいた。


「裸眼視力は非常に低く、メガネをかけてもまだ少し見えにくいようですね」

「先生が眩しくて思うように結果が出せませんでした……」

「私のせいにしないで。それに視力検査は高得点とかはないですからね」

「先生の美しい顔が見えるようにいいメガネを作ってきます!」

「はいはい、何でもいいから頑張ってください」


 なんとか無事に視力検査が終わったと思ったら、患者はそれでもまだ立ち去らず、さらに衝撃の発言を繰り返す。


「お仕事は何時までですか? 終わったら一緒に……」

「お大事にー」


 これだけボコボコにされても全くへこたれずにアピールし続けるメンタルは鋼を通り越して黄金だ。それでもまた受け流されてしまうが。医者としてはもう相手にするのも嫌になったのだろう。最後には追い出すような形になりながら患者が逃げ帰っていく。

 彼がいなくなると、看護師が心配そうな顔をして医師に話しかける。


「大変でしたね。ああいうナルシスト変態キモ患者ってよくいるんですか?」

「ボロクソ言うじゃないか。あんなのはあいつが初めてだよ」

「そうなんですか……」

「視力検査を餌に話題を生み出すなんて、なかなかやるな。少し参考になる」

「えっ……、参考にするんですか……?」


 看護師はあんぐりと口を開けて呆れるばかり。彼女もまた、変な口説き方をする女だった。


「おっ、次の患者はなかなかイケメンだな。早速試してみるとしよう」

「え?」


 もう一度言おう。彼女もまた、変な口説き方をする女だった。

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