第21話

 その後、僕と、コラン親子はシルビア様に呼ばれたので、出向いて行くと、洋服や靴それに宝飾品などの職人が待って居てくれ、僕は、その方々の人形となり採寸された。言われるがまま、正に此れがまな板の上の鯉になった気分なのか?と、思って居る間に全ての作業は終了していた。僕の後に、コランとコンタが同様の洗礼を受けた。その後の職人さん達との打ち合わせは全て、シルビア様にお任せした。


 別の部屋では、フレンさんとリリアさんがその洗礼を受けて居たらしいが、女性の皆さんはすごく喜び、とても楽しく幸せな内に、この洗礼の義は終了したらしい。


 その夜、ケイト様の執事室に、コラン親子とリリアさんに来て貰い、今後、僕が側近にと思って居る方々についての話をした。

 今ケイト様の側近は三人居るらしい。

 僕が、今、側近にと考えて居るのは、コラン親子と、ドロミテ子爵家のケリーを考えて居る事、金庫番には算術に長けたリリアさんと、補助でコランさんを考えて居ると伝えた。

「そうだな、今から教育すれば、コンタ君も十分、君の側近になってくれるだろう。グレン、君はこの短期間でよくそこまで成長したな。イヤ前世が大きく関わって居るんだろうな。」

「それじゃぁ。」

「ああ、其の布陣で大丈夫だろう。」

「ありがとうございます。それと、今回色々な出費をさせてしまい申し訳ありません。先日頂いた、金貨をお返しいたします。」


「グレン、いいかい、君はこの領地を治める領主になったんだよ、領地から上がって来る税金で、公務で必要な物は全て経費として賄われるから心配は要らない。

 ただし、絶対に勘違いをしてはイケない事は、領主だからと言って、税金は領主が、何も考えず私的に使って良いお金では無い。と、言う事なんだ。今、君達に使っているお金は、領主として、最低限必要な出費で有って、無駄使いしているわけでは無い。君がこの前置いて行った、ドラ―公爵家から持ち帰った家具や調度品は、君やコラン達の家にも置いてあるし、この領地の領民にも相場より安い金額で引き取って貰った。残った物は、商人の手によって、他国へ販売されて行く。こうやって使える物は使い、金品に変えられる物は代えて蓄えて置く、無駄に使わず、領主だからと贅沢する事無く、残ったお金は残して置く。

 そして、万が一に、領地内に不測の事態が発生した時にそのお金で、領民が安心して生活できるようにする。それが正しい、税金の使い方だと私達は思っているよ。


 それと、私達も、給料制にしているんだ。先日君に渡した金貨は私とデイトスが毎月みんなと同じように頂いた給料から、使わずに預金していた分の中から出したので在って、領民の為の積み立てには触って居ないから、心配はしなくていい。

「そうなのですね。ありがとうございます。では、私達の支度の分はすいませんが、お願い致します。」

「ああ、任せて貰おう。」

 「「「宜しくお願い致します。」」」

「では、此れから二年間で、立派な領主とその側近になって貰うよ。」

「「「はい、お願い致します。」」」

「今日は、疲れただろう、明日からの教育は待って遣れないから。みんな、ビシビ扱いて行くつもりだ。覚悟して居てくれ。」

「「「はい。」」」

「ではもう休みなさい。」

「「「はい、おやすみなさい。」」」とお部屋を後にして、それぞれの部屋に帰って行った。



 その翌日から、私は、ケント様より自身が領主となった、領地について詳しく教えて頂く事になった。

「この領地はコクン王国とリトラン王国に国境が接しているが、険しい山々がそびえているため、両国とも攻めにくく戦争には向かない土地柄なんだ。」

「そうなんですね。だから以前ケイト様は、この国が一番警戒しないといけないのは、戦争よりも、内戦や厄際と言っていたのですね。」

「良く覚えて居たね。でもそれだけが、戦争に向かない土地柄って訳じゃないんだ。」

「それは・・・? もしかして、ドラゴン?どういう事でしょうか?」

「知っていたんだね。」

「はい、此の領地にはドラゴンが居ると言う伝説が有ると聞きました。」

「それじゃぁ、あの海沿いにある、山を見たかい?」

「一度だけ、只、遠くから見ただけですが、どれだけ大きな山か検討も尽きませんでした。」

「あの山は、昔から神が住む山だと言われて居てね、あの山には何人も足を踏み入れてはならない。と言われているんだ。」

「神様が住んでいる山。私が元住んでいた、日本にもありました。その山は国の象徴であり、多くの国民にも親しまれ、霊峰富士と言われていました。」

「そうなのか、そんな山がグレンの故郷にもあったんだな。それとグレン、君は生涯で一度だけあの山に行かなくてはならない。と、言う事になった。」

「どういう事でしょうか?」


「君達に、宝物庫を作って貰った時、鼠君が私達だけしか開けられない鍵を教えてくれたのを覚えているかい?」

「はい、私には分かりませんでした。」

「新しく家を興すには、あの山の神より、その家の当主だけに授けられる鍵をいただかなければならないんだ。その鍵は末代まで、その家の当主にだけ、代々受け継がれるものなのだ。」

「それで、国王様が鼠に、君達は王家の長い歴史を良く理解しているのだな。と、言ったのですね。」

「そうだ。あの山の神様より、その鍵を手にした時、初めて君は、この領地の辺境伯になれるんだ。」

「もしも、コランが爵位を賜れば、一緒に行けるのだろうが?」

「そうなると嬉しいのですが?」

「まだ難しいだろうな。」


「この家に代々伝わる鍵は、あの山がこの世界に生まれた時から、あの山を守っている、ドラゴンから頂いたと言われているんだ。」

「え……⁉ ドラゴンにですか?」

「そうだ。ドラゴンにだ。ただ、この時代を生きて居る者にドラゴンを見た物は居ないと思う。」

「それじゃぁ、ドラゴンは…!?↷」


「グレン、ドラゴンは居るよ。あの山の地下に何百年も眠って居るんだ。」

「鼠君は見たの。ドラゴン?」

「十年に一度、各動物の長老達がそのドラゴンの元に集まって、この世界で起きている出来事や、対策を話し合う事になっているんだ。それが昨年、グレンと会った年の年末だったんだよ、それでグレンの事は去年の長老会で、みんなに話して置いたって、長老が言っていたよ。」

「それで、動物達が僕の事を鼠達から聞いたって言って居たんだね。」

「そうだね、実を言うと、長老は、俺は、癒し様のグレンに命を助けて貰ったと、鼻を高くして他の長老達に自慢したらしいよ。」

「何と、あの時助けた鼠さんは、長老だと言ってはいたけど…‼ そんなに偉い鼠さんだったんだ。」

「そうだよ、全世界の鼠達の頂点にいる鼠なんだ。」


 ケイト様が僕らの話を不思議そうに聞いていたので、鼠とのやり取りを全て話すと、何と、ドラゴンの伝説は逸話ではなく、実話で、動物界では、そんな事をして居たのかとビックリして居た。

「そして、もう一つ長老はこう言って居たよ。ドラゴンはグレンが来るのを、もう何十年も前から待って居るって。」

「それはどういう事なの、僕は去年此方の世界に転生したばかりなんだけど?」

「僕にも良く解らないんだけど、ドラゴンには先を見通す力が有って、恐らく厄際がこの世界に迫って居るんじゃないかな? と長老は言って居たよ。そして、それを払うのがグレンじゃないかなとも言って居たよ。」

「みんな、僕の事過大評価し過ぎだよ。そんな力は僕にはないよ。」

「そうなのかなぁ。 それよりも、長老様のお話だと、ドラゴンはどうも怪我をしているみたいだ、って言ってたよ。」

 僕と鼠の会話で、完全に置いてきぼりにされてしまった? ケイト様は、横でお茶を飲み始めてしまった。

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