ルートⅡ 二葉 怜花の手⑨
私のお父さんはすごい人。
だからお父さんの子供の私もすごい。
他の子よりもすごい私は偉いから誰とでも仲良くしてあげる。
例えばあそこでボーッとしている男の子とかにも。
「そこの子、どうしたの?」
「……」
気のせいかな、私が話しかけたのに男の子が何の反応もしない。
まさか私に気づいてない?
「ちょっと、ねぇ」
「……」
「ねぇってば!」
私が話しかけてあげてるのに反応しないことにイライラして、男の子の肩を掴んでこちらを向かせる。
しっかりと顔を見ると、なんだか迷惑そうな顔をしているような?
「私が話しかけてるのになんで無視するの?」
「なんで知らない相手に話しかけられて相手しなくちゃいけないの?」
「な……」
せっかく私が話しかけてあげたのに意味の分からないことを言い返された。
なんなんだこの子は。
「あなた、なんなの?」
「なんなのって言われても」
「私はここの会社の社長の子供なの」
今日はお父さんが早く帰れると言うから一緒に帰る為に待っている。
だからこの子もここに居るということは多分お父さんがここで働いているはず。
「あなたのお父さんはどうせ私のお父さんの部下なんでしょ? つまりあなたは私に従わなきゃいけないの」
そう、私のお父さんはこの会社で一番偉い人。
つまりこの会社で働いてる人はみんなお父さんの部下。
だからみんな私に従うべき。
「あなたぐらいだよ、私のこと無視してそんな言い方するの」
「あぁ……」
「今なら許してあげる。早く謝って」
私はかんだいだからちゃんと謝れば許してあげる。
最近の子は謝ることも出来ないって言うけど、この子はどうなのかな。
「……」
「はぁ……あなたね、謝ることも出来ないと将来大変だよ?」
「将来か……確かにやばいよな。俺には関係ないって思ったけど、あるかもなわけだし」
「何言ってるの? いいから早く謝って」
「お前さ、もう少し自分のことを客観的に見た方がいいよ?」
「え?」
今この子は何を言った?
なんだか私に対して説教をしたように聞こえたけど?
私は確かに「謝れ」って言ったよね?
「別にお前の人生だからどうなろうと俺には関係ないし、謝ってお前のくだらないプライドが守られるならしてあげようかと思ったけど、もしかしたらお前が俺の将来に関わってくる可能性もあるんだよな」
「ちょっ、ちょっと待って。なんであなたが私に説教なんてしてるの? 私のお父さんは──」
「それだよな。お前の父親がここの社長で、俺の父親の上司なんだとして、だから何って話なんだよ。それって別にお前は何もすごくないから」
「……」
言葉が出てこない。
この子の言葉を認めたとかじゃなくて、私にはこの子が何を言ってるのか分からない。
だって私のお父さんはすごい人で、私はその……
「親がすごいってのも大変だな、誰も何も言ってくれなかったのか。俺は気にせずうざいから言うけど」
今のが一番きました。
生まれて初めて「うざい」なんて言われた。
いや、多分言われるのが初めてなだけでみんなそう思ってたんだ。
だって、みんなこの子と同じような顔をしてたから。
「そんで後で後悔するまでがセットなんだからやめればいいのにね」
「え?」
「言い訳に聞こえると思うけど、俺は優しくないから思ったこと全部言っちゃうんだよ。だけど言った後に余計なこと言ったって後悔すんの。馬鹿だよね」
笑った。
ずっと私を見てる表情が怖かったのに、初めて笑顔を見せてくれた。
……
「ととさん来たから俺行くね。また会うことがあって覚えてたら……特に何もしないけど、またいつか」
名前も知らない男の子はそう言ってお父さんらしき人のところへ歩いて行った。
私のお父さんも隣に居る。
もしかしたらあの人が前にお父さんが褒めていた人なのかもしれない。
でも、今の私にそんなのはどうでもいい。
あの子は「またいつか」と言ってくれた。
もしもまた会えて話す機会があって、その時の私も変わらずこんなだったらガッカリさせてしまう。
そんなのは嫌だ。
それから私は変わる為に頑張った。
人を見下すことをやめ、敬語も覚えた。
最初はみんな驚いていたけど、多分バレてからは私が変わることに協力してくれた。
変われてるのかは分からないけど、どうしても会いたくなった私はお父さんにさりげなく聞いてあの子の家を教えてもらった。
そして会いに行ったんだけど、会えなくて、小さい女の子に「すとーかー」って言われてショックになり帰った。
確かに勝手に家を聞いて会いに行くのはストーカーと変わりなかった。
だからそれからはあの子、
だけど会う前に事件が起きた。
何があったのかをお父さんは子供の私には教えてくれなかったけど、どうやら千景君のご両親が亡くなったという噂は聞こえてきた。
私に出来ることなんてない。
それが分かってても何かしたかった。
でも、お父さんに会いに行くことを禁止されたから本当に何も出来なくなった。
だから高校で千景君を見た時は本当に驚いた。
話しかけたかったけど、私と話したら千景君がご両親のことを思い出してしまうかもしれない。
それが怖くて話しかけることは出来なかった。
多分お父さんもそれを知ってたから会わせないようにしたんだと思う。
まあ、私は抑えきれずに告白しちゃったんだけど。
そして千景君は私を選んでくれたんだけど。
今ならやっと言えるんだ。
「私はずっと千景君が大好きだよ」
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