魔法少女学園 ―推し変禁止と補佐科の感情戦―

第1話 推しと雨と、ヒロインにならない覚悟

日曜日。雨。

小鳥凪（ことり なぎ）は、傘をささずに歩くタイプの人間だった。

濡れた髪に日曜朝のニチアサがよく似合う。特撮ヒーローと魔法少女。推しに命をかける、それが彼女の唯一の趣味だった。

彼女は会社員だった。

使い潰され、徹夜し、心だけがニチアサで生きていた。だが、ある春の日、異変は訪れた。

「……次の魔法少女、あなたよ」

通勤中、路地裏で声をかけてきたのは、奇妙な制服を纏った少女だった。

凪は思わず笑った。

「私は推しを応援する側で十分。ヒロインになる気はないよ」

すると、少女は言った。

「だからこそ、選ばれたの。“魔法少女補佐科”に」

こうして、小鳥凪は“魔法少女学園”の補佐科にスカウトされた。

表向きには普通の通信制高等学校。だがその裏には、国家公認の魔法少女育成プログラムが隠されていた。選ばれた少女たちは、「災厄」に立ち向かうヒロインになる。そして、それを支えるのが――補佐科の生徒たち。

「私は、推しの戦いを記録するだけの石ころでいい。その姿を、全力で讃えよう」

かつて画面越しに見守っていたヒロインたちが、今、隣にいる。

だが凪は覚悟を決めていた。

戦わない者の誓い。

舞台袖の魂。

こうして、“魔法少女を支える者”として、小鳥凪のファンタジーが始まった。