第6話 「無花果様、リベンジ出陣」

#ダルシムすみれ がトレンド入りした翌週。

会社で昼休みにスマホを見ていたら、同僚がポツリ。


「昨日のTLで見たんだけどさ、ダルシムの人、あれ…すみれさんに似てなかった?」


「(……本人だよ!!)」って叫びたかったけど、飲み込んだ。

心の中ではヨガフレイム。





家に帰って通知を見返したら、やっぱり笑える。

「再現度高すぎ」って褒め言葉(?)も、

「火を噴いて」ってリクエストも、

全部まぜこぜになって「楽しかった」って気持ちだけが残った。


でも――


「私は本当は、無花果様で行きたいんだよ。」





そして、決めた。

コスプレイベント、無花果様リベンジ。





当日。

場所は池袋のイベントホール。

会場に入った瞬間、すでに人の波。

推しのキャラで溢れる光景に、足がすくむ。


「私みたいなおばさんが……」って、例の謎理論がまた頭をもたげた瞬間――

サロンで撮った“あの写真”を思い出した。

あの強い目の私なら、堂々と歩ける。





更衣室で着替えを済ませ、深呼吸。

黒と金の衣装、赤いリップ、ウィッグを整えて、

鏡に映るのは――もう一度、勘解由小路無花果。


「いってきます。」





会場に足を踏み入れた瞬間、

一人のカメラマンがすぐに駆け寄ってきた。


「あの……写真、撮らせていただいてもいいですか?」


頭の中で警報が鳴った。

“撮られる=自己否定される”って刷り込まれてたから。

でも、勇気を出して頷いた。





シャッター音が鳴るたびに、心臓のドクンドクンが少しずつ静まっていく。

ポーズを取ってみる。

「もっと強く、もっと凛として」――

そんな声が、自分の中から聞こえた。





撮影を終えたカメラマンが深々と頭を下げる。


「ありがとうございます。……すごく、強い方ですね。」





涙が出そうになった。

“強い女になりたい”って思い続けた気持ちが、

ちゃんと写真に出てるのかもしれない。





その日の帰り道。

スマホの通知がまた震えてた。

#無花果様 で写真がタグ付けされてて、

見知らぬ誰かがこう書いていた。


「池袋で見かけた無花果様、まじで圧あった。」







私は小さく笑った。

ようやく――

“私がなりたかった自分”に、ちょっとだけ追いつけた気がした。






つづく


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