第4話 VS深紅の古龍 ヴァルグレア

 この世界に来て初めての圧倒的格上の相手

 A+級モンスター 深紅しんくの古龍 ヴァルグレア


 かつて大国を滅ぼしかけたこともある世界終末の象徴たる古龍。

 外見は巨大な翼を持つ四足竜。全身は黒曜石のような鱗で覆われており、尾は二股ある。そして、全長約30m、翼を広げれば50mにも届くだろう。

 本来、今の俺には勝てる要素などこれぽっちもないが、こいつの弱点を知っているなら少なからず希望はある。


 こいつの弱点は大きく分けて二つ。

 一つは、こいつの能力、"灰炎"は炎と氷を混在させる灰の焔を操る特異属性なのだが、この属性は闇属性に弱いのだ。生憎と俺の得意属性は闇なので、めちゃくちゃに相性がいいという訳である。

 二つ目は、"心核コア"。胸部深くにある『灰の心核』が本体で、普段は分厚い鱗で守られているが、一定ダメージを与えると、"憤怒形態"に移行し、自ら鎧を砕いて力を解放するのである。この時のみ、心核が露出し短い時間だが、これを集中攻撃して、壊せば簡単に倒せる。


「グギャギャギャギャー」


 ヴァルグレアが炎と氷を混在させる"灰の焔"を展開する。炎の灼熱と氷の凍結が同時にルークに向かって襲いかかる。

 ルークは自身に身体強化を施し、全力でバックステップを踏む。


「ククク、中々の威力だな」


 俺は存外、ルーク・フォン・ゼフィルスに染まっているらしい。この状況でも笑っていられるとは。自分でも驚きだな。


 とりあえず、まずはこいつを憤怒形態にしなければ勝ち目は無い。

 俺は剣に闇属性を付与する。そして、爆速で奴に向かって突進する。奴はまたも、灰の焔を出すつもりらしいが、それじゃあ遅い。俺はもう下に潜り込んでいる。腹の下に潜り込んだ俺は下から突き刺すように剣で腹を抉る。さすがに分厚いが身体強化していることにより、何とか刺すことは可能になっている。


「グギャァァァァァァァァァァ」


 奴は悲鳴を上げる。嫌な雑音が辺り一帯に鳴り響くが、俺はそんなのに構っている暇もなく、さらに剣を腹に差し込む。そして、そこから体内に爆撃魔法を披露する。


「くらうがいい、ヴァルグレア!外は鉄壁だが、中はどうかな?ククク」


 ズドーーーーン


 さすがの威力。近くにいたルークもその爆破の威力に問答無用で吹き飛ばされる。


 やがて、煙が晴れると、ヴァルグレアの姿があった。その姿を見たルークは思わず口元が緩む。まずは、第1関門突破。ヴァルグレアは既に憤怒形態に移行していたのだ。


(案外、いけるもんだな)


 この姿になったのなら、後は簡単。心核を壊せば良いだけである。そう結論づけ、攻撃に切り替えようと思った瞬間…奴の姿が消えた。


「は?……くっ……がはっ」


 混乱するのも束の間、気づいた時には壁まで吹き飛ばされていた。ルークはその衝撃で大量の血を吐く。


「グハァ……はぁはぁ、なんだこの馬鹿げたスピードは。原作ではこんなスピードじゃなかったぞ」


 どうする?俺の知らない能力だぞ。原作チートが使えないと悟り、ルークは頭が混乱する。


(くっ…どこ行きやがった)


 またもや見失う。

 右か?と思えば次は左から尖った爪で俺を切り裂く。何とか腕だけが反応し、奴の攻撃が俺の剣を掠ったことによって致命傷は防げたが、それでも立つことが不可能なくらいにはダメージを食らってしまった。


 そこで俺はふと思う。


(俺はなんでこんな痛い思いをしてまで、こんな所に来ているんだ?俺の家の爵位は公爵なんだ。そのままぬくぬくと育っていればこんな思いをしなくて済んだんじゃないか?)


 これは常に日頃心の底で感じていたことだった。ルーク自身がそれを認めず、逃げていただけで……

 そこでルークは逆流して吐き出す血とともに、いや、と否定する。


(たとえ、あのまま公爵という爵位に縋って生きていても結局は自らの死を先延ばしにするだけ。ならば、俺の進む道は自分で作るしかないんだ。今世こそは!俺が幸せになるために!)


「うおおおおおおおおお!」


 俺は気合いで決して動くはずのない身体を無理やり立たせる。相変わらず、フラフラとしているが、その眼には先程の諦めのようなものを感じず、希望に、そして、決意に満ち溢れていた。


 朧気な眼で奴を見据える。

 俺は奴の攻撃をもろに食らっちまったからチャンスは1度限り。奴が動き出す前に何とか攻略法を導き出そうと頭をフル回転して考える。


 やっぱこれしかないか。最もオーソドックスな戦法だが、一度で倒し切るにはこの方法しかない。


 そう結論づけた俺は奴に向けて手の指をくいっくいっとして煽る。

 ヴァルグレアは他の下級モンスターと比べると圧倒的な知性を持つ。だから、煽られたと分かれば、それに乗ってくる。俺はそれを逆手にとる。


 案の定、俺の煽りに乗ってきた奴をギリギリまで引きつける為、視力一点に身体強化を施す。


 これはルークにとって生か死の賭けであった。


(まだ行ける、まだ行ける、まだ、まだ…まっだ……ここだぁぁぁぁぁ)


 俺はギリギリまで引きつけた末、全力で横に飛び込む。すると、ギリギリまで引き付けられたせいか奴は止まれず、壁に思いっきり激突する。


 ルークはここが最後の討伐チャンスだと思い、自身にもう一度身体強化を施し、奴の心核に向かってスタットダッシュを切る。


 俺は高くジャンプして、心核の高さまで至ると、俺の今できる最高の一撃必殺をお見舞いする。


「俺の成長の礎になってくれて感謝するぞ。これで終わりだ。───黒閃刃シャドウブレイク・ジン


黒閃人は俺が編み出した闇を一瞬の閃光として放ち、時空を裂く斬撃だ。


 俺は心核を完膚なきまでに切り裂いた。殺ったと思ったルークは一瞬気が緩んだ。いや、緩んでしまった。油断してしまったのだ。


 奴の心核が壊れた瞬間、奴を中心に大規模な爆発が起こった。

 奴の自爆の事など頭の片隅にすらなかっただろうルークは確実に巻き込まれてしまった。


 



 爆発後、静寂な時が過ぎた。





 煙が晴れた頃、一つの声が響く。


「グハ…ゴホ、ゴホゴホ……クッ、クックック、クハハハハハハハハ。感謝するぞ、ヴァルグレア。非常に良き経験となった。この痛み、そして、最後まで気を抜かぬ重要さ、決して忘れぬぞ」


 彼はヴァルグレアが自爆する直前、咄嗟に周りをブラックホールで展開したことにより、爆破を完全に相殺することは出来なかったが、何とか致命傷を防ぐことが出来たのだ。


 なんと、五歳にしてルーク・フォン・ゼフィルスは、深紅の古龍 ヴァルグレアを苦戦を強いられつつも打ち破ったのだ。










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