第16話

「僕に何が出来るか分かりませんが、少しでもお力になれればと思いまして。」

「ありがとうございます。此方です。」

 部屋に案内され、奥様を見ると、何時から食事を受け付けて居ないのであろう?

 彼女は痩せ細り今にも命の灯が消えてしまいそうな状態でベッドに横たわって居た。

 ご主人様に許しを頂き、奥様の両手を僕の両手で包み込み額を当てて祈った。

 すると、奥様の身体全体が淡い光に包まれ、それが消えると、奥様の目は開き優しく微笑まれた。泣きながら駆け寄り縋り付く、ご主人とお子様を、その手で優しく撫でていた。

 漸く落ち着いたご主人は、奥様の周りに小さな種が沢山落ちている事に気が付いて、

「この種は、何の種だろう? この部屋に入った時は無かった筈なんだが?」

「この種は、癒し草の種です。先程ご主人様が居たところにも落ちている筈です。」

「僕知っているよ。此れだよね。」

「そうだよ、良く気が付いて偉かったね。」そう言うと、少年は照れたように笑った。

「この種は決して売ってはいけません。あなた方のように病気に困った方に使って頂きたい物だからです。庭先や裏山に撒いて置いて下さい。」

「分かりました。」

 ご主人が、先程自分が倒れていた場所を確認しに行くと、種は無くなっていた。

 奥様のお部屋に落ちていた沢山の種もいつの間にか消えて無くなっていた。

 ご主人は狐に化かされた様な目をしていたが、そんなものを持っていると知れたら命が幾つ有っても足りなくなる。と笑っていた。


「お兄ちゃん、あの種誰が持って行ったか僕知っているよ。鼠さん達がお口に一杯詰めて持って行っていたのを見たんだ。あんなに沢山持って行ってどうするの?」

「あの種を今度は、鳥さん達が森の奥や野道に撒いて行くんだよ。」

「何故。」

「森や山で暮らす生き物、勿論人間もね。怪我や病気を治す薬草になるんだよ。」

「そうなんだ。病気無くなるといいね。」

「そうだね、病気が無くなると嬉しいね。」

 父親と母親は、僕と少年の話を優しく微笑んで聞いていてくれていた。

 この後僕はこの家を出て、宿舎に帰った。

 

 帰着が遅れたせいで、食事は部屋に運んで頂き一人で済ませる事にした。

 王宮の鼠達が訪ねて来てくれたので、みんなで一緒に食事を済ませた。

 この時、出た癒しの種はぼくが保管する事にしたいと伝えると、彼等は布袋の中に拾い集めてくれた。

「みんな、ありがとう。」

「どう致しまして。グレン、僕達も君に会えて本当に嬉しかった。ありがとう。又何か有ったら言って欲しい。」

「ありがとう。又、何かあったら助けて貰えると嬉しい。」

 そう言うと、みんなは帰って行った。

 その後ボクはベッドの中で爆睡した。


         ♢ ♢


 翌朝僕は、激しい揺れで、目覚める事となった。

「地震だ~~~。」と飛び起きたら、知らない男達三人に囲まれていた。

「此奴寝ぼけてやがる。」とちょっと、やんちゃそうなお兄さんが僕の事を笑った。

「どうした、目覚めたのか、今の揺れは地震じゃないぞ、馬車が揺れただけだ。」と

 落着いた感じの男が答えてくれた。後にこの人が誘拐犯のリーダーだと分かった。


「そうなんですね、所で僕は、何処に連れて行かれて居るのでしょうか?」

「お前、慌てないのか?」

「頭の中はかなり混乱して居ます。僕は宿舎で寝ていたと思ったのですが、誘拐されたのですか?」

「そうだ、君は相当疲れていたんだな、俺達が揺らそうが、担いで走ろうが、爆睡していて起きなかったよ、お陰で簡単に此処まで連れ出す事が出来たんだ。」

「そうでしたか、誘拐されて起きないなんて、不覚でした。所で僕は、何処に連れて行かれているのでしょうか?」

 馬車の中を確認、みんな野良仕事している様な格好をしている。馬車の中も、野菜などを入れた籠が数個乗っている。

 それと、御者台に同じ様な格好をした男が二人座って居る、みんなで五人だ。

「そんな事お前が聞いてどうするんだ?」

「何処まで連れて行かれるのか、聞きたいと思っただけです。皆さんは農家の方なのですか?」

「どうしてそう思ったんだ?」

「そうですね、野良着を皆さん着ていますし、馬車にはお野菜が乗っていますが、仕草は、農家の方には見えない様なので。」

「ほう、中々良く見ているじゃないか。」

「その通り、俺達は、顧客に依頼された仕事を完了し、依頼金を稼ぐ事を生業にしている、裏稼業の物だ。」

「では、僕の事を誘拐して欲しいと誰かから依頼が有った。と言う事でしょうか?」

「そうだ、君はソラン辺境伯領のグレンで間違いはないな。」

「はい。」

「君については、暗殺の依頼は無い。ただ、もうソラン辺境伯領には戻れない。他国へ売り渡し、依頼金の一部にしても構わないそうだ。で、依頼された仕事が終わる迄の間、此処で大人しく待って居ろ。」

 と見張り一人が待つ森の奥の一軒家に放り込まれてしまった。

 その見張りは最初暫くは僕を警戒していたが、王都で買ったおやつを出して渡したらたら、良く喋るようになり、色々教えてくれた。

それで、みんなが何処に行ったのか聞いて見ると、ケイト様御夫妻とデイトス様御夫妻の暗殺に向かったとの事だった。

 王都とソラン辺境伯領地2カ所で同時に辺境伯様達を襲う計画を立てていたみたいだった。

「あの倍の人数でそんな計画して大丈夫なのだろうか?」 そう思って居ると、

「心配は要らない。ちゃんと領主様達(ターゲット)がそう動くように、中で画策する物が居るんだ。」

「それは、誰なんですか?」

「それは、領主邸の侍従長と宿舎の侍女だ。だからお前を攫うのは簡単だったんだ。」

此の暗殺を依頼したのは、昨年末、色々なやらかしで、国王様の怒りに触れ、家を取り潰された、元マゲン・ドラ―公爵だった。隠してあった資産全てを依頼料に差し出したそうだが、それでは足りず隣国に僕を売ることでどうにか依頼を引き受けて貰えたそうだ。

 僕は話しを聞いた後、彼を鼠達が取り囲み飛び着くと、恐怖の余り動けなくなってしまったようだ。


 先程から感じてはいたんだが、屋根の上に大量のカラスと、鼠達がいる。

みんなにお願いして、デイトス様とケイト様御夫妻を暗殺者達から守って欲しい。と頼んでみると、彼等は大きく返事をすると何処かに飛び立っていくのが小屋の窓から見えた。

 その後、僕も小屋から出ると。クロを鼠が連れて来てくれていた。

他多く居る動物達に今持っている食料を渡して食べて貰い、話せる様になると、今此処に居た動物達は、王都の鼠が僕を捜すように依頼してくれていたそうだった。

それと小屋の中に居る男を逃がさない様に頼んだ。

僕は、クロの背中に乗せて貰うと、マゲン・ドラ―元公爵を捜して貰った。


黒い犬は僕を背中に乗せると、走るから背中にしっかりと捕まっていて。鼠君は振り落とされない様に気を付けて。と言い走り出した。鼠は、僕の胸ポケットに入った。

かなり早く走ってくれていたが、風の抵抗も受けず、僕はただ座っているだけのように感じた。

 王都を離れ街道沿いの遠く向こうに、馬車が鳥達に襲われている? のが、見えた。

 よく見ると、襲われて居るのは、農夫に化けた暗殺者達だった。

 そして、ケイト様の警備兵によって暗殺者達は捕らえられていた。


 その道から少し外れた森の中に、人影が見えた。

「あそこに居るのが、今グレンが探して居る、元公爵だよ。どうする、捕らえて置くかい。」

「そうだね、逃げられたら困るから、頼んでいいかい?」

「了解したよ。」

 そう言うと、鼠は何か合図を送ると、今迄、暗殺者達を襲っていた鳥達が今度は、マゲン・ドラ―元公爵に向かって飛んで行った。鳥達が彼に襲い掛かろうとした時、彼は、恐怖の余り、気絶してしまった。其処にケイト様の警備兵が駆け付け暗殺者同様捕らえられると、森の見張り役も含めてみんな、王宮の衛兵に引き渡された。

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