恋春
チョコバデ
第一章 告白編
第1話 夢のまた、夢、だよね
広がる風景は理想の国に入ったようだった。黄色に光り輝くライトの中を馬がくるくると回ったり、赤や青、ピンクといった多彩な色が天の川の流れに沿って空を煌びやかに照らしていた。その下を私一人が優雅に軽やかに歩いていた。すると、メリーゴーランドの前をこっちこっちと私を不思議と誘い込んでくる背の高い人がいた。色に満ちた世界に浮かれていた私は、その人の手招きに磁石のように吸着してしまった。至近距離で見た時その人は男性ということが分かった。男性から放たれた温かいぬくもりで頼もしそうなオーラはまさに私の彼氏にしたい男性の特徴をバシッと当てはまっている。男性は、私の背中を温かいぬくもりのある手でそっと触れ、私をメリーゴーランドの中へと引き入れた。現実のことを忘れる世界と理想の彼氏の間に挟まれながら幸せでいっぱいだった。
男性は私を光る馬に乗せ、その前を男性が乗った。馬が走り出すと、空に輝く様々な色をした満天の星々が一層綺麗に見えた。さらに、前に座っている私の理想の彼氏をもまた一層美しく輝かせ眩しすぎて前が見えなかった。走りながら男性は自分語りをし始めた。
「実は、僕。今日は君とメリーゴーランドが無性に乗りたくなったんだよね。だから今日君を誘ったんだ。僕は女の子の気持ちがよく分からないんだ。こうして大人になった今でも、僕は、女の子の気持ちが分からない。だけれど、君は僕と一緒に乗ってくれた。遊んでくれた。この経験が僕に女の子の気持ちを掴める、第1歩になるかもしれない!うん、僕はそう信じたい」
彼は私の耳の鼓膜が破れるほど大きい声を出して自分トークをガッツポーズで締めくくった。何を自分自身に誓ったのかは分からないが、彼からは私を守ってくれる自信を感じさせた。
しばらくして何周目か把握できないほど回ると、彼はまたしても自分トークを始めた。今回は歯を食いしばって耐えがたいほど悔しい気持ちで、私を見つめて語った。
「一体、どこで道を間違えたんだ僕は。とうとう、好きな女の子に告白できなかった。僕は駄目な人間だ。あいつが近くで見ているんだ。どこにいるんだ」
すると、途端に、彼は私の肩を離れないようにがっちりと掴んで私を前方、後方に揺らされた。
「なぁ、君。僕の彼女になって欲しいんだ。頼むよ~。ねぇ~」
さきほどまで自信に満ち溢れていたくましさいずこへと流され、そこには情けない心だけが残されていたように感じた。彼は突然、私をどこにも逃がさないように強く抱きしめようと体全体を私に畳み込もうとした。怖くなってメリーゴーランドから逃げだし雑木林がある暗い方まで来てしまった。彼は明るいところを隈なく探していた。ぶるぶると小刻みに震わせていると、雑木林の中から手が出てきて誰かが私を呼んだ。すると、突然、私の手を強引に引っ張り雑木林の中へと引きずり込まれていった。林の中からかすかに見えたのは猛獣の姿と化したさっきの彼が雑木林をぎろりと覗き込んでいる様子が見えた。心臓がドクンと重く動き、あまりにの怖さに叫んだ。
「あぁーーー!!」
そこは私の自室だった。カーテンからは陽光が射し込み、電気は消していたが明るかった。
「夢か」
幸せな世界から現実を見たかのような不思議な夢だった。ふと、時計を見ると長針が7の数字を指していた。
「やばい、遅刻するかも」
私は大慌てで花玉の水色のパジャマから制服に着替え、撥ねた髪を櫛で溶かし髪に艶を出すようにオイルを塗った。お母さんが握ってくれた手のひら一杯に入るおにぎりを持ち、中学に登校した。夢の中で出逢った理想の彼氏は、みんなと違って、私にとって夢のまた、夢、だよね。私は彼氏を早く作りたいと夢にまで願っている。
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