Thread 02|記録に残らないフロア

「やっぱり13階なんて、どこにも書かれてない…」

翌朝。

気味が悪くなって、念のため社内ポータルにあるビルのフロア図を開いた。

12の次は14。

13階の記載はどこにも見つからなかった。


……夢でも見たのか?

でも、あのコピー機の埃っぽさや、守衛さんの声。

妙に生々しくて、どうにも現実味があった。


気になって、昼休みに設備管理部の三上さんに声をかけた。

社内の古株で、たまに立ち話する仲の人だ。

「13階? そんなとこ行ったの?」

突然目を丸くする。

「……あそこはね、昔、事故があった階なんだよ」

「事故?」

「30年くらい前かな。改装工事の途中だったのに、勝手に営業部が入ったらしくてさ。天井が落ちたとか、火花が出て爆発したとか、色んな噂があるんだけどね」

「結局、建設上の理由ってことで閉鎖されたの。でも、誰かがたまにあそこに行っちゃうんだって」

そう言ったあと、彼女は急に声をひそめて、

「……でね、そういう人って、なんとなく、いなくなってくんだよね」と続けた。

「辞めたのか、異動したのか、誰も知らない。気づいたら、“あれ?最近見てないな”って……」

不意に背筋が寒くなった。

「聞いたことくらいあるでしょ?社内じゃ有名な怪談だよ。」

三上さんはわざとらしく声を低くした後、「……なんてね。今の若い人たちは、そんな非科学的なこと信じやしないか。」とケタケタ銀歯を光らせて笑った。

怪談とかありえないですわー、と調子を合わせて笑って見せたが、心はざわついていた。


その日、帰る前に自分のデスクに戻ったとき。

机の上に置いていた書類が、ぐちゃぐちゃに散らばっていた。

風? 誰かが触った?

さらに、ふとモニターを見ると――

パスワード入力画面。

さっきスリープして離席したはずのPCが、勝手に”起動”している。


電源を入れた記憶は、ない。

気のせい。疲れてるだけ。

そう思って帰ろうとした、その瞬間。

背後から、人の気配がして――

「おい須藤、旭山商事の件、明日だぞ? 忘れんなよ」

声をかけてきたのは同じ同じ二課の島内先輩だった。

「あ、はい……」

反射的に返事をしたけど、心の中では引っかかっていた。

――旭山商事?

いや、俺、明日そんな予定入れてないんだけど……?

カレンダーにも、メールにも、そんな案件はない。

先輩の言葉は、まるで“別の誰か”に向けたもののようだった。


最初の“違和感”は、ここからだったんだ、たぶん。

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