リライト・ギア

桜木 心都悩

第1話 最初の犠牲に手向けを

薄っすらと目を開けると見覚えのない宿屋に飛ばされていた。体中から血が湧き出るように熱い。頭がぼうっとして、黒いもやもやとした思い出の向こうで誰かの声が聞こえていた。

『カエシテ……ウバワレタ……』

声がするたびに重い痛みが眼の奥に響いた。

カナリアはゆっくりと目を閉じた。頭の中で響く音に紛れて、扉の向こうから宿屋の主人たちの会話が聞こえてきた。カナリアの部屋の前を幾度となくウロチョロしているらしい。

「彼女はだめだったのかねえ」

「馬鹿、そんなこというんでねぇ」

「だってアンタ、見たかい、あの勇者様の髪……」

カナリアはまた目を開けて、頭に手を動かした。思うように動かない手は白いシーツに広がる髪束をかすめた。

月明かりに、血に汚れた短い髪が映った。

それを見て漸くカナリアは自分が奪われたものを認識した。

「返して……かえしてよ」

頭何響く声と自分の想いが重なる。

カナリアは目を見開いて、歯を食いしばって、精いっぱいの叫びをあげた。涙と血で歪んだ顔、体中何処までも、傷だらけだった。


やがて叫び疲れるとカナリアの瞼は重くなっていった。微睡む視界の端で、白い小さな少女が泣いていた。

『ウバワレタ……カエシテ……ワタシノ××ヲ……』

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