第2話 アタシの子供時代!

 大陸歴1676年 ある夏の朝

アタシはこの記憶を忘れることはないだろう。



アタシ! フォルティナ・ロックス、八歳!

アルジャイナ連邦共和国にあるマインツ村のロックス家の長女である!


 まあ、農家の長女なんだけどね! 周りからはティナって呼ばれてるの!


 今日は、友達のおかっぱ頭で大人しいマルクス、赤髪でパイナップルみたいな髪のジル、そして黒髪ロングのミリィと一緒に、親に内緒で森に虫取りに出かけるんだ!



 本当は、今日は「子供だけで森に行っちゃダメ」って言われてたけど、魔獣もめったに出ない平和な村だし、少しくらい良いはず……



「今日こそ、俺がいっちばんでっかいカブトムシを捕まえてやるぜ! この前はティナに負けたけど、今回は秘策もあるんだ……ぐへへ!」



「前もそんなこと言っといて負けてたわよね〜。一生、虫取りでアタシに勝てないってこと、分からせてやるんだから!」



 ジルがポケットから小瓶をチラつかせながら、アタシに挑発してきた。



 どうせまた蜜でしょ? 塗ってすぐ虫が来るなんてこと、ないのに。お馬鹿さんね〜。



 心の中でジルのことをバカにしてるけど、2人は幼い頃からよく一緒に遊んでる仲良しなの。



 蜜は、毎回アタシが勝負の前日に森に行って木に塗ってるんだから、アタシが負けるわけないの!



「ジル……また家から蜜、持ってきたの? 前もおばさんに砂糖を勝手に使ったことで怒られてたのに……」



「うるせぇよ、マルクス! 男にはな……後に引けない時がある! 今がその時なんだよ!」



 マルクスは呆れたように、ため息をついた。



「今度また怒られても知らないよ?」



「バレなきゃいいんだよ! へへっ!」



 浮かれてるジルを横目に、マルクスがアタシの近くに来た。



「ティナ? 一度でいいからジルに勝たせてあげて? おばさん、家から砂糖がなくなっちゃってすごく困ってたんだよね……」



 ほほう? マルクスめ……優しいから、おばさんのためにもジルに勝たせて、砂糖の無駄遣いをやめさせたいのね!



「だーめっ! そんなことしてジルが勝ったとしても、あいつはこれからも蜜を作りまくるわよ! なにより、あんなやつにアタシが負けるなんて……すっっっごく! イ・ヤ・な・の!」



 勝負は正々堂々と勝ちたいし! それになにより、負けた後にジルが調子に乗るのが、アタシのプライドが許さないの!



「ティナちゃんとジルくんって、今日も夫婦みたいだね」



 そう言って、ミリィがうふふと笑いながらつぶやく。



「「夫婦じゃない!」」



 アタシもジルも、同時にそう答えた! 


 誰がこんな奴と夫婦なもんか! どうせなら……クールで強いお兄さんみたいな人がいい……



「俺はこいつとは、そんなんじゃないし〜」



 とジルはつぶやきながら、チラチラとミリィを照れくさそうに見ていた。



 そんなジルを、アタシはジト目でじ〜っと見る。



 分かりやすいわよね〜

 ジルってばミリィのことが好きだから、カッコいいところ見せたいのね……



 まあ確かに、ミリィはアタシと違って可愛いし、オシャレだし、可愛いドレスに優しい口調で、住んでる世界が違うって気がするのよね。



 まるでお姫様みたいで、アタシもミリィを見てると、なんだか頭がほわほわしてきちゃうのよね〜



 それはそれとして。


 

 ミリィにこいつは相応しくないから、そういう意味でも勝たせてやんない!


 ミリィが欲しければ、アタシを倒してからにしなさい!



 そんな子供たち4人は、大人たちに秘密で、森の中へと入っていった――。

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