第24話
ドラゴンは雲の間を抜けると、雲の上に出ていた。
その場所から下を見ると、見渡す限りその岩礁が大きく広がって居た。
「此れだけの大きな土地で暮らして居た生き物を、全て壊してしまったんですね。」
「ああ、そうだ。今なら判る。此れだけの物を壊してしまったんだ。五百年反省しただけで、許されるはずない。此れは、女神様の温情なのだろう。」
「そうですね。所でドラゴンさんは此れからどうするんですか?」
「そうだなぁ、儂は漸く、地下から出て来たんだ、暫くは残っている二つの大陸を見て回るとしよう。」
「それでは、一つ忠告をさせて頂きます。今この世界で生きて居る生物達で、ドラゴンさんの姿を見た者は、動物達の長ぐらいでしょう。地上生物の間で大きな混乱が起こってしまいます。王国の空に突然現れたりしないで下さいね。」
「分かった。ではどうすればいいのじゃ。」
「そうですね、では、一度動物達の長に集まって貰い、ドラゴンさんが長い眠りから目覚めた事を、各国の国王に文書を届けさせてはどうでしょう。そうですね、内容は
各国の国内の情勢について知りたい。その国の貴族と一緒に一度、ドラゴンさんを訪ねる様に通達を送ってはどうでしょう?」
「しかし、もし、誰も訪ねて来ないときはどうするんだ?」
「その時は、ドラゴンさんから出向けばいいんじゃないかなぁ。但し、その時に生じた、被害、損害、又場合によっては、国王が代わる場合もあるが、全て保障は出来ない。と、文末で伝えて置けばいいのでは?」
「そうか⁉ そうすれば、みんな来なくてはならなくなるんだな。」
「それと、もしドラゴンさんが、此の御山に、一般の国民も訪ねる事に不満を持たないのであれば、此の御山の頂上迄を、登山道として整備し、みんなが安心して登れるようにするけど、どうする?」
「だが、我を見て驚かないだろうか?」
「最初は驚くし、恐怖の対象になるかも知れないけど、この世界の守り神として、みんなが、気づいて行けば、こうやって、大陸の空を飛び回り、各国の情勢や変化を自由に見て回れるようになると思うけど?」
「そうだな、それは、儂が眠りに着く前に遣りたかった事かも知れん。」
「ではグレン、頂上迄の道の整備を頼んでいいか。」
「分かった。引き受けたよ。それと、僕が以前生きて居た世界では、御山の頂上に、お社を建て、其処に御山の神様をお祀りしていたんだ。それは造ってもいいかい?」
「其処に、儂は何時も居ないといけないのか?」
「いや、ドラゴンさんは其処には居なくていいよ、木でドラゴンさんの縮小版を作って、此れが、この世界の守り神のドラゴンさんです。って、全ての国民が見てわかるようにするだけだから。」
「それだけで、全ての国民が見てわかるようになるだろうか?」
「そうだね、今の世界だと、少し時間が掛かるかも知れないけど、必ずなるよ。
それに、この御山を登ったお土産に、掌位のドラゴン人形を売ればいいんだよ。」
「ではグレン、それも頼んでいいのだな。」
「分かった。準備が出来次第、直ぐに取り掛かるよ。」
そう話が纏まると、先程飛び出した御山の麓迄運んで貰い、ドラゴンさんと一旦別れた。
♢ ♢
辺境伯領に帰ると、世界の守り神のドラゴンが死んでしまい、この世界が無くなるかも知れない。とだけ聞かされ、その後の事情を全く知らない、ケイト様は、慌てて国王様や、王都のデイトス様に早馬を走らせて居た。
領地内の村長達や貴族達も集まり、辺境伯邸は蜂の巣を突いたような大騒ぎとなって居た。
其処に、のこのこ、帰った僕は、当然の如くみんなに取り囲まれたが、まずは、ケイト様に報告するために少し時間を頂いた。
一連の報告を全て終えると、ケイト様からは、領民に全て話しても構わないだろうと、言われたので、包み隠さず話す事にした。
「先ず、この件の話をする前に、皆さんには話して置かなければならない事があります。もし、ご家族で在っても話してはいけません。もしも、秘密が守れないと思った方は、此処から出て行って貰っても構いません。万が一にも、何処かで話した時は、必ずわかります。その事を踏まえて聞いて頂きます。皆さんお約束が守れますか???」
でも、誰もこの場所から出て行く方は居なかった。
「では、僕の出自からお話しいたします。」
僕は、自分の出自と動物と話せる能力の事も全て話した。そして、皆さんの反応を見ると、
「やはり⁉ おかしいと、思って居たんだよね。只の人間にこんな事出来ないよ。領主様自身、お気づきではないようですが、かなり色んな所でやらかして居ますよ。只、皆気づかぬフリをしていただけです。でも、本当に、皆領主様には感謝して居るんです。皆秘密は守りますよ。もしも、領主様がとんでもない奴等に襲われたら、儂らも皆困りますからね。」
「そうですか、そんなにやらかして居ましたか?」
「はい、うちの子ですら、領主様が傷を癒してくれたのを見て、父ちゃん、あんな事出来るの? って、真顔で聞いて来るぐらいだから。」
「そうだったんですね。」
「でも、自重はしないで下さいね。皆困りますから、ご領主だから出来るんだ。って、言ったら納得していたんで。此れからも宜しくお願い致します。」
「では、頑張ります。」
そう言うと、皆笑って頷いてくれた。
では、この一件について、順を追って話しますね。
「僕が今回、この辺境伯領の領主を拝命した事で、その証として、この世界の守り神様に会いに行かなくてはならなくなった事を鼠に伝えたのが、話の発端だったのです。」
世界の守り神である、ドラゴンさんの余命が今朝の日の出迄だったようで、それを僕に知らせてくれたのが、鼠の長でした。
そして、僕をドラゴンさんの眠る場所迄連れて行ってくれたのが、今僕の隣に居るクロです。このクロを連れて来てくれたのも、鼠達です。
クロはあり得ない速度で走ってくれましたが、ドラゴンさんの元に辿り着いたのが、ほんとにギリギリで、後数秒でも遅れて居たら間に合わなかったと思います。
本当は、もう死んでしまった。と思った位でしたから。
そして、息を吹き返したこの世界の守り神ドラゴンさんから、何故、此の御山の地下で死ぬまで、眠り続けたままだったのか、理由を聞いてビックリしました。
ドラゴンさんは、四千年前この世界の守り神として、女神様より、この海と空だけの世界を、好きにして構わないと言って任されたそうです。
先ず、この世界に三つの大陸を作ったそうです。その後、動植物が生まれ、それらは、やがて進化を繰り返し、今のような世界になって行ったそうです。
所が、各国の国王様や領主、貴族が家を興した時に鍵を授けて以降は、御山を訪ねる者も途絶え、寂しくなってしまい、五百年前、自分が作った世界だ、壊してしまおうと、大陸を一つ壊してしまったそうです。
それを知った女神様は怒り、この世界の守り神ドラゴンに後悔と反省をさせるため、五百年の眠りに着かせ、その期限が今朝の日の出迄だったようです。
反省が足りなければそのまま死に、そうでなければ、やがて誰かが助けに来てくれる。と言っていたそうです。
私は女神様に、今日初めてお会いしましたが、此方の世界に来る直前、女神様のお声を聴いたと思います。恐らく私をこの世界に招いてくれたのは女神様だったのでしょう。
只、私があの御山の事を、此の世界で聞いたのは、何人で有ってもこの世界の守り神様の居るこの御山に足を踏み入れてはいけない。という事でした。
恐らく、この世界の守り神様が居るこの御山を踏み荒らしては、神様のお怒りに触れると思い込んだ人々が広げた噂だったのだろうと思います。
私の元居た世界にもありました。でもこの世界とは少し違います。
国民はその御山の事を、霊峰富士と呼び、一度は富士山に登ってみたいと言う位、皆に慕われて居るとても美しい御山です。
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