第9話 武器屋にて

翌朝、マリーと冒険者ギルドのすぐ近くにある武器屋に訪れた。


百太郎は買い物の邪魔になるかもしれないから、今日は外に出し自由にさせている。


どっか遠くへ羽ばたいていった。


夜には必ず帰ってくるとマリーは、嬉しそうに言っていた。


これから行く武器屋はギルドから近く、


人気店のようだし良い武器も手に入るだろう。


今日の目的は、お手頃価格で頑丈、良く切れる剣を購入するのだ。



「カランコロン」


扉を開けると、呼び鈴がなる。


「こんにちわ」


スキル翻訳のおかげで、俺が言った日本語は、


現地語へと勝手に変わっているはずだ。


現地語の挨拶はまったく分からないが、問題無い。



入って周りを見渡すと、店内は30坪ほどの広さで、隅から隅までズラーと、


これでもかというほど、武器や防具が飾られている。


俺のような冒険者が数人、お客として来ているが分かる。


武器を手に取って真剣な顔で、品定めをしているからだ。



これだけあると、思わず色んな武器を手に取ってみたくなる。


丁度手前に先端にトゲトゲがついたこん棒がある。


人や物が周りにいない事を確認してから手に取って、


軽くブンブンと振るって感触をたしかめてみる。



「ダメですよ、勝手に触って振り回して、壊したらどうするんですかぁ、


 プンプンですよ!」


ほほを膨らませたマリーにいさめられる。



これ以上振らせないように、俺からこん棒を取ろうとしてくる。


そんな事されたら、余計に振りたくなる。


「渡すんですよー」


「もっと振らないと、この武器の良さが分からない!」



身長の優位差を活かして、手の届かないように背伸びをしてみる。


マリーは背伸びをして、頑張って取ろうとする。


マリーの反応が可愛らしく、意地悪をしてみたくなったのだ。



アーアーワーワしていると、声をかけられた。


「いらっしゃいませ」


「本日はどんな武器や防具をお探しですか?」


出迎えてくれたのは、かっぷくの良い笑顔満点のお兄さん。


急いで、こん棒を元に戻しながら、尋ねてみた。


「今日は剣を買いに来たのですが、見せてもらえますか?」



そうですか・・・・とひとしきり、俺たちを上から下までじっくりと


見たあと、手をすりすりしながら、


「丁度、今オススメの剣を入荷しましたので、是非手に取って


確認してみてください」


「さ、どうぞこちらへ」



店員に誘導されて、ズカズカと店の奥へと案内される。


何も無い廊下を20メートルほど歩かされている。



え・・・・・何か恐い。


特別顧客的な扱いされそうだけど


高い物買わされるんじゃないよね?


初来店のお客さんなのにぃ?


騙そうとしていないよね?


120ゴールド以上は出せないけど。


何か恐い。


次第に心臓がドキドキとしてくる。



10人ほど座ってのんびりできそうな、まぁまぁ広い部屋に案内される。


高級そうなテーブルと、座り心地のよさそうなふかふかなソファ。


金色の西洋の鎧のようなものや、細長い針のような刀、


銀色の大きな装飾がしてある盾もある。


座って待ってくださいと俺たち2人は待たされている。



不安になって、マリーにコソコソと小声で聞いてみた。


「あの、普通、武器屋で物を購入する時って、個室に案内されるの?」


「私が違うお店で、メイスを買った時は、その場で選びました」


何故か笑顔で、ルンルンのマリー。


「個室で対応してくれるなんて、丁寧で親切なお店ですね!」


本当にそうか?


マリー、人を疑う事を知らないから俺、騙されないか心配になるよ・・・・



店員が、布にまかれている大きな物と、コップに入ったお茶を2つ持ってきた。


「のどが渇いていらっしゃるんじゃないですか?飲み物でも飲んで休んでください」


「冒険者として、活動していると見受けられますが、もう活動は長いんですか?」


「いや・・・初心者でつい1か月まえから活動してます」



「そうですか、そうですか」


「間違いでしたらすみません、昨日魔熊を倒した冒険者様ですよね?」


ばれてるーーーーー


「ははは、偶然倒しまして」


ゆっくりとお茶を口に運んで飲んだ。



マリーが、さも嬉しそうに話に加わってくる。


「スサーナ様って、本当に凄かったんですよ!」


「相手の攻撃を回避して、スバーって剣をふって・・・・」


「ブヮァッ」


俺はむせて、お茶を吹き出してしまった。


おいマリー、合っているが違うぞ。


「???スサーナ様って武神の神様ですか?」



慌てて俺は会話に割って入った。


非常にまずい。


「ははは、何言っているマリーよ、俺ショウが倒したではないか!」


「まぁ、スサーナ様のように、凄い剣技で倒したという事だよな、な!」


「ははは、恥ずかしくなるから、少し口を閉じておいてもらえないだろうか」


マリーは口に両手を当てて、しまったとバツが悪そうな表情で、


小さく3回ほどうなずいている。


直接こうでも言わないと、マリーには分かってもらえない。


ここでは悪いが、黙ってもらう事にした。



「なるほど、それは素晴らしい戦闘だったのでしょう」


「その戦いを間近で見たいものですな!」



何とか、バレずにすんだ。


新しい人生が初めの方で、台無しになる所だった。


おれは有名になりたくない、ほどほどにひっそりと


それで楽しく生きて行きたい。


スサーナが守護してるなんて知られたら、有名なってしまって生きづらくなる。



「そうそう、これをみてもらいたかったのですぅ」


店員が、まいてある布をほどいて出てきたのは、ものの見事な剣。


例えるなら、どこぞの勇者が最終決戦で使いそうな、ゴッツイ


キラキラと目立つ剣が出てきた。


どうぞと、渡される。



ひとまず、渡されたので、剣の重さを確認しつつ、


刃の部分も、さやから抜いてみる。


10センチ抜いて、すぐ戻した。


正直、見ているようでまったく見ていない、だって買わないから。


サッサッと対応して、店員へ返す。


「とても素敵な剣ですね・・・・」



ただ・・・・高いそうなのは、もう雰囲気で分かる。


あまり、手でベタベタ触りたく無いのだ。



「ですよねーーー」


「今お手持ちは、いくらですか?」



あっしまった。


そういう事か、昨日の報酬を腰の袋に入れたままだ。


パツパツの袋は、いかにもゴールドの硬貨がギッシリと


入っているのがバレバレである。


これを見て、大金を持って武器を買いに来たと勘違いされたんかーーー。



ギルドは、銀行に似た対応もしていて


ゴールドを預ける事が出来れば、引き出す事が出来る。


いつもはクエスト報酬をもらった後、一部預けている。



昨日に限って、魔熊を倒した事がバレ、その場にいた冒険者たちがザワついており、


預けるのを忘れてしまったのである。



魔熊を倒した情報は、この武器屋にも届いており、


男女ペアのパーティーで、身の丈や年齢や風貌なども


伝わっているのだろう。


大金を得たから、武器を買いに来たと思わせてしまったのだ。



渋い顔で俺は答える。


「120ゴールドです」


「いやいやいや、腰にあるじゃないですか?」



「これは・・・・そう、家をのちのち購入したくて貯金にするんですよ」


「なので120ゴールドだけしか、使えないんですよ、ハハハ」



「チッ」


店員から舌打ちが聞こえ、笑顔が消えムスっとしている


「今の世の中120ゴールドで、剣なんて買える訳ないだろ」


「皆、大金を準備して武器は買いにくるんだよ!」


「この田舎者が」


「冷やかしは迷惑だ、さっさと帰れ!」


「二度と来ないでくれ」



しっしと、強引に個室から、武器店内、店外へと力で押し出される。


チラっと店内に立てかけてある、自分の剣と似たような物を見つけ、


値段を見たら200ゴールド。


入口にあった、あのこん棒は80ゴールド。


意外と店員は力があるようで、俺たち2人あっという間に外に出された。



俺は、武器屋は初めてだし、剣の相場も知らなかった。


武器屋に入って浮かれてしまい、値札も見ていなかった。


だって、今まで使っていた剣は、女神アリサから初心者用だと


もらった物だから。



あぁやっちまった。


このお店は出禁になってしまった。


そんなに剣は高いのか・・・・・


俺とマリーは、外で風に吹かれながら、しょんぼりとしていた。



「おい、ショウ 、俺に当てがある」


「案内するから、ちょっと付き合え」


「俺も、こんなに剣の価格が高くなっているのを知らなかった」


「300年前なら、今持っている剣は、新品で50ゴールドだ」


「何とかしてやる」



スサーナから助け船があった。


武神の当てだから、きっと大丈夫だろう。

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