第7話 ようこそ私の家へ!

 レピディアの家に招かれたミラは目を見張った。

 

 清潔な住居、靴を脱いで上がる家の中、夜でも煌々と明るいサークライン他、電気で動く家電製品、いつでも蛇口を捻ると出て来る水……全ての物が、ミラにとっては未知の物だった。


「何これ何これ!世界中の皆んながもう魔女になってるの?」

「そういう事だ。人間は産業革命などという物を起こして文明のレベルをちょっと上げ、魔法を誰でも使える物にした。私達は特に珍しい生き物でもなくなったのだ。この3500年で」

 レピディアが言う。


「……本当に、あたしが眠っている間にそんなに年数が経ったのか?……じゃあ、ユヨンやマーラも、もう……」

 ミラが声を落として言った。


 ユヨンやマーラというのは、彼女が住み込んでいた民間呪術院の同僚だ。


「……ああ。とっくの昔に死んでいる。むしろきっと何回か転生しまくって魂の消費期限も超えて永遠に消え去ったぐらいだろう……」

 レピディアが気の毒げに言った。


「本当か?」

 ミラがパッと明るい顔をして言う。


「アイツらもう死んでるのか!!良かった!いっつもあたしの顔見たら何か嫌味な事言って来てたんだよな。いないなんて天国じゃん!!ひゃっほー!」

 そう言うと嬉しそうにクルクルと回った。


「え、前向きだな。誰か他に会いたかった人はいないのか?」

「そりゃあたしの大好きなコルブロだな。彼はどうなったんだ?」


「当然死んでいるだろう……私だけなんだよ、不死になってしまった魔女は」

「そうか……そうだよな。でもなんであたしも死ななくて寝てたんだ?」

 ミラが聞く。


「知らないよ。何か心当たりはないのか?」

「うーん……寝る前にコルブロに『よく眠れる薬』貰ったんだよな……それ飲んだら眠くなってさ」

 彼女は顎に指を当てて考えた。


「何?じゃあアイツのせいじゃないか!私はお前の姿が見えなくなって訪ねて行ったのだが、その時には既にコルブロとお前がいなくなってたんだよ。お前、連れ出されたみたいなんだよな……」


「その後はもう、誰かの抱き枕になってたって事か……発掘されて良かった」

「ミラはミイラとして国宝指定になってたもんな」


 レピディアはそう言ってミラをリビングに連れて行き、テレビを付けた。

 ちょうど地方ニュースをやっていた。


[本日午後4時頃、京都市東山区にある京都国立博物館にて開催されていた『大エジプト展』から、なんとミイラが動き出して脱走しました]


「おお……ニュースになってる」

「ニュースって何?後、この薄くて四角い物の中にどうやって人や建物が入ってるんだ?」


「ニュースと言うのはその日にあったいろんな場所での出来事をお知らせしてくれる番組の事だよ。後、この薄い四角い物の中には人も建物も入っていない。映像という物だ」


「お知らせ?番組?映像?」

「……うちには4歳ぐらいの子供がいるのかな?」

「ううーん。だって仕方ないだろう?寝てたら世界がひっくり返ってたんだから……」


 ミラはそう言うと珍しそうにテレビを観ていた。


「まあ、ミイラからそれだけ風貌が変わったらもう見つかる心配はないな……だが3500年分の凄い汚れが付いてそうだ。一旦風呂に入るか」

 イピディアはそう言うと風呂の壁付きリモコンのスイッチを押して給湯を始めた。


「風呂って何?」

「お湯を溜めて身体を洗う場所の事だよ。……そうか、タオルもボディーソープもシャンプーも使い方が分からないか……」


 彼女はそう言うと頬を染めた。

「やり方も何もかも分からないだろう。私が一緒に入って入浴を手伝ってやる」


「ん?」

「け、決してやましい気持ちじゃないぞ?お前が困るだろうから……勿論私はバスタオルを巻いて入るからな!」

「身体を洗うのか?ミイラだったからボロボロにならない?」


「ううむ……それはそれでホラー展開だな……いや、私は魔女だ。気を付けて洗ってやるよ。フワッフワの泡で全身を包んでだな……全身……ミラの可愛い身体……待ってくれ、心の準備が」


 そう言ってイピディアは壁に手を当てて暫く呼吸を整えると、着替えの服を取りに行ってやった。


「あたし……大丈夫かな?」

 ミラが呟く。


 リモコンから『お風呂が沸きました』という音声が響いた。


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