ー1章ー 1話 「スライムと荒れた大地~希望は足元に~」

ごつごつした土の上に寝転がっていた俺は、ふと誰かの声で目を覚ました。


【じいさん】「おーい、若いの。こんなところで寝ておったら、風邪をひいてしまうぞ。いや、もうちょっとで野菜扱いにされるとこじゃったぞ?」


ゆっくりと目を開けると、そこにはシワだらけの顔をした白髪の老人が立っていた。

腰は曲がっているが、目には力がある。


【リュウジ】「……ここは……?」


【じいさん】「この村の外れの草地じゃ。おぬし、見かけない顔じゃが旅の者か何かかの?」


【リュウジ】「あぁ……失礼。俺は……(ん?名前はあっちの名前で問題ないのか?……考えても思いつかないし大丈夫かな)。リュウジ、てん……!?」


フッと脳裏によぎった女神の言葉。

転生のことは異世界の人には話してはならない。

思わず転生のことを話しそうになっていた自分に気づき、冷静さを取り戻そうと心を落ち着かせた。


【リュウジ】「そ、そうなんだ。実は旅の途中だったんだけど、急に倒れてしまって……ははは……」


【じいさん】「若いからといって無茶はいかんぞ?まして地面で寝るなんて無謀じゃ!床ずれどころの騒ぎじゃすまんぞ!」


【リュウジ】「ごもっともなご意見ありがとう、じいさん」


【リュウジ】(何とかその場をやり過ごせたか。 ふー、危ない危ない)


周囲を見回すと、乾いた大地が広がっている。わずかに草が生えているのは、今自分が寝ていたこの場所だけ。異様な光景だった。


【リュウジ】「ここだけ……草がある?」


【じいさん】「ふむ、そこにはな……数日前に退治したスライムの死骸を埋めたのじゃ」


【リュウジ】「スライム……?」


異世界といえばコレ、みたいな定番の魔物。現世のゲーム知識が頭をよぎる。

スライムは弱いモンスター……のはずだが。


【じいさん】「この辺りには最近スライムが増えておってな。畑の作物にも被害が出ておる」


【リュウジ】「被害って……スライムに?」


【じいさん】「うむ。これが意外としぶとくてな。村の若い者たちが棒で叩いて倒しておるが、なかなか骨が折れるのじゃ。あやつめ、打撃が効きにくいんじゃよ」


【リュウジ】(やっぱりな。ゲームの知識、伊達じゃない)


【リュウジ】「……っていうか、みんな魔法とか使えないの?」


【じいさん】「使えるなら、とっくにスライムなんぞおらんわい!」


俺も魔法が使えない仕様にされた。

つまり、俺とこの村の連中は条件的にほぼ同じ。

地味に心強い。


【リュウジ】「この草、スライムのせいで生えてるってこと……?」


【じいさん】「む、言われてみれば、確かにそうじゃな。あやつの死骸を埋めたあたりから、草が増えたような……まあ、偶然かと思っておったが」


つまり、スライムの体は……養分? 肥料的な何か?


その時、近くの畑で焚き火をしている農夫の姿が目に入る。


【リュウジ】(……火か)


【リュウジ】「なあじいさん、たいまつってこの辺にあるか?」


【じいさん】「おお、物置にいくつか余っておるはずじゃが……ああ、まさか夜道の散歩に使うとか言わんじゃろな?」


【リュウジ】「いやいや、ちょっと試したいことがあるんだよ」


もしかしたら、火ならスライムに有効かもしれない。

現代のゲーム知識に照らし合わせるなら、スライムは水属性、ならば火に弱いのは理にかなってる。

魔法が使えない俺にとって、たいまつは……剣と炎を兼ねた最初の武器だ。


【リュウジ】「そういえば、なんでこの村….こんなに荒れてるんだ?」


【じいさん】「うむ、旅の者では知らんのも無理はない。これは全て魔物の仕業なんじゃ」


【リュウジ】「魔物ってスライムだろ?」


【じいさん】「この辺りではなぁ、草木を根こそぎ食べてしまうから土地がやせ細ってしまうんじゃ」


【リュウジ】「なるほど、それでスライムが増えていってるのか」


【じいさん】「なーに、葉物の野菜は全滅したが、イモは採れる!この村もまだ捨てたもんではないわい。 わっはっはっは!」


貧しい。ボロボロ。でも、明るい。なんだか懐かしい雰囲気。


俺は、再び立ち上がる。目の前に広がる、荒れた土地。けれど、その中にたった一箇所だけ息吹く緑が、確かに希望の芽を感じさせた。


【リュウジ】「この村……まだ、なんとかなるかもしれない」


ここからが、本当のはじまりだ。

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