第10話 秘策

「入るぞー」

「いいわよ〜」


 ジークフリートの書斎から戻ってきた俺は自分の部屋に入るため、ドアを開けた。んだが、俺は部屋に入った瞬間、両目を見開く。

 ただでさえジークフリートの波動でクタクタだってのに、俺はその場に崩れ落ちそうになった。


「……おい」

「ん?何?…モグモグ…モグモグ…」

「殺されてえのか?まず一旦手を止めろ」

「は?何よ急に…モグモグ、今忙しいから邪魔しないで!」

「だから、それをやめろっつってんだよ、デブ」

「は、は、は、は?デブってなによ、私全く太ってないでしょ。言って良いことと悪いことの区別もつかないのーー?この勘違いナルシスト」

「ああ?なんだとゴラァァァァ」

「ああ?やるって言うの?」


 言い合いからの殺し合いになった。部屋に戻ってきたら、辺り一面お菓子の残骸だらけってどういうことだよ。一体どこからこんなに持ってきたんだ……

 俺契約するやつ間違えたか。



 ◇



 両者落ち着いた頃合いに俺が口を開く。


「…はあ、とりあえず、片付けながら聞け」

「なんで、私が…」

「てめえがやったんだろうがァァ」

「わかったわよ、はあ」


 ほんっとこいつもでっけえため息をつくなあ。

 俺はそう思いながら話す。


「明日、ユリウス兄さんと決闘することになった。父上の立ち会いの元な」

「ユリウス?そいつ強いの?」

「まあな、今のゼフィルス家では良くも悪くも真ん中くらいだな」

「…で?ご主人様は勝てるのかしら?」

「無理だろうな。今のままじゃ」

「じゃあどうするのよ?負けたらあんたの目的も私の契約条件も果たせないじゃないのよ」


 俺自ら勝てないと言ったことでヴァルは俺の顔に近づき、食い下がる。

 まあ、美人の顔がこんなに至近距離で見れるのは悪くないが…


「まあまあ、落ち着けって…あと、離れろ!」

「んぅ、で、どうするの?」

「安心しろ、俺には秘策がある」

「秘策?」

「ああ、今からその訓練をするから絶対邪魔するなよ。あーとー、絶対部屋を汚すなよ」

「わかったわよ、気をつける」


 俺はヴァルを睨みながら注意する。


「それと俺のことをご主人様って呼ぶな。敬語もやめろ。俺とお前は対等な契約を結んだんだ。…ご主人様は普通に俺がむず痒い」

「フフフ、わかったわ。これからはルークって呼ぶわね」

「ああ」



 ◇



 翌朝


「ククク、クハハハハハ。やはり俺も鬼才だったか。いや、鬼才どころではないな。これは天賦の才と言ったところか」

「ん〜、もう一晩中うるさくして!何よ、天賦の才って。あんたの自画自賛っぷりにはほんと呆れたものよね」

「ああ?自分に自信を持って何が悪い。傲慢でもなんでも勝てばいいんだよ、この世界」


 ヴァルが起きたが、起きて早々なんか変なことを言いやがる。第一自分に自信がないやつがお前と契約なんてできるかよ。


「ま、とりまそんなことは置いておいてだな。今日の決闘、100%ひゃく勝てるぞ」

「また…どっからその自信が出てくるのよ」


 ヴァルがどこか呆れたように言葉を返す。


「使えるようになったんだよ。アレがな」

「アレ?」


「ルーク様、当主様が外に出てこいと仰っております」


 メイドがノックをしてからドアの前で時間が来たと言う。


「時間が来たみたいだな。今から行くと伝えておけ」

「承知しました」


 ルークはメイドの足音が全く聞こえなくなってから言葉を紡ぐ。


「ククク、見ておけよ、ヴァル。お前が契約した男がどれほど高みに至る可能性があるかをな」


 そう言い残し、俺は部屋を後にした。


 部屋に一人取り残されたヴァルは呟く。


「ほんっとうに傲慢なルークと契約しちゃったわね…でも、私の契約者にはピッタリかもね」


 ヴァルの言葉は誰の耳にも届かず、静かに消えていった。







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