第14話
リラに家まで運ばれたアルベールは、リビングのソファに座らされ、腫れあがった足を手際よく治療された。
リラは薬草をすり潰し、患部に優しく塗り込んでいく。
ひんやりとした感触がじんわりと痛みを和らげ、アルベールはふぅと息を吐いた。
彼女の手つきは迷いがなく、まるで熟練の医者のようだった。
脚に添え木をし、固定してくれる。
「これで大丈夫。あとはゆっくり休んでね」
リラはにっこりと微笑む。
その笑顔に、アルベールの胸は温かくなるが、同時に自身の不甲斐なさに苦笑するしかなかった。
まさか、姫に助けられ、しかも手厚い看病まで受けることになるとは。
騎士として情けない限りだ。
「ありがとう、姫。まさか助けていただけるとは思いませんでした」
「アルを助けるのは当然でしょ」
リラは何でもない事のように言い、彼の言葉に首を傾げた。
そのまっすぐな瞳に、アルベールはまたもや顔を赤くする。
アルベールは結局、その夜はリラの家で過ごすことになった。
リラは彼のために温かいスープを用意し、寝具まで整えてくれた。
狼がベッドの傍らに丸まり、鳥はアルベールの頭の周りを飛び回り、蜘蛛は天井の隅で静かに見守っている。
モンスターたちもアルベールを心配しているのだと感じ、彼はじんわりと胸が熱くなった。
翌朝。
足の腫れが引いたアルベールは、リラに別れを告げようとした。
しかし、リラは「まだ完全に治ってないでしょ」と、彼の腕を掴んで離さない。
「今動くと悪化して治りが悪くなる」
アルベールはベッドに連れ戻されてしまった。
アルベールは国王のことが気になったが、リラはアルベールを帰す気はない様子で、彼の後ろには木の枝が控えているのだ。
まるで「動くならベッドに縛り付けるぞ」と脅しているようにしか見えない。
「分かりました。国王には手紙を書きます」
「うん、1日じっとしていたら良くなると思う」
「1日で良いのですか?」
「アルベールは騎士だし、体つきも人よりしっかりしているでしょ?」
リラは任せてと、胸を叩いた。
「朝食を持って来るね!」
意気揚々と朝食の準備に向かうリラである。
アルベールは待っている間に国王に手紙を書く。
『少々、怪我を負いました。明日には戻ります。申し訳有りません』
口笛を吹くと、アルベールの伝書鳩が飛んでくる。
手紙を脚に結んで飛ばした。
「朝食はパンだよ!」
リラはパンにジャムを塗ったものと、サラダ、そしてスープを持ってくる。
「ありがとうございます。いただきます」
アルベールの食事を眺めるリラは楽しそうだ。
「このジャムは何のジャムですか?」
「蜂モンスターがくれた蜂蜜と、赤プヨン液を混ぜたもの。赤プヨン液も蜂蜜も骨のくっつきを良くしてくれるんだって。サラダは木のモンスターがくれた葉と、蜂の巣を砕いてあえたよ。香ばしくて美味しいでしょ? スープは、亀の甲羅。脱皮してくれたの」
「すごいですね」
とんでもなく高級な朝ご飯である。
「姫、あのですね。モンスターたちもホイホイ貴重な物をくれるわけでは無いでしょ? 特別の貢物だと思うので、それを簡単に私や他所の人に与えてしまうのは勿体ないですよ。もっと大事に使わないと」
モンスターたちもそうそう貴重な品を持っているわけではなく、たまたま持ってきた貴重な物を特別にプレゼントしてくれているのだろう。
リラはその有難みがまだ分かっていない様子だ。
有ればあるだけ使ってしまえば、すぐに無くなってしまう。
大事に使わなければならない。
特に、リラはよく木のモンスターの貴重な苔を使ってしまうが、その量でも育つのに千年かかったりするのだ。
亀のモンスターも、若い個体の脱皮なら10年に一度とかで起こるが、万年亀になると千年単位や万年単位なんてこともあり、かなりの貴重素材になってしまう。
リラはそれを知らずに使ってしまっているのではないかと、アルベールはいつもヒヤヒヤしていた。
「アル、私は大事に使っているよ。大事なアルが怪我してるんだから使うに決まっているでしょ? アルだから使っているの。通りすがりの冒険者とか、見知らぬ他人に使ったりしないよ」
リラはムッとして見せる。
そりゃぁ、たまに幻のキノコとかでも、良いかなぁってあげちゃいそうになる事はあるけれど……
リラはちゃんと分かって使っていた。
とても貴重な品や、そうでない物は図鑑で覚えた。
それに、木のモンスターや岩のモンスター、亀のモンスターなんかは長老クラスは長年生きており、物知りである。
動きも鈍く、その場から動くことは少ないが、リラが会いに行くと話しかけてくれることがある。
囁きのような、聞き取りにくい小さな声でリラに森のモンスターについて教えてくれることがあった。
だから食べられる物と、毒草、薬草の見分けがつけられるのだ。
それに鳥が言葉を覚えてからは、他のモンスターの声をよく届けてくれるので、リラはかなりの知識量が増えている。
「アルが考えることは美味しいか、美味しくないか、それだけ。美味しい? 美味しくなかった?」
「申し訳有りません、姫。とても美味しいです」
アルベールを見つめるリラの瞳は好奇心いっぱいで、いつ見ても可愛らしかった。
アルベールはそんな瞳をいつまでも見ていたい気分になるのだ。
食事が終わると、リラはまたアルベールの脚の具合を見てくれる。
「やっぱり治りが早いね。明日の朝には治るよ」
リラはそう言って、薬を丁寧に塗り、固定してくれた。
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