生成AIと巨人の物語

少しだけ視点を変えてみよう。昨今の生成AIの発展は目を見張るものがあり、既に物語を作れるほどになっている。


実際、自分もAIに自分の書いた作品と同じテーマで巨人にまつわる物語を書いてもらったことがある。また、細かい指示を出せば、性癖に刺さるような作品も書いてもらえるらしい。今のところは、そこまでこだわる予定はないが。


 私の場合は今のところ、例えば「巨人」と「料理」をテーマに作品を書いてください、のようにざっくりとしたテーマの組み合わせで作品作りをお願いしている(このテーマでは自分は『Homo Praedator』の13話、「顔の見えない主人」という話を書いた)。


このような生成で物語を作っていると、AIの作る巨人の話に法則性が見えてくる。一つずつ紹介したいと思う。


 まずは、巨人は必ず男性である。例外として、巨人と「ラブコメ」をテーマにした時のみ女性の巨人を描写したが、それ以外は巨人を男性として描いている。


これはAIが参照するデータが何か分からない以上、確定的なことは言えないが、巨人関係の神話や伝承では、北欧神話のユーミルやオデュッセウスの物語に出てきた単眼の巨人、日本のだいだらぼっちのように、男性の巨人が登場することが多い。


北欧神話は女巨人も出てくるので例外にはなるが、こうした巨人の存在が、AIに、巨人=男性の方程式を完成させているのだと考えられる。


また、ラブコメだけは女性巨人を描くことが出来たのも、「巨女」として一時期SNSで少し話題になったように、女性の巨人を扱った作品が少数であるものの見られ、逆のパターン(巨人の男性と人間の女性を巡るラブコメ)はあまり見られないからだろう。あるのかもしれないが、私も未だに見たことが無い。知っている人はぜひ教えてください。


次に、巨人は善で、悲劇的な存在として描かれる。巨大な存在だから勘違いされがちだけど、実は優しくて、ヒロインのような女性が登場してその人物だけが彼を理解してくれる、という形式のものである。提示するテーマによりけりだが、このパターンはかなり頻出だ。しかしながら、私にはこれの学習元が何かまでは分からない。


私の知る中では、こうした「悲劇の存在」としての巨人を描いている作品は、斎藤隆介さんの絵本である『八郎』くらいしか知らない。この作品はどちらかというと「自己犠牲」なので、この話とはズレるかもしれないが。ちなみにこの作品、ただでさえ巨大な男がどんどん巨大化していく系なので、興味のある方はぜひ。


ここからは私の推測だが、出る杭は打たれるなんて言葉があるように、異質なものを嫌う傾向が人にはある。例えば古代エジプトでは、神官の腐敗を排除するためにアマルナ時代を築き上げたアクエンアテンを、後の時代の人たちは徹底してなかったことにしようとしたという。


アクエンアテンがどうして今までの信仰より新たな神を優先させたかは諸説あるが、彼の死後に起こったことを見るに、「今までにいなかった存在」を消し去ろうとしたことは確かだろう。


そして、巨人は人と体躯の面で大きく異なる。この、「大きく異なる」部分において、巨人が人間の中に行こうとしたら、怖がられ、排除されるに決まっている、とAIは判断しているのかもしれない。もしこの出力結果のもとになるだろう作品が分かる方がいたら、教えていただけると助かる。


最後にこれもよく見かけるなと感じた特徴としては、「良い話」で終わるものが多いように感じられた。例えば、巨人が人々に受け入れられる、人間を助ける、またはその果てに命を落とす、等だ。


たまにはバッドエンドもいいんじゃない? 本当にそれでうまくいくの? と疑問を呈したくもなる終わり方だ。ひねくれものの性もここまでくると厄介極まりない。


こうした結末が最適か否かはさておき、どうしてこうなるのか? を考えていこう。


実は破壊と蹂躙が大好きの方のサイズフェチなので、「優しい巨人の良い話」の例を全然知らない。先ほどの『八郎』以外になると、『森の戦士ボノロン』という絵本およびセブンイレブンさんで配布されているフリーペーパーの作品くらいだ。この作品は皆様の想像している優しい巨人に近い存在が見られるだろう。


実のところ、優しい巨人の伝承はそう多い印象にない。旧約聖書のネフィリムはじめ、狂暴な奴が多い。頭悪そうじゃないですか、とか言われたら反論の余地もあまりないほどだ。そのため、こちらも学習元のデータが分からない。


推測としては、先に例示した「巨人」と「料理」のように、戦いを連想させない言葉だと、例えば「料理を介した絆の物語」をAIが考え、そこに巨人の要素を付与する、こうした形になっているため、巨人「なのに」優しいというギャップと、テーマに合致した話、を作っているのではないか、と考えている。


こうした話の感想としては、「絵本にありそう」というのが一番しっくりくるだろう。


 このように、現状AIに「巨人」を用いた話を書くように指示をすると、善良な巨人と理解のある彼女ちゃんの感動的な物語を作ることが多い。


個人的には、現段階では「巨人」が舞台装置から抜け出せていないと思うので、もっと巨人とは何か? を突き詰めていってほしいと考えている。私もこの点に精進していく予定だ。


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