第13話 海での暮らし
「俺は海の中ではニシオンデンザメと一緒にいましたね。アイツら基本500年は生きるから」
「ニシオンデンザメって北極海に住むサメじゃないか。なんでそんな寒い地域に…」
イピディアが言う。
「長生き君の側に居たかったの。ウミガメと一緒に海流に乗って数十年いろんな所に行っても、帰ってみたら生きててくれるじゃん」
「お前……ニシオンデンザメと入籍したのか?」
「してないけど、何世代も面倒見たよ。ウミガメの方も出産に付き合って地上に出て、赤ちゃん達が孵る頃にまた地上に出て、皆んなが海に入れるまで海鳥追っ払ってやったりしてた」
「なんて優しい…」
ミラが言った。
「後ね、1000年程で変身魔法が使える様になったんだ。だから巨大なダイオウイカになって海賊の船襲ったり」
「クラーケン伝説はお前か!」
「人魚に化けて歌声で惑わせて貿易船の人々を海に落として遊んだり」
「セイレーンもお前か!……しかしあれは元々怪鳥の姿じゃないのか?」
「美しい俺が怪鳥になるわけないでしょ」
そう言うとコルブロは突然ポンッと音をさせて女性の人魚に変身した。
「「わあっ」」
イピディアとミラが驚く。
美麗な姿でしなだれた様子のコルブロが美声で言う。
「ほら、綺麗でしょ?これで海藻とかたっぷり被って船の中の人を……」
「怖いわ!折角綺麗なのに何してるんだ」
「……あれ……?」
半身半魚の姿のままふと言う。
「おかしい。も、戻れなくなった」
「嘘……」
「本当。水が欲しい……ねえ、バスタブ借りてもいいかな?」
魚の部分をビチビチさせてコルブロが言う。
「ヤダ。ネイト様がハマらないようにさっき洗ったばっかりなんだ」
「ネイト様はバスタブにハマるのが趣味なの?俺に譲って。バスタブが愛しくなって来た。……バ、バスタブと結婚していい?一生大事にします!」
「人魚になったらバスタブ愛が半端ないな。顔赤くなるなよ、落ち着け。うちの大事なバスタブを何処の馬の骨とも分からん奴にはやらん。しかしどうしてもと言うのなら……場所代と水道代は貰うから」
「普通に現実的な事ぶち込んできた!ああ俺のバスタブ……」
ネイトが仕方なく魚の尻尾の辺りを掴む。
バシャリと音がして魚の部分に水が掛かり、コルブロの変身が解けた。
「あー……水分が足りなかったから戻らなかったのか。海の中でやってみてたから気付かなかった。ネイト様ありがとうございます。一気にバスタブへの愛も冷めました」
「パエリアのお礼よ」
床に飛び散った水を綺麗に吸い取りながらネイトが答えた。
「コルブロって浮気性なんだな。酷い……」
ミラが言う。
「別にミラに愛を語った覚えはないけど……あ、それからはね」
コルブロが話を続ける。
ミラが一瞬残念そうな顔をした。
「呼吸の心配もお腹が減る心配も凍死する心配もなく、ずっと海を漂ってみてたんだ……世界中をね」
「え……それは良いかも知れないな」
「気持ち良さそう」
イピディアとミラが意外と話に乗る。
「たまにシャチやホオジロザメに食われるけどね。気付いたらまた戻ってる」
「ごめんやっぱ前言撤回。怖すぎる」
「そうだね」
彼女達が蒼くなって俯いた。
「そのうち、ここ数十年でだけどね、ウミガメや小型の鯨達に異変が起き出したんだ」
「異変?」
「ある日を境にどんどん餌が食べられなくなって死んでしまうんだ」
「え?どうして?」
イピディアの問いに、コルブロが真面目な顔になる。
「おかしいと思って、可哀想だけど数匹の腹を裂いて胃や腸の中を見た。そうしたら、人間達が捨てたゴミやビニール袋がたっぷり詰まってしまっていて……」
「人間のせい?」
ミラが言う。
「ああ。ここ数十年で人間は爆発的に増殖し、それに伴って自然界にはなかった物質が海に流れ込んでくる様になった。
ゴミだけじゃない。今では深海にさえ、ごくごく小さなマイクロプラスチックが溜まり出したんだ」
「ええ……」
「だから俺は、この状況をなんとかしようと思って陸に上がることにした」
「理由がカッコいいな」
「そこで黒潮に乗ってこの日本近海に来たら、サンマ漁の大網に引っ掛かっちゃって……水揚げされた」
「上陸の仕方はダサかった」
「うん。漁港の人達がさ『人間が掛かった!!』って大騒ぎになって警察とか組合の人とか沢山呼びに行ってる間にサンマの中から脱出したんだよね……凄く魚臭くて猫がいっぱい着いてきてさ……大変だった」
コルブロはそう言うと、特典で持って来ていたマンゴージュースをコップに開け、一口飲んだ。
ネイトがその様子を気の毒そうな瞳で見つめていた。
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