ルートゼロ 出会い②

 偶然は重なれば必然になる。


 そんなことを昔の偉い人が言ってたような、最近見た漫画のキャラが言ってたような気がする。


 だから今回起こった偶然の重なりは全て必然であり、裏で誰かが仕組んだものである。


 つまり、ここから始まるのは醜い人狼ゲームで──


「なんで先客が四人もいんだよ」


「はいダウト」


「指さすな。折るぞ」


 こういう時に一番最初に発言をした人は大抵犯人か最初の被害者と決まっている。


 俺をここに連れて来て、しかも最初に発言をしたという二つのことから原中はらなかさんが全てを仕組んだ犯人だ。


「合ってる?」


「お前の考えてることなんか知るか。あたしの方が説明して欲しいっての」


「ご、ごめんなさい……」


 原中さんが視線を俺から四人の女の子の方に向けると、自分が見られたのかと思ったのか、この中で唯一顔と名前が一致する大人しめの眼鏡っ娘が怯えながら謝る。


 ちなみに原中さんのことも名前だけ知って顔は知らなかったけど、教室に残ってた人の話し声で原中さんだと分かった。


「原中さんがいきなり大きい声出すから」


「絶対にあたしのせいじゃないよな?」


「そういうのって自覚無しでやっちゃうものなんだよ」


「あたしの顔が怖いせいって言いたいんだな?」


「原中さんはどっちかって言うと……」


 危なかった。


 あと少しで「怖いよりも綺麗」とか言うところだった。


 そんなふざけたこと言ったらまた怒られる。


「まあそんなことは置いといて」


「絶対にろくでもないこと言おうとしたのは分かってるのに期待してる自分が嫌になる」


「そんなに自分を責めないで」


「お前ほんと後で覚えとけよ」


 原中さんが目を細めて俺を見つめてくる。


 俺に見つめられてドキドキするような心臓は付いてないと言うのに。


「よし、それじゃあ一から整理しよう。まずだけど、ここにいる五人は俺に用があるで合ってる?」


 自分で言っててあれだけど、なんかすごい自意識過剰みたいなこと言ってる。


 だけど多分それは合っているはずだ。


 だって俺は今日一日をかけて四枚の手紙を貰っていて、その全てに『放課後校舎裏に来てください』と書かれていた。


『校舎裏』というのがどこか分からなかったけど、原中さんに校舎裏に連れて来られ、そしてそこにはちょうど四人の女の子がいた。


 だから多分この四人も俺に用があるはずだ。


「って言っても言いづらいか。じゃあ俺が唯一分かる真中まなかさんは?」


「ぼ、僕ですか?」


 僕っ子ですか。


 なんか俺と同じように眼帯をしている子も反応していたように見えるけど、眼鏡で大人しくておさげで僕っ子。


 ちょっと属性盛りすぎではないだろうか。


「だってこの中で俺の家知ってるのって真中さんだけだよね?」


 俺が貰った手紙は全て別々の場所に入っていた。


 その一つ、最初に見つけた手紙は俺の家のポストの中に入っていて、多分この中で俺の家を知っている、というかこの学校で俺の家を知ってるのが教師を除いたら真中さんしかいないと思う。


「……」


「手紙も真中さんっぽかったし」


「…………」


「可愛い手紙をありがとう」


「ひと思いに殺してください……」


 なんだか思ってたのと違う反応をされた。


 そもそも思ってた想像が無いんだけど、真中さんが顔を両手で押さえてうずくまった。


 俺は何かした?


「あれはわれ達も受けるのか?」


「そうでしょうね。諦めて受け入れましょうか」


「何がそんなに嫌なんですかぁ? 『可愛い』なんて言ってもらえるならむしろ嬉しいじゃないですかぁ」


 名も知らぬ女の子達、眼帯さんと金髪さんとあざとさん。


 真中さんを属性盛りすぎとか言ったけど、残りの三人も結構癖が強い気がするのは俺だけだろうか。


 それはそれとして。


「誰とか分からないからなんとなくで選んでいい? 最初の真中さんのがうちの郵便受けに入ってた可愛いピンクのやつだよね? じゃあ鍵が掛かってるはずの俺のロッカーに入ってた明らかに高そうな紙を使ってるのが……」


「私ですね」


 俺がなんとなくで視線を送ると案の定金髪の子が手を挙げた。


 地毛なんだろうか。


「えっと、もしかして私のことを知らないので?」


「どこかで会ってたり? って学校が同じなんだからどこかで会ってても普通か」


 どことなく高貴な感じで、とても綺麗な金色の髪。


 こんな子を学校で見ていれば目が引かれると思うから会っていたら気づいてもいいものだけど、視界から『人』という情報を全て消している俺だから気づかないというのも有り得る。


「名前は聞いたことあるかも」


「そうですね。私は二葉ふたば 怜花れいかです。分かりますか?」


 二葉 怜花。


 聞いたことがあるような、無いような……


「二葉さんって名前は聞いたことあるかも?」


「私って自分で言うのもあれですけど、それなりに有名だと思ってたのが恥ずかしい」


「いや、多分この場であんたを知らないのはあいつぐらいだろ」


「うん、一年生のにいなでも知ってるー」


 なんだこの最近話題の俳優やアイドルを知らない情報弱者を見るような雰囲気は。


 小学生でもないんだから学校にいる人間を全員覚える必要なんてないだろう。


 たとえ有名だとしても知ってなくて今まで困ってないんだから別にいいじゃないか。


「私のことは知らないけど、真中さん、でしたか? のことは知ってるんですね」


「俺のこと馬鹿にしてる? さすがにお隣さんのことぐらいは分かるし」


 そう、俺が真中さんのことを認知していたのは家が隣同士だから。


 だから真中さんも俺の家を知っていた。


「ものすごいカミングアウトをあっさりと」


「あ、ごめん。これだと俺の家がバレたら真中さんのもバレるのか」


「あ、えっと、多分そこじゃないです……」


 うずくまるのをやめた真中さんが今度はうずくまらずに顔を両手で押さえながら言う。


 これ以上軽率なことは言わないようにしないと。

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