ルートⅢ 北山 千夜の手②

 にらめっことは相手を笑わせたら勝ちで、その時点で終わりになる遊び。


 もう少し詳しく説明するなら、お互いに顔を合わせて表情だけで相手を笑わせる遊び。


 そして俺は今、とある空き教室で眼帯をしている女の子と顔を合わせている。


 これはこの子を笑わせたら俺の勝ちになるのだろうか。


「否かなぁ」


「あ、あの、逃げないから許して……」


 眼帯少女こと北山きたやまさんが何やら今にも泣き出しそうな顔で俺に言う。


 それでは俺が北山さんに何かしてるみたいではないか。


 俺はただ、北山さんの手を取ってから北山さんに話しかけようとすると逃げるから追いかけ、この空き教室に追い込んだ。


 そして北山さんが逃げないように壁に追い込んでから後ろの壁に両手をついて逃げられないようにした。


 確かに強引だったかもだけど、こればっかりは逃げた北山さんが悪い……はず。


「絶対に逃げない?」


「逃げない」


「逃げたら?」


「……怒る?」


 えっと、俺は目の前の可愛い女の子を抱きしめればいいのかな?


 初対面の時とのギャップが凄すぎてとりあえず甘やかしたくなる衝動に駆られる。


「怒る、よね……」


「多分怒らない。怒らないけど、俺は逃げられる度にこうして追いかけて追い詰める。そんで最終的に我慢が出来なくなって……」


「なって?」


「……」


「む、無言やめ……え? え?」


 やっぱりこの子は可愛い。


 俺は別に何も言ってないのに色々と考えたくれたようで、隠れてない右目がキョロキョロしている。


 しかも顔から耳から赤くなってて……


「北山さんは俺をどうしたいの?」


「そ、それは、あの……こく、はくについてでしょうか……」


 可愛い。


「それもだけど、今のはそんなに男を惑わすような態度取ってどうしたいのかって話。正直男の前でそんな態度だと襲われても何も言えないよ?」


 普段の北山さんを強い個性を知ってるのもあるんだろうけど、こんな人見知り全開のような可愛さを出されるのはよろしくない。


「いい? 男ってね、勝手に女の子は弱いとか思って守ろうとするの。実際は女の子の方が強いのに……」


 正直男女のどちらも関わってないから詳しくはないけど、教室で空気をしてると嫌でも人間関係の黒いところは見えてくる。


 やっぱり一番恐ろしいのは、三人グループの女子の誰かがいなくなった途端にその人の悪口を言い出すところだろうか。


 勝手に守ってる気でいる男というのは女子のそういう部分を見ないで生きてきたんだろう。


 女子た方もそういう相手には隠してるんだろうけど。


「……別に団長にしかこんなんならんし」


「なんて?」


「何も言ってないし! 団長は難聴系主人公だから聞こえないんだよ!」


 北山さんがなぜか拗ねたように頬を膨らませてそっぽを向いた。


 難聴系主人公。


 便利な言葉だと思ってしまう。


 困った時はまた使おう。


「俺にしか見せないならいいや」


「聞こえてるし」


「それはそれとして、逃げる理由教えて」


 北山さんが可愛くて忘れかけてたけど、俺が北山さんを空き教室に連れ込んだ……追い込んだのはそれが聞きたかったからだ。


「一応俺って北山さんに告白されたよね? まさかの嘘コクってやつ?」


「……嘘じゃないです。ただ、その……」


「やっぱり後悔したってことか……」


 気持ちは分かる。


 そもそも何を間違えたって俺に告白なんて普通はしない。


 他の四人だってきっと……


「そ、そうじゃないし! ま、まさか選ばれるなんて思ってなくて、いざ選ばれたら、その……はじゅかちく……」


 北山さんが両手で顔を押さえながらうずくまる。


 耳が真っ赤になってて可愛らしい。


「それなら良かったよ。とりあえず嫌われては無いってことで良い?」


 北山さんが頷いて答える。


「分かった。ちなみに北山さんってこの後暇?」


「暇、だけど、え? まさか……もう?」


 上目遣いはとても可愛いのだけど、何が「もう?」なのか。


 なんかさっきよりも顔が赤い気がするし。


「いや、でも告白したのはこっちだし、男の子だもんね。でもでも、まだそういうのは早いというか、いや別に嫌とかじゃなくて、まだ早いんじゃないかなって話で、いやいや、でも……」


 北山さんの一人劇場が始まった。


 どうやら壮大な勘違いをしてるようだ。


 このまま見てて、しばらくしたら勘違いを正して可愛い北山さんを見るのもいいけど、これ以上は怒られる可能性がある。


 妹に。


「うん、とりあえずうち行こっか」


「まあこれが全部勘違いで、実際はただの買い物に付き合って欲しいとかっていうお決まりなのは分かって……へ?」


 最後にまた可愛いを貰えたので、呆然としている北山さんをうちまで手を引いて連行して行きました。

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