第13話
家に帰ったリラはアルベールを再び家に招く。
夕食を御馳走したいと言うリラの頼みに断りきれず、アルベールはもう一度、リラの家に上がった。
リラは手際よく料理を始める。
しだいにカレーらしい良い匂いがし始めた。
リラが作ったカレーは緑色であった。
アルベールはグリーンカレーなんて凝っているなと思いながら食べる。
カレーは絶品であり、高級感あふれる味がする。
「味付けは何ですか?」
問いかけると、リラはニコニコしながら言う。
「仲の良い木のモンスターが分けてくれた苔を入れてみた。カレー粉はこの前助けた冒険者さんが親切にくれたの。合うかなって思ったけど、やっぱり合うよね!キノコのモンスターがくれたキノコも美味しいでしょ?」
アルベールは頭を抱える。
いつの間にか冒険者まで魅了してしまったらしい。
薬屋を開くというリラが心配になるアルベールだ。
それに、幻のキノコと貴重な苔をこんな大胆にカレーにしてしまうなんて、とっても合っているがかなりの贅沢だ。
アルベールは胃が痛くなりそうである。
食事をご馳走になり、皿を洗おうと立ち上がるアルベールだが、皿は木の蔦が勝手に持って行って洗ってくれた。
ご丁寧に食器棚に収われていく。
ただただ驚くアルベールだ。
「家って便利だよな」
ハハッと笑うリラだ。
「普通の家はこんな事しませんよ!」
アルベールの言葉にリラは「そうなのか?」と不思議そうだ。
アルベールはそこで気づく、持ってきた荷物なども、この家なら勝手に片付けるのではないだろうかと。
そこにリラの甘え上手な所が見え隠れして、なんとも可愛らしい人だと悶えそうになる。
グッと拳を握って堪えた。
無垢で無知だというのに、天然魔性である。
末恐ろしい。
このままずっと森に閉じ込めておきたい気分だ。
自分でも恐ろしい事を考えていると、アルベールは頭を振った。
そろそろ帰ろう。
「あ、駄目」
帰ろうとする素振をみせたアルベールを咄嗟に引き止めるリラ。
「どうしました?」
「木のモンスターがサワサワ幹を揺らしている音が聞こえるだろ?」
「え……」
アルベールには全く聞こえない。
「これは、大雨が降る予兆だ。でも通り雨で直ぐ止むタイプだからちょっと待ってから出た方が良いよ」
「そうなんですね」
アルベールはリラの話を聞くと頷く。
彼女の忠告は当たりそうだ。
とりあえず世間話でもすることにする。
「薬屋を開くのに、銀行に預けた薬草やプヨン液なんかの使えそうなやつは持ってきて欲しいんだ。店の方にお願いしたい」
「かしこまりました」
「モンスター達はもうここが店みたいなものだし、人通りの多い所に出ちゃうと襲われちゃうかもだから、こっちはモンスター専用にして、向こうの薬屋は人間専用にしようかって思う」
「良いアイデアですね」
「そうだろう?」
フフンと得意げに鼻を鳴らすリラだ。
すると、突然ドジャーーと外からすごい音が聞こえてくる。
「これはすごい雨だ」
驚いた。
リラの忠告を無視して出ていたら、今頃はずぶ濡れどころの騒ぎではない。
馬は脚を滑らすなどの危険があったし、最悪怪我をすることになっていただろう。
「10分ぐらいで止むみたい」
「姫は何でもご存知ですね」
「何も知らないよ」
フフッと笑うリラにフフッと笑うアルベール。
「薬草の本をまた何冊か選別して持ってきますね」
「うん、また町に行くとき一緒に行こう」
「もちろんです。私は姫の忠実な下僕です」
「友達じゃだめなの?」
「私は騎士ですので」
「そうなんだ。分かった」
リラは少し寂しいが我慢しなければいけないと耐える。
やっぱりアルベールに側にいて欲しいと感じた。
そして10分ほどで予想通り雨が止んだ。
アルベールは玄関に向う。
道がぬかるみ危険ではないかとリラは心配したが、アルベールは平気だと言う。
「じゃあ私はこれで、姫おやすみなさい」
「おやすみなさい」
玄関の外まで見送るリラ。
アルベールは馬に跨り、花束を抱えながら去っていった。
ぬかるみに気をつけながら帰る途中、アルベールは川の増量を確認した。
一時的な雨でもかなりのものだったので、地盤が緩んでいる。
気をつけなければ。
そう思い、慎重に進む。
途中、道が川になっており、通れなくなってる箇所を見つけた。
アルベールは仕方なく遠回りする。
道なき道を進むが、この辺りは既にアルベールの庭のようなもので、迷う心配はなかった。
しかし、気をつけてはいたが、馬が脚を滑らせてしまい、そのまま崖下に転がり落ちる。
馬は崖の上で踏みとどまれたようだ。
混乱し「ヒヒーン」と鳴いて暴れているのが見えた。
「俺は大丈夫だ」
そう、馬を安心させようと声をかけた。
持っていた花束を散らしてしまったのが申し訳ない。
今、アルベールは崖の中腹の出っ張りで運良く止まっている状態だ。
下は濁流である。
困ったことに身動きが取れない。
「困ったな……」
ここで一晩明かすしかないか。
アルベールを送り出したものの、無事に帰れただろうかと、リラは心配していた。
そんな時、コンコンと扉がノックされ、誰だろうと思いながらドアを開けると、アルベールの馬が鼻先でドアをノックしていた。
「アルに何かあったの!?」
リラは困惑する。
「アル、崖下落ちた」
ヒヒーンと鳴く馬の言葉を、鳥が通訳した。
「え!? 案内して!」
リラはすぐにアルベールの馬に跨った。
走り出す馬の横には狼がぴったりとついていく。
アルベールを送り出す時に、狼も一緒につけたらよかったとリラは後悔した。
馬が止まった場所でリラは降りる。
そこには、リラがプレゼントした花束が落ちているのが見えた。
「アルーー!!」
崖下を見ながら声をかける。下は濁流だ。
まさか、あの濁流の中に……
背筋が凍る。
「リラ? 姫ーー!」
下から声が聞こえた。
リラからは姿を確認できないが、どうやら崖の中腹で留まっているようだった。
ホッと胸を撫で下ろした。
「今、助けに行く!!」
「危ないので来ないでください!!」
「分かった!!」
姿は見えないが、会話ができることにリラは安心する。
リラは木のモンスターを呼んだ。
木のモンスターはすぐに駆けつけてくれる。
「頑丈な蔦をおろせる?」
リラの声にモンスターは意図を察し、蔦をゆっくりと崖下に下ろした。
「アル! 蔦に捕まって!」
「掴みました!」
アルベールが蔦を掴むと、蔦はアルベールの腰に巻き付き、引っ張り上げてくれた。
無事に崖の上まで上がると、蔦はアルベールから離れていく。
「良かった!!」
リラはホッとしてアルベールに抱きつく。
アルベールもホッとし、思わずリラを抱きしめた。
「ありがとうございます、姫」
お礼を言うと、ハッとなってリラを離す。
「これではどっちが護衛の騎士か分かりませんね」
そう言って、アルベールは落ち込んだ。
「私がアルの騎士で良いんじゃない? 姫!」
「やめてください、姫」
「百合は無事だったよ、姫」
「良かったです」
アルベールは唯一無事に残っていた百合をリラから受け取った。
「痛っ……」
馬に跨がろうとしたアルベールだが、脚の痛さに気づいた。
「大丈夫!? 見せて!」
アルベールの脚をズボンの上から触ると、かなり腫れていた。
「兎に角、私の家に戻りましょう」
「私は大丈夫です」
「駄目です!」
リラは馬に跨ると、蔦がアルベールの腰に巻き付き、勝手に馬に乗せてしまう。
リラは後ろからアルベールを支えるように手綱を引いた。
いつもとは逆の体勢だ。
アルベールは「姫がとても逞しい」と、顔を真赤にして照れてしまうのであった。
そんなこんなで、またまたリラの家に帰ってきてしまうアルベールだった。
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