避暑旅タイムリープ

ちびまるフォイ

汗をかく人

「あっっっつい!!!」


過去最大の気温を記録している現代。

あまりの暑さに人間の住める星じゃないのではと思う。


「昔はこんなに暑くなかった気がするなぁ。

 扇風機でなんとかなっていた気がするし……そうだ!」


ストアで"タイムリープアプリ"をインストール。

これで今ほど暑くなかった昔に行けば快適に過ごせるだろう。


「それじゃ、平成にタイムリープだ!」


平成に移動した。

30度超えに慣れている自分にとってはわずかに涼しい。

といっても、正直誤差のレベルだった。


「いや十分暑いな……」


道を行き交う人々はガラケーにでかいストラップを下げている。

あんな時代もあったなとノスタルジーに浸る余裕は無い。


だって暑いんだもん。


「平成でもぜんぜん暑いじゃん……。どこか涼しい場所は……」


涼める場所を探したものの、現代ほど充実していない。

まだ熱中症が広く広まっていないのだろう。


一部の田舎ではいまだに部活動中に水を飲ませないという

狂気じみたことをやっていた時代でもある。


そのときだった。


「お、お前は!? 俺!?」


「え」


「なんで俺が平成にいるんだ!?」


過去の自分とうっかり顔を合わせてしまった。

このまま世界が崩壊するかと思いきや、

世界も暑さでまいってしまってるのか崩壊しなかった。


「ーーというわけで、未来はもっと暑いんだよ」


「そうなんだ。地獄すぎる……」


「だから平成に来たんだけど、こっちも暑いなぁ」


「当たり前だろ。戻るなら昭和のほうがいい。

 だってあの時代は団扇の時代だぜ?」


「たしかに。うちわでどうこうなるなら、

 平成よりもずっと暑さイージーモードだよな」


「だろ」


「よし。それじゃ昭和にいってくる!」


「待て待て待て! 俺も連れてってくれよ!」


「ええ?」


「平成も十分暑いんだよ。クーラーもそれほど整備されていない。

 昭和にいけるなら一緒に連れて行ってくれ」


「しょうがないなあ……」


現代の自分と、平成の自分を引き連れて昭和に戻った。

平均気温がさらに少し下がる。


「ふわあ、ちょっと涼しくなったな」

「ビルがないから風通しもいいや」


昭和の夏なら気温は低い。

しかし湿度は現代よりも高かった。


「……なんか気温はそれほどでもないけど」

「めっちゃムシムシするな……」


昭和初期であればまだ田園風景の場所も多く、

夜になればカエルの大合唱が睡眠を阻害する。


そんな状況なので田んぼから蒸発した水分が空気中の湿度を上昇。

現代よりも湿気の多い環境となっていた。


「ダメだ。それほど暑くないけど汗が止まらない……」

「平成に戻るか?」

「いやそれは……」


どうしようか悩んでいるときだった。


「な、なんで俺が!?」


昭和の自分と、平成・現代の自分が遭遇してしまった。

やっぱり世界は崩壊しなかった。

事情を話すと自分なので納得してくれた。


「変なことを考えるんだな未来の人は」


「……しかし、昭和も昭和で快適とはいえないなぁ」


「いっそ縄文時代にでもいくか?」


「いやそれはさすがに生きづらすぎるし……」


「いったいどの時代が一番快適なんだろう」


「それなら江戸はどうだ?」


「江戸? なんで?」


「江戸時代、地球はミニ氷河期を迎えているんだ。

 だからその時代であれば今よりも涼しいし」


「そうなの!? 知らなかった!」


「自分なのに……」


3人は同じ頭で相談して、江戸時代に避暑トリップを決めた。

江戸時代に降りると一気に気温が下がる。


「わあ! 快適~~!!」

「湿気もあるけど、気温が低いから不快感少ないな!」

「江戸最高!!」


鎖国中なので人の往来も少なく、人混みもない。

やっぱり避暑タイムリープなら江戸一択だろう。


「あっちに氷菓店があるって!」

「かき氷食べたい!」


QR古銭で決済して江戸の涼を満喫した。

かれこれ夏休みの1ヶ月はあっという間に過ぎた。


そろそろ元の時代に戻らなくちゃという意識が生まれるが、

江戸時代の涼しさに慣れた一行はもう動きたくなかった。


「はあ……これから灼熱の平成に戻るのか……」


「バカいえ。現代のほうがもっと地獄だぞ」


「昭和の夏の不快値なめんな」


誰の時代が一番キツいかのマウント合戦。

共通しているのは誰も元の時代に戻りたがらないこと。


「どうする? いっそ江戸で暮らす?」


「いや、それだと未来が書き換わっちゃうし」


「戻らなくちゃか……嫌だなぁ……」


「いっそ、もっと未来に行かないか?」


「え? 何いってんだよ。

 現代でこれだけ暑いんだぞ? 未来なんかもっと……」


「未来は技術が発展して、気象コントロールしたり

 気温を調節できるものがあるんじゃないか?


「たしかに……」


思えば現代でもさまざまな冷却グッズは発展していた。

現代を飛び越えて未来にいけば、さすがに改善されているかもしれない。


「未来にいけばきっと涼しいはず!」


「過去じゃないからタイムパラドックスも起きない!」


「行こう!! 未来へ!!」


自分たち3人は昭和も平成も現代も飛び越えて未来にタイムリープ。

未来に到着するとあまりの適温に驚いた。


「え……涼しい!!」

「それに湿気もないぞ!」


「見ろ! 地球に空調システムがついてる!」


未来では地球温暖化に対して、地球冷却システムが導入された。

地球をクーラーで冷やすので暑くならない。

あれだけひっきりなしに流れていた汗も一気に引いた。


「なんてパラダイスなんだ……!」


「この時代で暮らそう!」


「意義なーーし!」


3人はこの時代に定住を決めて市役所に向かった。

この時代ではタイムリープもさらに浸透して、同じ人間が3人きても驚かない。


「はあ、なるほど。過去から来たんですか」


「はい! 過去が暑すぎたので!

 でも未来は快適でいいですね! 住民登録お願いします!」


「確認しますね」


市役所職員はなにやら見たこと無い機械で測定をはじめた。

書類にいっさいの不備はなかった。


だがーー。



「ダメですね。3人とも住民登録できません」



「ええ!? どうしてですか!?」

「納得できない!!」

「書類に不備はないだろう!?」


「ええ、書類に不備はないです。

 ですが……あなた達はAIだと判断されました」


「「「 AI!? 」」」


まごうことなき人間であるはずの3人は目を丸くした。


「AIじゃなくて、生粋の人間だ!」

「いったいどうしてそんな判定に!?」


市役所職員は困ったように人間判定カウンターの数値を見せた。

そこの数値は低く、非人間の判定になっていた。


「この時代では額に汗していない人間は”真心”がないとして、

 ぜんぶAIとして処理しているんですよ」


人間の心ない言葉に3人は元の時代へと静かに帰っていった……。

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