ルートⅡ 二葉 怜花の手⑧
二葉さんのお父さんがうちに来た理由は、俺に父親のことを話すことなんだけど、どうやらそれだけではなく、俺の両親にお線香をあげに来たようだ。
だけど残念ながらうちには仏壇なんてない。
あったらいくら俺でも……気づく。
「
「何に?」
「私のお父さんが
二葉さんのお父さんが帰る時に「そういえば私としては二人が付き合うことに反対は無いからな?」と、言われ「だから私のことはお義父さんと呼んでくれて構わない」と、少し期待したような顔をされたので「そういうことならこれから話しますね、音無さん」と、言ってみた。
二葉さんを送ってくれた運転手の音無さんは二葉さんのお父さんだ。
「いつからって言われたら、二葉さんのお父さんが来て話をしてからかな。雰囲気も声も一緒だし、そもそも『音無さん』って『お父さん』を言いそうになったから無理やりそれっぽい名前にしたんでしょ?」
「松原君に隠し事は出来ないですね。浮気なんかしたらすぐにバレて泳がされそうです」
「隠し事って現行犯が一番効果的だから」
相手が何か隠してるのを察したとしてもその時は何も言わない。
確実な証拠か無い場合は言い逃れされて余計に警戒されるから。
だから一度はスルーして相手か気が緩んで現行犯のタイミングを見つけたらその場で追い込む。
今回のはそれとは違うけど。
「なんで最初は隠してたの?」
「お父さんが悪い人だからですね」
「理解。それじゃあいきなり話題変えるけど、さっきの続きしていい?」
俺がそう言うと、二葉さんの表情が一気に曇った。
さっきの話とは、二葉さんのお父さんが来て終わった、二葉さんが昔に俺に言ったことについて。
「やっぱり、私なんかじゃ駄目ですよね。分かってるんです、松原君に私なんかは釣り合わないって。それを告白して痛感しました……」
二葉さんの体がどんどん丸くなっていき、ソファの上で体育座りをしている。
なんか、この状態可愛い。
「そのまま膝に頬を当てる感じでこっち向いて」
「え? えと、こうですか?」
「そんでからかうみたいに笑って」
「は、はい」
体育座りをしながら首を傾げてからかうように笑う女子。
可愛い以外に何がある。
「やっぱり二葉さんって可愛いんだよね」
「私的にシリアスな話をしてるのにからかわないでください」
「二葉さんの罪悪感に漬け込もうかと。彼女の可愛いところを見るのって彼氏の特権でしょ?」
「それはそうかもですけ……え?」
表情変化。
からかい顔から少し拗ねたような顔になり、そして驚いた顔になる。
見てるだけで楽しい。
「わ、私が彼女でいいんですか?」
「なんで? やっぱり俺に告白したのってお見合いが嫌だったから? それならちょっと恥ずかしいな」
俺なんかが二葉さんのような美少女に告白される時点で信じる方が馬鹿だ。
これまでのやり取りから本気にしてる、したい自分がいたけど、やっぱり違うのか。
「忘れていいよ。俺なんかが二葉さんと付き合うなんて高望みが過ぎるよね」
「……真剣なお話いいですか?」
「俺はいつでも真剣だからどうぞ」
「……」
なんか疑わしいような目をされた気がする。
俺はどんな時でも『真剣』と書いて『マジ』と読める人間なのに。
「えっと、松原君は私のことが、その……好き、なんでしょうか」
「それは難しい質問だ。好きか嫌いで言ったらもちろん好きだよ。だけどこれが恋愛感情かって言われたら、多分そうなるのかな?」
「ですよね。私なんかを好きになんて……さっきから私のことからかってます?」
二葉さんが頬を赤らめながら拗ねたように言う。
可愛い。
「俺は嘘がつけないからそのまま真実を言ってるだけ」
「ばか」
さっきから俺に可愛いを多量摂取させて何をしたいのか。
そんなことされたらもっと求めてしまう。
「本当に私を好きになってくれるんですか?」
「俺ってさ、
なんで好きなのか、本当に好きなのか、そんなのは知らない。
結果的に俺は今二葉さんを好きになっている。
こうして今一緒に居るのがその証拠だ。
「だけど私は松原君に酷いことを……」
「そもそも覚えてないし、俺は二葉さんの部下でもいいよ。部下にいじめられる上司って可愛いし」
「……ほんとばか」
こんないじめがい……いじらしい上司なら大歓迎だ。
「私、結構めんどくさいよ?」
「知ってる。そこがいい」
「なんか馬鹿にされてる感」
「してるから」
「そういういじわるすると私だってやり返すんだからね」
「何してくれるの?」
「……怒らない?」
めんどくさいとか言いながらいざとなれば不安になる。
そういうめんどくさいところが可愛らしい。
「なんでもいいよ。さすがにメンヘラ拗らせて刺したりしなければ」
「しないもん。ただ私のことを忘れさせないようにするだけ」
「なんか言い方があれだけど、何す──」
言葉を途中で止められた。
俺の口を物理的に、忘れられない感触と共に。
「こ、これで松原君は私のもの。分かった?」
「……」
「む、無言やめて……」
「ねぇ、分かんないって言ったらどうなる?」
「え、私が泣く?」
「なんだ、もう一回の口実になんないんだ。残念」
火照る体を無視して軽口を言うと、二葉さんの顔が真っ赤に染まる。
俺まで顔が熱い。
「あ、あの、口実が無くてもいいよ?」
「言質いただきました」
その後は色々とあった。
俺と二葉さんが仲良くしてるところを光留と二葉さんのお父さんが覗き見してるのに気づいた二葉さんをなだめたり、何か言おうとした二葉さんのお父さんを人睨みして黙らせる二葉さんをなだめたり。
最終的には怒った二葉さんがうちに泊まったり、なぜか光留が二葉さんに懐いたり、本当に色々とあった。
結局光留が二葉さんを嫌ってた理由は分からないけど、俺と二葉さんは晴れて本当の恋人になれた。
お互いが名前で呼び合うのはもう少し先のこと。
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