「影に響く拍子木」

人一

「影に響く拍子木」

カーン

風に吹かれるまま、どこからか拍子木の音が聞こえた。


その日事件は起こった。

冗談でも許されない、そんな言葉をかつての友に言われた。

俺は一気に頭に血が上り、気づけば殴っていた。


この後、先生に「やりすぎだ」とキツく叱られた。

……俺は悪くない。

先に暴言を吐いたのは向こうだし、俺はそれを許せなかった。


これを境に俺は――

みんなの意識を高めて、不正を見逃さないクラス作りをしようと決意した。

俺みたいに悲しむクラスメイトを増やさないためにな。


……カーン


俺がクラスを仕切り出して、悪いことをするやつは減った気がする。


「ゴミはちゃんと分別して捨てる!」

「日直はサボらず毎回黒板を消す!」

「給食は好き嫌いせず時間内に全部食べる!」


コツコツと言い続けたかいが少しはあったはずだ。

最近……心做しか皆に避けられている気がするけど。

みんな俺がいなくなったら、秩序が壊れるの分からないのかな。


カーン……カーン


「なぁ、最近何かを叩くような音聞こえないか?」

「は? 知らねぇよ……」

そう言って、友達はつまらなそうにその場から去った。

相変わらず教室の秩序は保たれている。

何も問題ない。平和だ。

……だからみんな、もっと明るく過ごせばいいのに。


「……ねぇ、委員長。ちょっと話があるんだけど、いいかな?」

クラスメイトが数人集まりやって来た。

「どうしたの?」

「えっと……言いにくいんだけど、最近クラスの雰囲気がちょっと悪くて。」

「その、なんて言うか……息苦しいっていうか……もう、ルール作りはいいんじゃないかな……?」


……意味が分からない。

クラスの雰囲気が悪い、だと?

一瞬で頭に血が上った。

そして、思わず目の前の子を殴りつける。

「誰のおかげで平和だと思ってるんだ!!」

そう叫ぶと、周りを睨みつけた。

クラスメイト達は殴られた子を抱えて、散り散りに去っていった。

――まるで逃げ出すかのように。


カーン、カーン、カーン


あの日から、数日が経った。

クラスメイトはもう誰も、口を聞いてくれなくなっていた。

「意固地になってるだけだろうし……しばらくすれば元通りになるよな。」

そう思おうとしていた。

それにしても、皆して無視するなんて酷すぎる。

自室で寝転びながら、グチグチと文句をただ言っていた。


「というか、最近聞こえる木?を叩く音なんなんだ?普通に火の用心のやつか?」

そう思って窓から、顔を外をのぞいた。

……だが、誰もいない。

「もう終わったのか?まぁ、いいか。

そろそろ遅いし、風呂入って寝るか~」

軽く伸びをして自室を出る。

その時――


カーン、カーン、カーン、カン


何となく遠くから聞こえていた音が、すぐそばで鳴ったかのようだった。


「……誰かいるのか?」

玄関に視線を向けるが、当然違和感もなく存在している。

……ちょっと怖いけど、確認だけしとくか。

クラスメイトのイタズラならまだいいんだけど。


ドアロックをかけた状態で、扉を少しだけ開いた。

外を見るも、何事もない夜の玄関先が広がっているだけだった。


カン、カン、カン、カン


またこの音だ。

そう思った直後、視界を黒い人影が通り過ぎた。

……目を擦って見直すが、何も無かった。

「まぁ、何も無いか……」

そう言って扉から、離れようとした。

そのときだった。


――バッ

黒く太い腕が、扉の僅かな隙間から入り込んできた。

服を掴まれた。

次の瞬間。

そのまま力強く引かれ、外へと引きずり出された。


倒れたままで顔をあげる。

そこには……昔話でしか見たことない格好の大男が立っていた。

手には拍子木を持ち、顔は黒い……鬼?のような角の生えたお面を被っていた。

表情こそ見えないが、冷たく睨みつけられている気分になった。


「……」

状況が理解できず、黙っていた。

……すると大男は、襟首をゆっくりと掴み持ち上げた。


そして、そのまま歩き出した。


カーン、カーン、カーン……


拍子木の音が夜の街に響き渡る。

――このままでは不味い。

そう悟り暴れたが、何の意味もなかった。


カーン、カーン……


カーン……


音は街に滲むように消えていった。

そして――

もう二度と響くことはなかった。

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「影に響く拍子木」 人一 @hitoHito93

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