ルートⅢ 北山 千夜の手①
五人から差し出された右手。
その中から俺は選ぶ。
「よろしくお願いします」
「………………」
まさかの無視。
俺が握り返したのは眼帯さんこと
中二病の疑いがある彼女だけど、何か惹かれるものがある。
「完全に固まってますね」
ピクリとも動かない北山さんを見て、
「これは『本気にしたの?』的な固まりでは無い?」
「そうですね。多分実感できてないんだと思います。そんなところが可愛いですよね」
真中さんと北山さんは知り合いなのだろうか。
どこか北山さんを見る真中さんの表情が優しく、そして嬉しそうに感じる。
「嘘でもいいので、耳元で『愛してる』とか言ってくれませんか?」
「言ったらどうなるの?」
「北山さんの可愛い表情が見れます」
「愛してる」
「……ゃ」
北山さんが左手で顔を隠しながらうずくまった。
可愛い表情は隠れて見えないけど、可愛い反応なら見れた。
「なんの躊躇もなく言うんですね」
「言えって言ったじゃん」
「そうですけど、男の人ってそういこと言うの躊躇いません?」
「俺に普通を求められても困る」
羞恥心が無いとかそういうわけではないけど、正直『愛してる』と言うことに関しては恥ずかしさとかを感じない。
というか、俺が恥ずかしさを感じる以上の反応をしてくれてるから俺が恥ずかしがる隙がない。
「一応あたし達って振られたことになるんだけど、この二人の恋愛見てるの面白そう」
「そうですね、なんだか応援したくなる感じです」
「にいなは応援なんてしてあげないもん。むしろ邪魔して──」
「じゃあ振られた邪魔者は退散するから」
「お幸せにです」
「はーなーしーてー」
なんだろう、一部始終を知らないと誘拐にしか見えない。
それか捕まった宇宙人の末路。
「今少し失礼なこと考えましたよね?」
「そんなことはない。それよりも北山さんはいつ頃回復するの?」
北山さんは今もずっとうずくまったままで動かない。
なんとなく手を離したら逃げそうな気がするから離さないでいるけど、これも理由の一つなのだろうか。
「それなら簡単ですよ。
「
北山さんが顔を隠す為に使っていた左手を目元に持ってきて、指の間から左目が見えるようにしながら立ち上がった。
頬は少し赤いけど、中二病っぽい。
「残念です。もう少しで北山さんのもっと可愛い姿が見れそうだったのに」
「ふっ、我がそんな簡単に無様な姿を晒すとでも?」
「無様なんかじゃないですよ。さっきの姿も含めて全部可愛かったです」
「う、うるさい! 悪の女幹部が!」
北山さんは、中二病が持っているべきものを全てもっている完璧な中二病な気がする。
普段は強気だけど主導権を取られると勝てなくなって、基本チョロい。
なんか見てて飽きないし、むしろ見たいまである。
「悪の女幹部ですか。それっていつの間にか主人公の男の子と仲良くなってる感じの?」
「ち、違うし! た、確かに主人公の優しさを受けて好きになるかもだけど、結局は敵だから倒されるんだし!」
「でもそういうキャラって最期は主人公の為に何かをやって味方に消されるか、主人公側の誰かにわざとやられたりするんだよな」
「それで主人公の男の子はそれに気づかないんですよね」
「多分気づかれたくはないんだろな。だけどいつかは気づいて一生主人公の心に残るやつ」
「それはヒロインの女の子と結婚してもですからむしろ勝ちでは?」
「……勝ち違うし」
真中さんと二人で少しやりすぎてしまった。
また北山さんを落ち込ませてしまったようだ。
「まあ、僕なら心に残るよりもずっと一緒に居たいですけどね」
「結局選ばれてるのはヒロインなわけで、そういった意味ではヒロインが勝ってるからな」
そこら辺は本人達の考え方次第だから俺達が何を言っても仕方ないところはある。
ちなみに俺が北山さんを選んだ理由はなんとなくだ。
なんとなく手が引かれていった。
「そうですね。僕は負けた女幹部なので去ります。後のことは主人公の男の子にお任せです」
真中さんはそう言って俺に優しく微笑んでからその場を立ち去った。
どうやらほんとに俺に丸投げするらしい。
当たり前と言ったら当たり前なんだけど、どうしたものか。
とりあえずさっき言われたお姫様抱っこを試そうとしたら、手を離した瞬間に北山さんに逃げられましたとさ。
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