第6話 採集クエスト ①

今日も冒険者として、活動していく。


俺はマリーと一緒に、クエスト掲示板で内容を吟味ぎんみしている所だ。


「今、どんなクエストがある?」


「なるほどね・・・この商人の護衛があるけど、


 まだランクが足りないから無理だよな」


「最近、討伐ばかりだから・・・変わったのがいいですねぇ、


 この貴重薬草の収集とかが良いですぅ」


「報酬は安いけど危険性は少ないみたいだし、経験の為薬草でも採集しようか?」



俺は、掲示板に張り付けてある、このクエストの用紙を剥がして


冒険者ギルドの受け付けて持っていき、正式にクエスト受注をおこなった。



「カーラさん、このクエスト受注しますのでお願いします」


「ショウさんと、マリーさんの2人で活動するのですね」


「詳細はこちらなので、まず目を通して問題なければサインをお願いします」


カーラさんは、クエスト受付を主にしている受付嬢。


毎回、お願いしているものだから、顔見知りとなっている。



俺たちは念の為一緒に、クエスト内容を再確認してサインをした。


サイン後、背中に背負う大籠おおかごを2つ貸してもらった。



クエスト場所はこの王国から、東に徒歩1時間ほどの所にある、


カムロ森と呼ばれる場所である。


その森の中央に、高級回復薬の生成に必要な赤魔草あかまそうと呼ばれる草があり、


その採集である。


採集するのにだいぶ時間がかかると思われる。


3~4時間ほどかかる予想だけはしておく。



討伐クエストは、討伐対象を見つけて早ければ、ももの10分15分で倒して終了。


かかっても30分ぐらいがほとんどとなる。


まだレベルが低く、近場にいる弱い敵しか受注できないからという理由もある。



ダンジョン探索や、緊急討伐であれば、数日から数カ月かかる事もあるが、


まだアイアンというパーティーレベルでは受注不可である。


なので、採集は初心者クエストの中で、唯一時間のかかるクエストとなる。



貴重薬草と呼ばれ、カムロ森でしか無い草であるが、数多く茂っているので、


難易度は低く報酬は安い。


初心者のパーティー用のクエストと言っても良い。


仲良くなった受付嬢のカーラから聞いた話では、今の時期、冬眠から醒めた


魔熊まくまがたまに出るらしく見つけたら大声で叫ばないで、


静かにゆっくり離れるようにとアドバイスされた。


醒めたばかりであれば、行動が遅いから逃げられるそうだ。



道中、スライムだったり、大きなカエルのスタッガが出るぐらいで


ほぼ身の危険は少ないらしい。


冒険者ではなく、一般人からしたら採集は苦労するだろうが、


冒険を数回こなしている俺たちであれば、難なく達成可能であろう。



俺たちは、カムロ森へ向かい、中心部までたどり着き、


赤魔草が一面に生えている草原に到着した。


道中スライムが3匹ほどおり、討伐しながら進んできた。


そこは、今まで緑々としていた風景が赤紫色に瞬時に変わり、


異世界へと迷い込んだようにも感じた。



「こんな場所もあるんだね」


「綺麗だけど、何となく怖さを感じますぅ」


「ここ一面が赤魔草だから、これを収穫すれば良いって事か・・・」


「もしかして・・・魔獣を倒すよりも疲れるかも」


「もし疲れたら、私ヒールで回復するので頑張りましょう!」


こういう時に、心身回復できるヒールはとても頼りになる。



冒険者チームにとって、僧侶はとても需要がある。


それは、居る事によって各段に生存率が上がり、


クエスト達成されやすくなる事にある。


また、高額である回復薬の購入と使用が少なくて済むので、


余分な費用を払わずに済む利点がある。


マリーが居る事で、大助かりである。



「よし、時間を決めてまず1時間採集に集中しよう」


「福太郎に、中央の大木の頂上に停まって見張りお願いしてもらっていい」


マリーは、俺がフクロウの福太郎と話せるのを知っているので頼んできたが、


俺は福太郎が苦手である。


しょうがないので、ご褒美のおやつを用意してお願いする事にした。



「福太郎さん、あの俺たち赤魔草の採取するのですが、


あの大きな木の頂上で、何か危険な事が起きないか警戒してもらえませんか?」


話しかけても、福太郎は一切俺を見てくれない。


聞こえているはずだが、聞こえていないふりをしている。


冒険者用のバックから、乾燥肉を取り出して見せながら交渉してみる。



「あの、ここに乾燥した高級肉がありまして、


ご褒美として用意しているのですが」


横目でチラリをこちらに向けて、返答してくる。



「フン、まぁマリーの為だから、警戒してやる」


「報酬は、前払いだな」


「まちがってもお前の為じゃないからな」


そういうと、俺の手から高級肉を鋭い足で乱暴に足で奪い、羽ばたいて行く。


「ガッ バサバサバサ」


その際、勢いよく取っていくものだから、手首をくじいた。


痛みは一瞬だけ、ケガをした訳では無かったが心はケガをした。



福太郎はバサーバサーと翼を羽ばたかせながら遠のき、大木たいぼくの頂上に停まった。


そうだよね、分かっているよ・・・・・


マリーなら、やさしく取るよね・・・・


手をさすりながら、俺は心で泣いていた。


俺は仲良くしたいが、こればかりはしょうがない。



「ありがとう」


マリーの言葉に少しだけ救われる。


俺は、翻訳というスキルで誰とでも会話が出来るから、


指令やお願いは俺の仕事となる。


今のところストレスと言えば、福太郎との会話。


何とかマリーが福太郎にしつけをし、指令を出してもらえないかと願っている。



「頑張って摘んで行きましょう!」


マリーの元気な掛け声を聞いて、俺も気合が入る。


「まず1時間、集中してみよう」


「開始だーー!」


開始したとたん、マリーが小さくかがんで両手でテンポよく交互に赤魔草をつんで、


背中の籠にポンポンと放り込む


姿に思わず感歎かんたんの声を上げた。


「こいつはプロだ、凄いな」


マリーが、凄い勢いで摘んでいく様をみて、相手は本気だと悟った。


まてよ俺、採集でマリーには勝てなければ、すべて勝てないかもしれない・・・・


ステータス、強さやレベルも負けて、


クエストの貢献度だって常にマリーが上・・・・


採集ぐらいは、勝っておかないと立場があやういような気が・・・・・


「負けてられない」


俺にとって負けられない戦いが始まる。

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